◆JERAセ・リーグ ヤクルト0―2巨人(19日・いわき)

 待ちに待った1勝だ。巨人の戸郷翔征投手(26)が今季3度目の先発で初白星を手にした。

不振にもがき、開幕ローテからも外れた男が、首位ヤクルトを7回5安打無失点。24年7月以来、阿部政権下では最長タイとなる7連勝に導いた。打線は、平山功太内野手(22)が自身初の初回先頭打者本塁打を放つなど、立ち上がりの速攻で2点を援護。巨人は福島・いわきでは16年ぶりの勝利を挙げて貯金を今季最多の6とし、首位に1・5差に迫った。

 勝利の瞬間、戸郷はゆっくりとベンチから歩み出た。苦闘の日々を振り返りながら、いわきのファンの笑顔を見渡すその顔は、どこかスッキリとしていた。7回115球、5安打無失点で待望の今季初白星。「最近いいピッチングができていなかったですし、1年半ぐらい苦しい投球が続く中でも監督も使ってくれて。その期待に応えられてよかったです」。先発勝利は、昨年9月17日のヤクルト戦以来、244日ぶり。お立ち台で喜びをかみしめた。

 感情が爆発した。

2―0の3回には安打や四球で1死満塁としたが、中軸を迎えた。内山を空振り三振。さらに増田には自己最速にあと1キロに迫る153キロ速球で中飛に打ち取り、雄たけびを上げてグラブをたたいた。常時150キロ台を計測した直球にスライダー、フォークで5K。「いい投球ができることは自信になるし、今までの自分に少し近づいたかな」と胸を張った。

 長いトンネルだった。25年は開幕投手を任されたが2度の2軍降格もあり8勝9敗、防御率4・14。描いていた姿には遠かった。「信頼を取り戻したい」と復活に燃える今季。リリースポイントが知らず知らずのうちに上がっていたことで球威が落ち、制球にも影響していたと分析した。リリースの位置を下げるフォーム改造に着手したがオープン戦3登板で防御率9・00と結果が出ず、開幕は2軍スタート。「もちろん受け止めないといけないけど、本当に悔しい、苦しいことですね」。

気持ちよく腕を振り抜き、球速以上に威力を感じる真っすぐ。理想を追い求め、もがいた。

 脳裏に刻まれた大エースの姿が手本だった。2軍調整中には苦手な読書にも挑戦。故・野村克也氏の著書「プロ野球 最強のエースは誰か?」を読んだ。戸郷にとっての最強のエースとは―。「そりゃあ、一択。菅野智之ですよ」。忘れられないのは24年のCS最終ステージ第6戦の光景。菅野は同点で迎えた9回2死三塁からDeNA・牧にカットボールを捉えられ、左前適時打を浴びて敗れた。

 「菅野さんには『後悔をしない選択をしなさい』って言われてきた。菅野さんは『何回同じ場面が来てもカットボールを選択する』って。

だからこそ尊敬できる先輩なんです」。昨年は何を投げても打たれた。自信がなくなり、捕手のサインに首を振ることも少なくなった。「自分の気持ちが“薄く”なっていた。自信を持って投げたい」。納得した球を投げ込んだからこそ、表情は明るかった。

 感謝の思いも表現した。聖心ウルスラ学園時代、2年生で背番号1をつけたが、その自分に悔いがある。「僕、仲間がエラーするとめちゃくちゃどなってたんですよ。監督に呼ばれて『チームの柱となる人は、いろいろなことがあると思うけど、最後は人間性』って言われて」。不調時の映像を見直してハッとした。「僕の表情が悪ければチームの士気も下がる。

悪い時はそれが顔に出ていた」。巨人のエースとして恥じぬ姿を。その思いを胸にとどめ、腕を振り抜いた。

 次回は中7日で27日の交流戦・ソフトバンク戦での先発も決まった。「先発ピッチャーとしての1勝は、すごくうれしいし、その感情でいっぱいです」。忘れられない通算64勝目。復活への大きな一歩を踏み出した。(水上 智恵)

 ◆高橋由伸Point 今の戸郷は何より勝ちが付かないと、自信を持てなくなる。ようやくでも、勝てたことが良かった。ただ、直球、変化球への手応えはどうなのか。見ている限りは昔のような圧倒的なものではなかった。しかし、よく粘ったと思う。

全盛時の戸郷を求めるのか、今できる範囲の球で勝負していくのか。そこから新たな形を作っていくのか。そこをしっかり見極めていくことが大事になると思う。7回を5奪三振。以前より空振りが取れない中で、どう打たせるか。戸郷次第ではまた「勝てる投手」になるのではないか。(スポーツ報知評論家・高橋 由伸)

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