◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 最近、日常会話のなかでよく「〇〇だった世界線」という言葉を耳にする。簡単に言うと、現実とは異なる「もしもの世界」を想像すること。

自らの人生を振り返るなかで、誰しも一度は「あの時に物事がこう動いていれば、今はどうだったかな?」とイメージを膨らませたことがあるだろう。

 昨秋のドラフト会議で、日体大の155キロ右腕・寺西成騎投手(22)がオリックスから2位指名を受けた。石川出身で根上中時代はU―15日本代表に選ばれ、星稜では1年夏に甲子園で登板した逸材。誰もが明るい未来を描いた。だが、2年秋に右肩を痛め、翌年に手術。その後は、試合で投げられない「空白の3年間」を過ごした。

 「もしも、けがをしていなければどんな投手になっていたか、と考えたことはある?」。大学3年春のリーグ戦で5勝0敗と鮮やかに復活し、プロ入りを果たした今だからこそ、寺西にこんな質問をしてみた。すると、返ってきたのは意外な答え。「けがをした方がよかった。投げられない分、どうやったら治るかを考え、他の練習を頑張ったので」

 寺西の言う「他の練習」のひとつは、一日1時間ほどのストレッチやトレーニング。故障をきっかけに肩周りを鍛えたことで、手術前よりも球が強くなったという。

もちろん、「休日でもやらなかったらウズウズしちゃう」というほどに習慣化するまで、毎日欠かさず取り組んだからこそ。かつて「スーパー中学生」と呼ばれた男は現実だけを見つめ、逆境を成長に変えた。

 「けがをしていなければ、プロ入りはなかった」。6月13日の巨人戦(京セラD)ではプロ初勝利。もしも、寺西が山本由伸のような大エースになったら―。これから始まる「世界線」に、ワクワクが止まらない。(オリックス担当・南部 俊太)

 ◆南部 俊太(なんぶ・しゅんた)2024年入社。趣味は草野球。

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