◆JERA セ・リーグ 中日0―2巨人(30日・バンテリンドーム)

 巨人・戸郷翔征投手(25)が復活への一歩を記した。2度目の2軍降格から復帰戦に臨み、中日打線相手に6回4安打無失点、7奪三振で6月8日の楽天戦以来、52日ぶりとなる3勝目を挙げた。

立ち上がりにピンチも背負ったが、粘りの109球。打線も6回に岸田、増田陸の連続タイムリーで援護した。完封リレーを締めたマルティネスが4年連続30セーブをマークし、チームは勝率を5割に戻した。首位・阪神には優勝マジック「39」が点灯したが、あきらめずに追う。

 意地とプライド、悔しさ。戸郷は強い思いを込めて投げ込んだ。打者を打ち取ると表情を崩し、捕手・岸田と笑みを交わした。6回、2点の援護をもらった直後の守備。まずは田中を147キロで見逃し三振。上林に中前打を許したが、細川をフォークで空振り三振。ボスラーに四球を与えた後、最後は板山を148キロで遊ゴロ。戸郷コールを浴びながら、ホッと息を吐いた。

6回109球4安打無失点で6月8日の楽天戦以来の白星となる3勝目を手にし「無失点に抑えられたことが一番。まだ始まったばかりですし前半戦の借りを返したい」と意気込んだ。

 泥臭くてもいい。勝利のためにガムシャラだった。初回から3イニング連続で走者を背負うも、本塁は踏ませず。変化球にばらつきはあったが「直球の質の良さを取り戻せたことが勝利の要因だと思う」。最速151キロの直球は力強かった。4、5回は3者凡退。7Kを奪いながら無失点投球。阿部監督は「いい投球だった。エースに勝ちがつくのは大きいこと」とうなずいた。

 心に響いた言葉がある。

開幕投手を務めながら6月22日の西武戦(東京D)で6敗目を喫し、2度目の2軍降格。その試合を宮崎・聖心ウルスラ学園時代にバッテリーを組み、プロ入り後も自主トレを手伝う友人が観戦していた。本来の投球ができずに思い悩む中、プライドを捨てて質問した。「感じたことがあったら教えてほしい」。一度は「プロ相手に言えるわけないだろ」と断られた。それでも「俺の人生に関わることだから言ってほしい」と頭を下げた。

 詳細は2人だけの秘密だが、体の使い方やデータに頼り過ぎない「らしさ」を見失っていることに気がついたという。「昔から知っている人は視点が違う。僕の頭にはない、忘れてたんだって、ありがたい意見だったし、いい時間だった」。友人の言葉で“原点”に戻れた。約1か月のファーム生活では桑田2軍監督とフォームの見直しや直球の精度を上げることに重きを置き「らしさ」が戻ってきた。

 もちろん温かい言葉だけではなかった。

高い期待を受ける巨人のエースには、周りから厳しい言葉も飛んだ。それでも「1軍の舞台に立つことに怖さや不安はない」と言い切った。「そう感じるぐらいならやらない方がマシ。弱い気持ちを持つなら僕はそれまでの選手だと思う」。このままでは絶対に終わらない―。強い思いが勝利につながった。

 「負けが続いている中で、ひとつ勝つことの難しさを感じましたし、良い経験ができた」とすっきりした表情で球場を後にした。壁を乗り越え、手にした勝利を胸に、ここから巻き返す。(水上 智恵)

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