メジャー通算3089安打を誇り、アジア人選手として今年1月に初めて米国野球殿堂入りを果たしたイチロー氏(51)=マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター=が27日(日本時間28日)、米ニューヨーク州クーパーズタウンで表彰式典に出席した。英語で、笑いあり、涙ありの19分間の名スピーチを披露し、弓子夫人、野茂英雄氏ら恩人に感謝を伝えた。
小さな野球の聖地は“小さなレジェンド”を待っていた。悪天候により、1時間遅れで始まった式典。イチロー氏ら今年殿堂入りした3人を祝うかのように雨は上がり、会場には太陽の光が差し込んだ。現地午後5時過ぎ。紺のスーツに白いシャツ、水色のネクタイ姿で“主役”が壇上に上がると、会場から「イチローコール」が巻き起こる。5時9分。英語による19分間のスピーチが始まった。
初めての体験を「ルーキーになるのは(日米のデビューの時と)これで3度目」と表現したイチロー氏は「こんな場所が存在することすら知らなかった日本育ちの子どもが、野球の聖地にたどり着いた」と胸を張った。01年に日本人野手として初めてのメジャー挑戦。04年に歴代最多のシーズン262安打を記録するなどした希代の安打製造機の言葉には世界が注目した。無料イベントの表彰式典。
準備と継続の大切さを説いたイチロー氏は数々の恩人への感謝も伝えた。「英語で話すことが一番(米国の人たちにも)気持ちが伝わる」と猛練習を重ねた演説の中で唯一、日本語を使用した場面がある。「野茂さん、ありがとうございました」。オリックスで94年から7年連続首位打者。目標を失いかけていた時、ドジャースで大活躍する野茂英雄氏の姿が目に飛び込んだ。「MLBは常に日本でニュースとなり、テレビ放映されました。野茂さんの勇気によって、私は突然、想像もしなかった場所で挑戦しようという考えに至りました」。元選手の殿堂入りは278人。MLBでのプレー経験者の約1%という狭き門だが、トルネード右腕の存在が今回の快挙にもつながった。
涙を誘うような話がありながら、ジョークで笑いも誘うのが“イチ流”の話術だ。今も正体不明の1人の記者が投票しなかったことにより、イチロー氏は史上2人目となる満票での殿堂入りを逃した。
スピーチの締めくくりは、この日も白いドレス姿で見守ってくれた妻・弓子さんへの感謝だった。「私は選手として確実性を追求しましたが、私が得た最も確実だったチームメートは彼女です」。19年の引退後、夫婦でマリナーズの本拠地を訪れ、客席から野球を眺めた。「現役時代には一度もできなかったデートをしました。アメリカ流にホットドッグを食べてね」。静まり返っていた会場に、再び「イチローコール」が起きる―。MLB公式サイトも「感動とユーモアで殿堂入り式典の主役に」と評した名スピーチには、鈴木一朗の人柄が詰まっていた。
◆イチロー(鈴木一朗=すずき・いちろう)1973年10月22日、愛知県生まれ。51歳。