◆JERA セ・リーグ 広島5―0巨人(23日・マツダスタジアム)

 石塚の両手には確かな感触が残っていた。記念すべきプロ初安打を放ち一塁を回ると待望の時を静かに喜んだ。

「今シーズン中に1本打ちたいというのは思っていたので、それは達成できてよかった」。ベンチで祝福する先輩たちの姿が目に入ると、少しだけ口元が緩んだ。

 5回2死、先発の戸郷の代打で出場すると玉村の初球、140キロ直球をコンパクトにはじき返す中前安打。プロ通算4打席目で「H」ランプをともし、設定していた目標「1年目でプロ初安打」をクリアした。球団の高卒新人安打は23年の浅野以来だ。

 昨年10月24日、巨人からドラフト1位指名を受けた。背筋が伸びた。「プロになるのが夢で、なれて。プロで活躍することがまた次の夢になった」。高校野球を引退しても毎朝後輩の練習が始まる30分前にグラウンドへ向かったのは夢をかなえるため。指名を受けたと同時にその夢はさらに大きくなった。「今までたくさんの犠牲を払ってプロになった。

さらにいろんな犠牲があると思うけど、僕が小さい頃憧れたように、憧れてもらえるような存在になれるように。プロ野球選手ってそういう職業かなと」。その第一歩を踏み出す安打が生まれた。リードを許す苦しい展開の中、広島のG党をわかせた。

 もどかしさを味わってきた。3月の開幕直前に左手有鉤(ゆうこう)骨を骨折し、7月にも左三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷で離脱。「焦ってもしょうがない」と口にしてはいたが本音は「早くやりたいって思いましたよ、本心は」。幸運だったのはファームで調整する坂本ら憧れのベテランが時間をかけて準備する姿を近くで見ることができたこと。吉川には守備を教わるなど、時間を最大限有効に使った。

 骨折から復帰直前の5月上旬。岡本が左肘靱帯(じんたい)損傷で故障班入りし、風呂でばったり会った。「いつ復帰するの?」。

10年違いの高卒ドラフト1位同士、言葉を交わした。「俺は8月末くらいになっちゃうかな。その時一緒に1軍でできるといいね」。うれしかった。2軍では打率3割2分5厘と好成績を残し、目指し続けた1軍の舞台にはい上がった。初出場で遊撃を守った14日のDeNA戦(横浜)では横に、岡本がいた。

 初安打にも笑顔は控えめだったのは、チームが敗れたから。「2位争いが激しい中で、ベンチで経験させてもらっている。勝利に貢献したいというだけです」。今は同僚となった坂本、岡本も経験した高卒新人安打から、石塚がスター街道を歩み始める。(臼井 恭香)

 ◆宮本和知Point 石塚は構え、体つきに貫禄がある。高卒ルーキーのそれじゃない(笑)。

5、6年やっている1軍選手と遜色ないし、和真(岡本)のような骨太な感じを受けるよ。僕が監督をしている巨人女子チームが夜にジャイアンツ球場で練習していると、彼はよく室内に打ちに来るんだ。日々の努力も見ているし、応援したくなる選手。勇人(坂本)、和真、その後に続いていきそうなスター性を感じるよ。(スポーツ報知評論家・宮本 和知)

 ◆石塚 裕惺(いしづか・ゆうせい)2006年4月6日、千葉・八千代市生まれ。19歳。幼稚園年長から勝田ハニーズで野球を始め、佐倉シニアを経て、埼玉・花咲徳栄では1年秋からレギュラーで3年夏の甲子園出場。高校通算26本塁打。U18アジア選手権は日本代表の4番を務め、準優勝。182センチ、84キロ。右投右打。年俸1200万円。

 〇…阿部監督が試合前に石塚を特訓した。雨天の影響で室内で打撃練習を実施。指揮官が打撃投手を務め、石塚は約20分間ぶっ通しでバットを振り続けた。「練習量を確保しないと。野球に必要な筋力をつけるには振るしかないから」と狙いを説明。期待のドラ1は「監督に直々にやっていただけるのはすごく幸せ」と感謝し、試合ではプロ初安打を放った。阿部監督は「ここからがスタートだと思って、練習量は落とさないでやってほしい」と願った。

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