今日は文化財の保護にも繋がりそうな技術について取材してきました。

最近、文化庁が国立の美術館・博物館に対し、運営体制の見直しを求める方針を示したことが話題になっていますが・・・そうした中で、東京藝大の特許技術「クローン文化財」というものを見つけました。

名前の通り全く同じもの「クローン」を作る複製技術なんですが、詳しい方法について、東京藝術大学の宮廻正明 教授に伺いました。

東京藝術大学 名誉教授・宮廻 正明さん

ほぼデジタルで作ってしまうんです。最初は正面からだけじゃなくて、横からの光とかで厚みを0.1ミリ単位ぐらいで3Dスキャンで記録することができるんです。ゴッホの絵なんかは凸凹がありますので、3Dスキャンで撮ればその凸凹も全部スキャンできます。白い色でその凸凹を全部作ってしまうんです。その上に色をプリントした紙を貼り付けると、その凸凹の出た部分とへこんだ部分の色が重なっていくわけですよ。そして最後に上に塗るのは、本物と同じ科学的に分析した色を薄くコーティングしていくんです。
人間がやった模写は癖が出るんです。だけどこのクローンには機会がやるから癖がないんですよね。だから客観的に見えたものができているっていうこと、そこが大きいと思います。

コピーではなく、クローンなんです。

コピーは見た目だけが似たように作られたものを指しますが、クローン文化財は3Dスキャンなどの「デジタル解析」と、熟練のプロ絵師による最後の手作業とで、見た目も中身も全く同じものを作り上げています。

また、精密がゆえに、悪用されるケースも・・・?
その点については、技術の特許をしっかり出していることや、オリジナルを持つ美術館しか保持できない、所在をはっきりさせるなど管理を徹底しているそうです!

一方で、クローン文化財を展示している美術館からは、こんな意見を聞く事が出来ました。
ジャン=フランソワ・ミレーの作品を常設展示している、山梨県立美術館・学芸員の太田智子さんに、ミレーの代表作「種をまく人」のクローン文化財について伺いました。

山梨県立美術館・学芸員の太田智子さん

これまでのご紹介の仕方だと、近くで見ていただくとかっていうのが難しかったところはありますけれども、クローン文化財をそのために活用することができるっていう利点があるかなとは思いますね。
また、(「種をまく人」は)常に展示しているので、例えば作品のお貸し出しの依頼があっても非常に難しくて・・・お断りせざるを得ないような依頼に対して、クローン文化財はいかがですかっていうふうに検討をしていただくようにできるっていうのはメリットがあるなと思いますね。もしかしたらクローンの方を見て、その技術力を面白いと思っていただければ、「じゃあオリジナル見に行こう」っていうふうに思っていただくかもしれないので、そうすると山梨県立美術館のコレクションを広く知っていただく機会になるっていうところもあるかなと思います。

オリジナルではできない展示方法や他美術館への貸し出しが可能になったんですね!

クローン文化財が変える美術館の未来の画像はこちら >>
2021年度の展覧会の様子:山梨県立美術館提供

「種をまく人」の展示については、オリジナルには保護のためガラスが入っており、クローン文化財でガラスなしの本来の色味を近くで見ることが可能になりました。

他にも展示の面白さとして、撮影ができたり、照明の工夫ができる点(フラッシュや強い光は作品の劣化に繋がるためオリジナルでは難しい)また、絵具の凹凸を直接「触って確かめる」体験も。オリジナルに負担をかけることなく、自由な環境で芸術のシェアが可能になるんです。

▼山梨県立美術館ではミレーの作品を常設展示しています▼

この芸術のシェアという観点について、クローン文化財を生み出した宮廻先生は、世界中の「流出文化財の返還」についてこんなお話をしてくださいました。

東京藝術大学 名誉教授・宮廻 正明さん

世界中の美術館・博物館にあるのは、流出した文化財がほとんどなんです。だから博物館から流出文化財をあったところに返すという運動が起こりそうになるんですが、それが起こると美術館と博物館が崩壊してしまうので、それで我々が考えたのは、流出文化財をクローンで作ればいいんじゃないかという・・・ただ、どっちが本物を持つかという問題が出るわけです。それを解決するには、本物よりもクオリティーの高いものを作ればいいんじゃないかという発想になったわけです。

それがスーパークローン文化財という形のものに進化したんです。例えば欠損部とか、本物の顔がなかった、手がなかったというものを、資料でわかる範囲内でオリジナルには手を付けないで、クローンの状態で修復していく。本物よりもわかりやすく美しさが強調される。それで開発したのがスーパークローン文化財です。

オリジナルの本来の形を取り戻す技術、修復した姿が「スーパークローン文化財」です。

修復という点では、オリジナルに直接手を加えるのは厳格なルールがあり厳しいため、クローンで失われた部分を修復する発想が生まれました。また、一度作成されたデータは、たとえ将来オリジナルが不測の事態で失われても、正確な復元や修復が可能で、戦争で失われた世界の文化財含む90点以上をこれまでに蘇らせたそうなんです。

オリジナルの現在の姿を複製した「クローン文化財」、本来の姿を修復をした「スーパークローン文化財」、そして技術は未来をも映し出します。これからの未来の姿を作る、それが「ハイパー文化財」です。

ハイパー文化財は、現実にないものです。
宮廻先生のチームでは、その作品の『現在』と『過去』を通して、先生のお言葉を借りると「芸術と仮説と妄想で」作り上げていきます。本来一つしかない作品の過去と現在と未来を見比べることができる・・・不思議な感覚です。

宮廻先生は、作品を奪い合う、独占するのではなく、共有して価値を分かち合うことをこの技術で提案したいんだとお話されていました。

技術が文化財の寿命を守り、その魅力も共有していく・・・
予算や時間の壁に悩む各地の美術館にとっても、まさに救世主になるかもしれませんね。


(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』より抜粋)

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