◆第107回全国高校野球選手権岐阜大会▽決勝 県岐阜商10―0帝京大可児(28日・ぎふしん長良川)
27個目のアウトを取った瞬間、県岐阜商の左翼手・横山温大(はると)は全力でマウンドに突進した。「みんなが先に輪になっている姿を見て、優勝の実感が湧いた」。
生まれつき左指が欠損しているハンディキャップを抱えながらプレーをしている。「7番・右翼」で先発出場すると3打数3安打。さらに四球を2つ選んで全打席出塁を果たすと、盗塁も3つ決めた。藤井潤作監督も「今日のMVPは横山!」と絶賛。圧巻のワンマンショーだった。
3本目の安打は中学の時に同じチームでプレーをしていた元中日・川上憲伸氏のおい・川上洸晶(こうせい・3年)から。打たれた川上は「おじの憲伸さんから教わった、今まで誰にも打たれたことのない低めのカットボールを打たれた。完敗」と白旗をあげた。
横山はバッティングでは左打席に立ち、丸太のような鍛え上げた右腕の力で思いっきり振り抜く。守備では右手にグラブをはめて捕球し、瞬時にグラブを抱きかかえて同じ右手で送球する。
野球は小学3年から始め、当初は右打席で打っていたが、野球のレベルが上がるにつれ「(指が欠損している)左腕で強く振り抜けない」と考え左打者に転向した。
県岐阜商の前監督であり名将・鍛治舎(かじしゃ)巧氏が「あの活躍は努力の賜物」と評すれば、幼なじみの川上も「努力、技術がうまくレベルが上」と話し、チームの後輩で小学校の頃から仲がよい林新太(2年)も「小さい時から弱い姿を一切みせない。戦う姿勢、努力をし続ける姿勢が好き」と努力家を誰もが尊敬している。
そんな横山は「今まで打てたのは周りの人の支えがあったから。家族も自分以上に甲子園出場の夢があったと思う。その夢をかなえてうれしい」と周囲への感謝をつづった。
さあ甲子園。「こういう体でも戦えるんだぞというのをみせたい」と言葉に力を込め、「同じような症状を抱えている子たちにも勇気と希望を持ってもらえるようなプレーをしたい」と意気込んだ。みんなの思いも胸にして、聖地で横山温大が躍動する。
(綾部 健真)