◆第107回全国高校野球選手権岐阜大会▽決勝 県岐阜商10―0帝京大可児(28日・ぎふしん長良川)

 新たに8校が代表に決まった。岐阜では、名門・県岐阜商が3年ぶり31度目の夏切符を手中に収めた。

生まれつき左手指が欠損しているハンデを抱える横山温大(はると)外野手(3年)が、3打数3安打3盗塁の大活躍で大勝に貢献した。29日は決勝3試合が行われ、49代表校が出そろう。

 27個目のアウトを取った瞬間、県岐阜商・横山は左翼のポジションから全力でマウンドに突進した。「みんなが先に輪になっているのを見て、優勝の実感が湧いた」。満面の笑みが広がった。

 生まれつき左手指が欠損しているが、ハンデを感じさせない。決勝は「7番・右翼」で先発し、3打数3安打、2四球で全打席出塁。6回に放った右前適時打は、帝京大可児の3番手で、小、中と同じチームでプレーをした元中日・川上憲伸氏のおい・川上洸晶(こうせい、3年)から。打たれた川上は「おじから教わった今まで誰にも打たれたことのない内角低めカットボール。完敗」と白旗を揚げた。50メートル6秒2の俊足で3盗塁も決めて10―0の大勝に貢献し、藤井潤作監督(53)も「今日のMVPは横山」と大満足だった。

 168センチ、71キロと小柄だが、パワフルな左打者だ。

県大会は6試合全てで安打を放ち、19打数10安打。「右手も左手の分まで。右だけでダンベルやベンチプレスを持って」と鍛え上げた丸太のような右腕でバットをコントロールし、左の拳の部分でグリップを支えて押し込む。「自分が納得するまで毎日練習。多いときには300から400振った」という猛練習で、部員78人の超名門で背番号9を勝ち取った。

 

 守りでは右手にはめたグラブで捕球すると、瞬時に左手で抱きかかえて同じ右手で送球。この試合でもスムーズに打球をさばいた。「握り替えをいかに速くするか苦労してきたので」。そんな努力家を小学校の頃から仲のいい後輩で、スタンドから声援を送った林新太選手(2年)は「弱い姿を一切みせない。戦う姿勢、努力し続ける姿が好き」と慕う。

 胸に刻む思いがある。「こういう体でも戦える姿を見せたい。

同じような子どもたちに、勇気と希望を持ってもらえるようなプレーを」。使命感も抱き、甲子園の土を踏む。(綾部 健真)

 ◆ハンデを克服した選手 ジム・アボットは生まれつき右手首から先がなかった左投手だが、88年ソウル五輪金メダルに貢献。同年ドラフト1巡目(全体8位)でエンゼルス入りし、91年に18勝。ヤンキース時代の93年にはノーヒットノーランを達成した。右利き用のグラブを使い、グラブを右手首に乗せ、投球後に素早くグラブを左手にはめ直す「アボット・スイッチ」は見る者に勇気を与えた。今夏新潟大会では生まれつき右手の指5本とも付け根から欠損している高田農・長谷川旺希外野手(2年)が、左腕1本でヒットを放った。

 ◆横山 温大(よこやま・はると)2007年7月17日、岐阜・各務原市生まれ。18歳。小3で野球を始め、緑陽野球スポーツ少年団、愛知江南ボーイズを経て、2年秋からベンチ入り。中学までは投手と内野手、高校から外野手に転向。好きな食べ物は母が作るカレーライス。

家では尾崎豊の曲を口ずさむ。168センチ、71キロ。右投左打。

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