2月のミラノ・コルティナ五輪フィギュアスケートのペアで、日本史上初めて金メダルを獲得した三浦璃来(24)、木原龍一(33)組=木下グループ=が28日、都内で引退会見に臨んだ。「りくりゅう」は17日にSNSで引退表明を行っており、木原は「五輪で優勝した時点で引退だねという話をした」と理由を説明。

「かけがえのない7年間」(三浦)「最高のパートナー」(木原)と、共に歩んだ日々を振り返った。今後はプロとしてペアの普及に努めるとともに、将来的には指導者の道へ進む。今後の日程として、直近は木下グループ主催のアイスショー「ブルーム・オン・アイス」(5月1、2日に兵庫・尼崎スポーツの森)。兵庫出身の三浦は、五輪金メダリストとして初の地元凱旋公演となる。

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 木原はあふれる思いをこらえきれなかった。会見冒頭、三浦が「皆さま、このたびは私たち三浦璃来、木原龍一組の」と語り左を向くと、木原が顔をくしゃくしゃにしていた。まだ始まって5秒。三浦は「泣かないで、泣かないで」と、笑顔で相棒をさすった。「何か困った時に、いつも助けてくださる方々が周りにいっぱいいました。ありがとうございました」と木原。目を真っ赤にして頭を下げた。

 昨年5月、練習拠点のモントリオールで振付師に「来季が最後になるかもしれない」と打ち明けた。

別の曲でのフリーの振り付けが始まっていたが、「絶対にこれ」と、イタリアが舞台の「グラディエーター」に2人で決めた。「絶対に優勝して(現役を)終えようという思いを持っていた」五輪は、SPで5位発進となり「もう4年…」ともよぎったが、史上最大の逆転劇で金。世界歴代最高得点を出し、歓喜の涙の中「これで引退だね」と、引き際を決めた。

 2019年夏、トライアウトで技を試した際「雷が落ちた(木原)」という衝撃から始まった「りくりゅう」。練習環境を確保するため、カナダに渡り「一切隙のない生活をしてきた」と、二人三脚で歩んできた。普段、三浦は「龍一君」と呼ぶことが多いが、この日は「木原さん」と呼び、「木原さんと組んだ7年間は、選手としてだけでなく、人としても成長できた。かけがえのない7年間だった」。木原も「璃来ちゃんとじゃなければここまで来られなかった。最高のパートナーに感謝している」と時折互いに見つめ合い、思いを込めた。

 GPファイナルや世界選手権など主要国際大会全制覇を達成した。13年からペア競技に取り組み、五輪4度を経験した木原は黎明期からペアの地位を押し上げた。「僕にとって、スケートは人生そのものだった」。

29年間を振り返り、しみじみと語った。

 今後はプロスケーターとして活動し、4、5年後を見据えて指導者の道を志す。かねて「日本をペア大国に」としてきた。競技普及のため、国内各所でアイスショーやスケート教室などの構想を持つ。「将来的には(全日本で)自分たちの生徒だけで、表彰台を埋めたい」と三浦。木原も「スケートの入り口がシングルではなく、ペアをやりたいからやるという子を増やしていきたい」と続いた。足並みをそろえ「りくりゅう」が新たな一歩を踏み出した。(大谷 翔太)

 ◆木下代表「アカデミー」作りたい

 会見に同席した木下グループの木下直哉代表(60)は「将来的には2人のアカデミーをつくりたい」と“りくりゅうアカデミー”の構想を明らにかした。以前から「引退したら2人にはコーチをやってもらいたかった」と思案していた木下代表と、「りくりゅう」として「日本をペア大国にしたい」という思いが一致。木下代表は日本国内での指導に積極的な姿勢を示した。

 指導者になるためにはコーチングの資格取得が必要となる。本格的に始動するのは4~5年後という。

りくりゅうはこれまでカナダを拠点とし、三浦は「言葉の壁もあった。すごく大変な思いをした」。木原は「最初の一歩が国内にできるようになる。(ペアを)やってみようという子が増えてほしい」と描いた。三浦は「自分たちの生徒で全日本選手権の表彰台を埋めたい」と後進育成への目標を語った。(富張 萌黄)

 ◆「りくりゅう」に聞く

 ―五輪を一言で表すと。

 三浦「一番最初に出た(22年北京)オリンピック。すごく緊張していたけど、木原さんから『オリンピックも普通の試合と変わらない。練習と同じように臨めばいいんだよ』と。この言葉が一番救われて、自分たちらしい演技ができた」

 木原「『涙』。初めて出場したソチも世界との壁を痛感して、試合後に母から『もう帰ってきていいよ』と。僕が頑固だったので大丈夫と言いながら泣いていた。

北京も、今回のミラノも必ず泣いていたかなと」

 ―一番印象的な試合。

 三浦「結成3か月で出たグランプリ・シリーズのNHK杯。一発で世界選手権のミニマム(最低技術点)を取れ、日本人同士(のペア)でも世界に通じるかもしれないという思いが芽生えた初めての試合だった」

 木原「ミラノ・コルティナ五輪。本番(のショートプログラム)でリフトのミスが出てしまって、自分の気持ちも崩れた。いつもは僕が引っ張るタイプだったが、璃来ちゃんが僕を引っ張ってくれた。たくさんの方々に支えられてきたと感じた試合だった」

 ―現役生活を一言で表すと。

 三浦「努力。お互いのために努力し合える仲になったので、つらいことも2人で乗り越えてきた」

 木原「僕も努力。お互いが努力している姿を見てきた」

 ―信頼の秘けつ。

 三浦「9歳差があるけど、思ったことは隠さずに言う。氷上ではぴったりだけど、私生活では真逆。新しい発見、全然違うからこそ一緒にいて楽しい」

 木原「行動が伴ってないとお互いを信頼することができない。

近くで努力する姿を見てきたことが信頼に繋がったのかなと」

 ―引退して。

 三浦「アイスショーのために、身体作りは常に、しないといけないので」

 木原「ジム、行ってないでしょ」

 三浦「シーッ(笑)。身体作りはしないといけない。やっぱり、ペア競技なので。お互い…」

 木原「ジム行ってないですよ」

 三浦「うるさい! フフフ」

 木原「はい、すいません」

 三浦「筋トレします」

 木原「最近しっかりと練習ができていなかったので、体重が増えてきた。初めてちゃんとしたスーツを作ったので、太って着られなくなってしまったらどうしようというプレッシャーがあります」

 ―会見に向けて準備はしていた?

 木原「最初の挨拶は練習していたけど、璃来ちゃんはメモを持参していました。さすがに初めから泣くことはないなと思っていたけど、裏で色んな方に見送って頂く時にスイッチが入ってしまって。璃来ちゃんに『今泣くのは早いでしょ』と言われた」

 三浦「もう、涙もろいイメージがついてしまったね(笑)。立場がね、私が引っ張っていく立場になってしまったね」

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