メジャーリーグで、あの試合の裏側や日本人選手の頼れる同僚の秘話など、“サイドストーリー”に焦点を当てる「My Loving Baseball」。第6回はカブスの今永昇太投手(31)の専属通訳を務めるエドウィン・スタンベリー通訳(29)に迫った。

メジャーの選手と見間違うほどの筋骨隆々な体格で注目されることも多いが、「投げる哲学者」の異名を取り、アメリカでもその独特なキャラクターで人気の今永をサポートするため、地道な努力を積み重ねる。

 カブスのエース格としてメジャー2年目のシーズンを戦う今永。「投げる哲学者」の異名を取る独特のキャラクターも人気を博しているが、そんな左腕の言葉を正確に英語で届け、現地のファンに浸透させた縁の下の力持ちが、エドウィン・スタンベリー通訳(29)だ。

 日系アメリカ人の父と日本人の母を持ち、日本で生まれて程なくして米ワシントン州に移ってシアトル郊外で育った。英語を話す祖父も同居し、家では日本語と英語が飛び交う中、保育士だった母は、子供の日本語の習得に力を入れた。家には日本の漫画やアニメの録画がたくさん。中でも「ドラゴンボール」がお気に入りで、主人公の孫悟空が修行を重ねて強敵を打ち倒すストーリーに感化された。

 「たとえば腕立て伏せ100回やるとか、ダッシュを繰り返すとか、小さな頃から反復練習を毎日やっていました。続ければ強くなれるというのは今も自分の中にあると思います」

 特徴的なのは、筋骨隆々の体格だ。野球好きの父とキャッチボールを始めたのは3歳の頃。小学校ではリトルリーグで捕手をつとめた。その後も野球を続け、ハワイの大学でプレーした後、独立リーグに進み、一塁を守った。

しかし新型コロナウイルスが猛威を振るい、2020年にリーグがシャットダウン。「野球ができなくなり、コンディショニングのインストラクターの資格をとりました。何かをやり続けていたくて、野球の代わりになったのがパワーリフティングでした」と振り返る。

 筋肉トレーニングは今も継続。シーズン中でも時間を見つけて励み、シーズンオフには毎日2時間半を費やすという。今は620パウンド(約281キロ)のバーベルを上げるという。「選手よりもムキムキな通訳さん」と話題になることもあり、実際に24年、今永が渡米1年目でオールスターに選出された際に「僕の名前と顔を知らない選手が、間違えてエドウィンのことを今永と呼ばないか。不安ですけど…」と冗談めかして話したほど。肩周りや胸板の厚みはメジャーのスターと並んでもひけを取らない。

 今永の専属通訳になって約1年半。独特の感性を持つ左腕の日本語のニュアンスや意図をくみ取り、それに近い英語に訳す。通訳を務めた会見や囲み取材の録画や録音は、その日のうちに必ず見直し、聞き返して復習する。

 「今永投手が言った通りに訳したいんです。一字一句逃したくないし、僕が何かを省いたり、つけ加えたら意味が変わってしまう。だから会見を見返して良かったところも悪かったところも毎回チェックして、反省して練習します」

 現在の課題は、訳しながら話す際に「あー」とか「えー」という間投詞を言わないこと。「今永さんのコメントが掲載された英語の記事に、僕が訳を言いながら次の単語を考えているときに言った“Uh”(えー)という部分まで引用されていたんです。だからそれを言わない練習をしています。“Uh”と言うくらいなら、沈黙する方がいい」。自分に厳しい課題を科していくスタイルは、幼少期に観た「ドラゴンボール」の影響かもしれないと笑う。

 そんなスタンベリー通訳に、今永も絶大の信頼を寄せる。

 「通訳は、アメリカで英語がわからない人間にとっては時には脳であり、僕の考えの代わりとなってくれる人。エドは通訳力はもちろん、語彙力もあり、すごく助かっています。僕のパーソナリティーがアメリカで少しずつ認められてきているのも彼のおかげだなと思っています」

 メジャーリーグの通訳になった今でも「もっと強くなりたい」という気持ちは変わらないというたくましいスタンベリー通訳。これからも筋トレと反復練習を続けながら、日本人メジャーリーガーたちを力強く支えていく。

(村山みち通信員)

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