今年4月、岩手県の大槌町で大規模な山林火災が発生しました。鎮火まで1か月以上かかり、焼けた面積はおよそ1600ヘクタール(東京ドーム約340個分)。

平成以降、国内2番目の規模です。火は消えた今、現地では「火災相談室」が開設され、山の持ち主からさまざまな相談を受けています。ところが、復旧に向けて動こうとすると、別の大きな壁にぶつかっていました。

「自分の山が燃えたのか」も分からない

相談に乗っている、釜石地方森林組合の高橋 幸男さんに伺いました。

釜石地方森林組合 理事兼参事 理事兼参事高橋 幸男さん

今は鎮火宣言が出たんで、森林に入れる状況。状況確認はできるんですけども、「近くが燃えてる」、もしくは「もしかして自分も対象じゃないか」っていうのも含めて相談に乗ってました。今まで40年、50年育ててきた山が焼けてるもんですから、まず、販売先を探してるのが一つ。やっぱり火事で焼失した木っていうのはなかなか売りづらい。

焦げて炭になってる、表面が。中の方は強度も何も心配なく使えるんですけども、表面が炭になってる。製材って板にする時に機械に負担がかかったりするんで嫌われがち。どこにお声がけしてどのぐらい購入していただけるかっていうのを今交渉中ですね。

4月22日に出火し、いったん消し止めたと思ったら別の場所からまた火が出ました。

鎮火宣言が出たのは5月29日。1か月以上、燃え続けたことになります。

燃えたのは、50年ほど前に植えた杉。ちょうど切りごろを迎えた木でした。焼けてしまうと根から栄養がいかなくなり、何年かで倒れてしまうため、被害にあった森は結局、切るしかないそうです。表面の炭をこそぎ落とせば中身は売れることが多いものの、こそぐと細くなる分、売値は本来の半分ほどに落ちてしまいます。

一番の問題は、境界が分からない

「木は売れるのか」「自分の山は大丈夫か」「保険はおりるか」。さまざまな相談を受けているものの、実際の相談件数は今のところ19件だけ。被災した山の所有者は100人を超えるとみられるのに、なぜこんなに少ないのか。再び高橋さんに聞きました。

釜石地方森林組合 理事兼参事 理事兼参事高橋 幸男さん

一番の問題は「境界がわかんない」。住宅は、ここの部分の土地は誰々さんのやつですよってわかってるんですけども、森林の場合は公の地籍調査だったり国土調査っていうのがあって初めて、データ上出てくる。でも地籍調査や、国土調査をやってない場合は登記だけが変わっていくんで、代が変われば変わるだけ、そこの場所がわかんない人たちが増えてる。

ただ残念ながら今回の場所は半分以上はそういうデータがない、復旧したくてもそこに入っていけない。これは例えば「高橋の山です」っていうのをテープで巻いてって、その人に当たって、この境界で間違いないですかっていう話を、人海戦術でやってるとこですね。

土地の境界を測る「地籍調査」。大槌町では面積の半分以上がまだ手つかずです。山は急で広く、お金も人手もかかるため、調査がなかなか進みません。

そこで高橋さんたちは今、自分の足で山に入って、持っている地図と照らしながら「これは誰の山か」を一つずつ割り出しています。町も、国や県と「再生協議会」を立ち上げ、焼けた木の伐採や植え直しを進めようとしています。ただ、公費で復旧するにも、まず「持ち主は誰で、復旧する気はあるのか」の確認が必要です。その入口で、つまずいているんです。

「一人見つからない」と追いかけていく

また、これは大槌町だけの話ではありません。去年、隣の大船渡市でも大きな山火事がありました。その焼け跡に1年前から入っている会社があります。

全国で放置された森林を引き受け植え直している「青葉組」。1本の木を切り出すのに、どれだけの手間がかかるのか。代表の中井 照大郎さんに聞きました。

青葉組株式会社・代表取締役 中井 照大郎さん

切った木をどんどん搬出しなきゃいけない、搬出するためには道が必要で、重機で幅2~3メートルぐらいの道を山の中に作って、そこから切り出してくる。道を作るにも傾斜とかによって見つけられる道が決まってるので、その道を通る山の所有者は全員承諾取らなきゃいけない。5ヘクタールぐらいがひとまとまり、林業として実行できる最低面積、10人近くに一つの現場だけでもなる。「一人見つからない」と追いかけていく。スピード勝負。弱っていくとカミキリムシなどの虫が入っていく。台風で風が強くなって倒木…。連絡を取らなきゃいけない人の量が今かなり増えてしまってる状況。

鎮火しても終わらない ”誰の山か分からない”問題の画像はこちら >>
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中井さんも、境界の特定に悩まされていました。

でも、そもそもなぜ、ここまで「誰の山か」が分からなくなったのか。

さかのぼると、戦後です。まっすぐ育って加工しやすい杉を、国策でどんどん植えていきました。当時、杉は高くて、木を1本切れば子どもを大学に行かせられたほどだったそうです。それが今では、30年前の7分の1(1本3万円が、今は3000円弱ほど)。割に合いません。山の値打ちが下がるうちに、持ち主は町へ出て、世代も替わった。「自分の山」という感覚も、薄れていきました。

ただ、持ち主が管理できない山は市町村が代わりに引き受けられる仕組みもあります。持ち主が見つからない場合でも、手続きを踏めば動かせます。でも、境界が分からない場合は、その仕組みすら動かせない。「どこからどこまでがその山か」を強制的に決める方法は、今の法律にはないんです。

火は消えても、山はすぐには元に戻りません。まず「これは、誰の山なのか」、そこを確かめるところから始めるしかない。そしてこの問題は全国の山で起きていることがわかりました。

(TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』より抜粋)

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