◆報知プレミアムボクシング ▽激闘の記憶 第15回 WBC世界バンタム級(53・5キロ以下)タイトルマッチ12回戦 〇山中慎介(KO 7回36秒)トマス・ロハス●(2012年11月3日、ゼビオアリーナ仙台)

 日本歴代2位の12連続防衛を誇る元WBC世界バンタム級チャンピオン・山中慎介(帝拳)のV2戦。2階級制覇を狙う元WBC世界スーパーフライ級王者トマス・ロハス(メキシコ)の挑戦を受けた山中は、テクニシャンのロハスからパワーで主導権を握り、7回に破壊力満点の左ストレートでKO勝ち。

見ているファンが恐怖を感じるほどの衝撃的なラストシーンを生み出したパンチは、直後に「神の左」と名付けられ、山中のニックネームとして定着。唯一無二の「左」は安定政権を予感させ、5年9か月という長期間べルトを守り続けた。(敬称略)

 挑戦者の体が「ストーン」と垂直に沈み、両膝がキャンバスにつくと、顔から崩れ落ちていった。7回、山中が放った戦慄(せんりつ)の左ストレート。レフェリーはすぐにロハスが続行不能と判断。興奮した山中がニュートラルコーナーに駆け上がると、衝撃的なKOシーンを目にしたに会場のファンも絶叫した。そして海外ボクシングに精通する実況席の高柳謙一アナウンサーも叫んだ。

 「これが山中の左です。何という左だぁ~。ここ最近、世界のボクシングでナンバーワンのKOシーンではないでしょうか。それほど衝撃的なシーンでした」

 柔軟なスタイルから難攻不落と表現されてきたロハス。スーパーフライ級時代は河野公平(ワタナベ)、名城信男(六島)を下した実力者に対し、山中は序盤から思い切り仕掛けていった。

左ストレートを強振して空振りするシーンもあったが、その迫力に挑戦者は尻込みした。6回には逆に左ストレートをもらうが、直後に左でぐらつかせ、7回のフィニッシュへとつなげた。

 山中を応援する友人たちも、KOシーンの「左」に衝撃を受けた。そしてマルコム・ツニャカオ(フィリピン)との3度目の防衛戦(2013年4月、12回TKO勝ち)が決まると、中学時代の同級生が考え、用意した応援Tシャツには「GOD LEFT」とプリントされ、これが「神の左」の始まりとなった。ロハスを一撃で失神さえせたシーンは、友人の目から見ても神の領域に達していたのだろう。山中の強打をリアルに表現した「神の左」は、本人の代名詞となり、知名度アップにも大きく貢献していった。

 ロハス戦が行われたのは東北地方最大の都市・仙台。前年の3月11日には未曽有の大惨事となった東日本大震災が発生。山中は初防衛戦後の12年5月に仙台に足を運び、「自分に何かできることはないのか」と、がれき撤去のボランティア活動に参加した。更地となった大地を見て「震災前は人が住んでいたんですよね」と絶句した。「ボクサーとしてやれることをやる。自分のファイトで東北の方々に元気になってもらいたい」という願いを胸にロハス戦のリングに臨んだ。

 「試合前のアップをしている時から『調子がいい』と実感できた。一番コンディションがいい状態でリングに上がった試合。自分ではキャリアの中で最高のKO勝利だったと思う。ベストKOだと自信を持って言えます」と「神の左」が誕生した試合を今でもうれしそうに振り返る。V2戦のロハス戦をスタートに5連続KO防衛に成功する。世界挑戦から12度目の防衛戦まで13回の世界戦勝利で、9度のKO(TKO)勝ちという筋金入りのハードパンチャーだった。

 引退から8年以上がたち、今度は「神の左」の後継者が世界に挑む。ジムの後輩で同じバンタム級の増田陸が、20日に両国国技館で2階級制覇を狙う比嘉大吾(志成)とWBA世界同級王座決定戦を行う。増田は山中と同じサウスポーで10勝(9KO)1敗の強打者。山中自身も「シン・神の左」の誕生を願っている。

 ◆山中 慎介(やまなか・しんすけ)1982年10月11日、滋賀県湖南市生まれ。43歳。

南京都高(現・京都広学館高)1年からボクシングを始め、3年で国体優勝。専大を経て2006年1月にプロデビュー。10年6月に日本バンタム級王座、11年11月にWBC世界バンタム級王座を獲得すると12度の防衛に成功。18年3月に引退を表明。170センチの左ボクサーファイター。戦績は31戦27勝(19KO)2敗2分け。家族は妻と1男2女。

編集部おすすめ