◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 二重の大きな意味を持つ挑戦をしてきた巨人・乙坂智外野手の背中がたくましく映った。「進んできた道に後悔はないですよ。

少しは可能性も見せられたかな」。7月に巨人へ加入するまで、メジャーの夢を追いかけて異国でプレー。21年オフにDeNAを退団してから、メキシコ、ベネズエラ、米独立リーグなどで腕を磨いてきた。「メジャーでやりたいという小さい時からの思いからですね」。いつクビを通達されてもおかしくない契約、長時間移動など日本とは全く異なるシビアな環境。それでもMLBでプレーするために心は折れなかった。

 自らの野望を実現するためだけではない。パイオニア精神も胸に宿して奮闘していた。メジャー入りを実現するためにはNPBで活躍して海外FA権を行使するか、ポスティングシステムを利用して海を渡ることが一般的。日本人選手が中南米のリーグなどからMLBを目指したケースはほとんどない。「相当きついけど、面白いことをしたかった。メキシコとかを経由してメジャーに行ったら後々の選手にも行ける、このルートもあると示せる。

あの人で行けるなら俺も行けるって、勇気も与えられるかな、と」。今年の5月には、マイナー契約ながらマリナーズと31歳にして異例ともいえる契約を勝ち取った。最終的にメジャー昇格は果たせなかったが、あと一歩のところまで到達した。

 日本球界に復帰後、ここまでは主に2軍で牙を研ぐ日々を送る。ただ、これまで何度もはい上がってきた。シーズン最終盤、そしてポストシーズン。唯一無二のストーリーを紡ぐ乙坂が、輝きを放つ瞬間を待ちたい。(巨人担当・宮内 孝太)

 ◆宮内 孝太(みやうち・こうた) 22年に入社。23年からは巨人担当。

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