ライムスター宇多丸がお送りする、カルチャーキュレーション番組、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」。月~金曜18時より3時間の生放送。


宇多丸、『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』を語る!【映画評書...の画像はこちら >>

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。
今週評論した映画は、『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』(2019年12月20日公開)です。

宇多丸:
さあ、ここからは「週刊映画時評ムービーウォッチメン」改め、最新映画ソフトを評論する「新作DVD&Blu-rayウォッチメン」。おそらく来週あたりまではこのモードで行かせていただく感じになるかと思います。今夜扱うのは、6月3日にDVDやBlu-rayが発売されたばかりのこの作品です……『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』。

(曲が流れる)

世界的ベストセラーの児童文学をアニメ映画化した『ヒックとドラゴン』シリーズ第三作……というか、三部作完結編、っていう感じですね。バイキングの少年ヒックとドラゴンのトゥースは、かつては敵対していたドラゴンと人間の架け橋となり、両者が共存する島で平和に暮らしていた。しかし、島を離れることになった彼らは、新天地を目指して旅に出る……ということです。

声の出演は、ジェイ・バルチェルさん、アメリカ・フェレーラさん、ケイト・ブランシェット、ジェラルド・バトラーなど。非常に豪華となっております。監督・脚本は前2作同様、『リロ・アンド・スティッチ』などのディーン・デュボアさんが単独で……一作目はクリス・サンダースさんとの共同でしたが、要は三作通じて、ということでいいと思います、ディーン・デュボアさんが務められました。

第92回アカデミー賞では長編アニメーション賞にノミネートされた作品でございます。

ということで、この『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』を見たよというリスナーの皆さま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)をメールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、最初は普通ぐらいかなと思っていたら、今、ドドドッと放送中に駆け込みで、メールがものすごい数、届き出したということらしいんですよね。僕、今リモートなので、リモートで僕もそれを知ったという感じなんですけども。

しかも、その後から来たやつは絶賛が多い。最初はね、褒める意見が7割でダメだったと意見が3割強、という感じだったのが、後からその絶賛メールがガガガッと来たせいで、絶賛が多くなった。しかもメールの総量は、新作DVD&Blu-rayウォッチメンになってから最多、ということになったので。やっぱり『ヒックとドラゴン 』シリーズ、さすが熱狂的ファンが多い、という感じじゃないでしょうかね。

主な褒める意見は、「一作目からの大ファンとして大満足の締めくくり。このシリーズのファンで本当によかった」「異なる種族同士がどう共存するのか? そんな難しい問題にとても誠実に回答している」「映像が美しくアニメーションとしても見ごたえ十分。音楽も素晴らしかった」などがございました。

一方、批判的な意見としては、「一作目のアクションの良さだった“アイデアと機転を駆使して巨大な敵を倒す”という部分がなくなり、凡庸になった」「主人公たちの成長という意味では前作がピーク。今回は惰性の三作目という気がする」「ラストで導き出した結論にがっかり」などの声がありました。
宇多丸、『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』を語る!【映画評書き起こし】

■「『信頼や愛に近い依存からの脱却』を美しく描いた作品」(byリスナー)
代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「パディントン」さん。あ、ちなみに今回、三作目の概ねのストーリーの方向みたいなのは、まあネタバレっていうか、ものすごくはっきりと「そっちの方に進んでいる」作品なので、ネタバレもクソもっていうか……まあ、ストーリーの概要についてかなり触れながら話すことになる、ということをご了承ください。全く知りたくないという方はね……っていうか、「全く知りたくない」っていう人はリアルタイムでこのコーナーを聞いちゃダメね(笑)。いろんな番組、ありますからね。はい。

ラジオネーム「パディントン」さん。「今回、ついに『ヒックとドラゴン』がムービーウォッチメンに取り上げられると聞いて、いても立ってもいられずメールしました。『ヒクドラ』シリーズは私を映画好きの道に向かわせたきっかけの映画でもあり、人生オールタイムベスト!ひいてはいつか子供ができた時、子供に夜遅くまで見ていても怒らない映画ベストファイブに入る作品です。今回の『3』の公開署名活動にも署名しました。

公開になった時は本当に嬉しかったです。

今回の3、『聖地への冒険』ですが、シリーズ物として最高の出来です。脚本、アニメーション力、音楽。そして物語の各所に散りばめられる過去作品からのオマージュや過去作とは対照的なシーン。大団円ということでファンサービス多めだったとは思いますが、物語の必然性に沿っているシーン……トゥースの額に手を当てるシーンなどもあり、このあたりも非常によくできてると思います。物語としても三作品としての1本の筋が通っていて大変に見事だなと思いました。私はこの作品を『信頼や愛に近い依存からの脱却』を美しく描いた作品だと思っています。『大好きだから』という理由はずっと一緒にいる理由にはならない。『大好きだからずっとそばに』という純粋な気持ちが大切な物や人を知らず知らずのうちに縛ってしまう。そんな私たちの気持ちのあり方を今一度、思い返すきっかけをくれる作品だと思っています。

そして、特に嬉しかったのは、映画の終盤で第四の壁をぶち破られたこと。これで『ヒクドラ』シリーズが終わってしまうのかとしょぼくれてた時……」。

第四の壁というか、要するにこちらの、現実世界に働きかける部分がある、ってことですかね。「……現実の私たちにも通じるセリフ。原題『How to Train Your Dragon』の『Your』にもつながり、喜びの涙が止まりませんでした。『バーク島は場所じゃない』ということで、これからもトゥースのいる世界線がこの世であると信じて生きていきます」ということでございます。

一方、ダメだったという方もご紹介しましょう。批判的な意見。ラジオネーム「愛がなくても」さん。「『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』。劇場で一度。さらに今回、ガチャが当たったことでもう一度、DVDでウォッチしました。まず僕は、シネマハスラー時代に宇多丸さんの『ヒックとドラゴン』第一作の絶賛評をリアルタイムで拝聴し、DVDがレンタルされてから見てみて結果、生涯ベスト級に大好きな1本となりました。二作目も大好きな作品です。

なので今回の完結編が日本でも劇場公開されるということで、あふれる期待を胸に鑑賞しました。ですが結果として、最初に抱いた感想は『あれ? いい話のはずなのに何か乗れない……』でした。このシリーズはヒックという少年の成長を描く物語だと思っています。一作目は、気弱だけど優しい少年が自分なりにこの世界との触れ合い方を見つけ、周りの人間にも変化をもたらしていく。二作目は青年となったヒックが自分とは何かを探していく話だったのに対し、本作はヒックの成長を描いていったでしょうか?

ひたすら受動的なように感じ、過去作に比べ映画の最初と最後でヒックの精神面にそこまでの変化が生じたとは思いませんでした。あと、僕が感じるこのシリーズのたまらない魅力のひとつがクライマックスのアクションそのもの、つまり敵にどうやって戦いを挑み、いかにして倒すかという過程の中にテーマが集約されていたというものでした。

ですが本作のラストのアクションシーンにはそのようなカタルシスはなかったように感じます。攻め入ってきた敵をただ退治するだけであり、一番燃えるはずの終盤のアクションが何もストーリーをテリングしておらず、全く興奮しませんでした」という。それから「敵役の扱いも不満だ」みたいなことを書いていただいて。あと、やっぱり「着地も非常に不満だ」ということでございます。

■今見てもただごとじゃない完成度、の1作目
ということで、いってみましょう、『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』。私もですね、このタイミングで、Blu-ray 4K  Ultra HDで2回、鑑賞しつつ、もう1回、監督たちの音声解説……これ英語で、日本語字幕は入ってないんですけど、頑張って英語の字幕を出しながら、こちらも見てみました。

ということで、『ヒックとドラゴン』シリーズ、(原題は)『How to Train Your Dragon』、劇場用長編映画三部作の、完結編ですね。これがまた、わりときっちり本当に三部作というか、もちろん本作……この三作目からいきなり見ても、諸々は分かるようにちゃんと配慮された作りにはなっているんですけど。

やはり、この三作を通じての、主人公ヒック……元の英語だと「Hiccup」っていう、つまり「しゃっくり」という名前なので、まあ「ヒック」っていう日本語の訳し方は悪くないと思うんですけど。とにかく主人公ヒックの、まさに劇的な成長……最初は本当に子供みたいでしたからね。劇的な成長と、それゆえの選択と行動、というのを踏まえてこそ、感動が増す作りなのは間違いないので。まだ前二作を見たことないという方は、ぜひこれね、この三作目を見る前に、そこらへんをね、しっかり鑑賞しておいていただければと思います。

まずやっぱり、10年前に公開された一作目ですよね。僕は前の番組時代、2010年9月25日に評して、絶賛いたしましたけど。やはり今回、改めて見直しても思いましたが、やっぱこれ、一作目が、ただごとじゃない完成度ですね。クレシッダ・コーウェルさんという方による児童文学が原作で……なんですけど、元は主人公がもっと幼かったり、あとはドラゴンたちも普通に人間語を話していたりとかですね、もっとわりと児童向けというか、はっきり子ども向けな感じの作品で。

それで、ドリームワークスがずっとその映画化企画を温めていたんだけど、うまくいかなかった、というところで、まあそのジェフリー・カッツェンバーグがですね、ディズニーの『リロ・アンド・スティッチ』という作品を作ったクリス・サンダースとディーン・デュボアさんのコンビを呼んできて、「残り16ヶ月で何とかしろ!」っていう風に言って……で、この2人は原作から、現状のよりシリアスでリアルなトーンに大幅アレンジをして。

あるいは、試写を見たドリームワークスのスティーブン・スピルバーグの指摘に従って……ドリームワークス作品って、わりと今どき風の、ポップカルチャーのパロディ要素みたいのがいっぱい入ってくる、っていうのが基本的なカラーとしてあると思うんですけど、この『ヒックとドラゴン』に関しては、スピルバーグの指摘で「これはない方がいいよ」ということで、完全にそれを廃して。いわゆる普遍的な、ウェルメイドな完成度を高める方向に仕上げた、という。

で、その結果、オープニング成績こそいまいちだったものの、口コミでじわじわとアメリカで評判を呼んで、成績を伸ばして、最終的に大ヒット!という、異例のパターンを記録したわけですね。で、すぐに続編も製作が決定して、テレビシリーズも何シーズンか作られて……話的には『2』の手前までぐらいですけどね。いずれもやはり大ヒットを記録、ということで。今やアメリカの3DCGアニメの中でも、トップクラスの人気と、あとは玄人筋を含めの高い評価を誇るシリーズとなったと言えると思います。アカデミー賞も常連ですね。

ただ日本ではね、『2』が結局一般劇場公開されないままだったりして、ちょっと冷遇気味だというのが、実に残念で。熱心なファンの方がね、署名運動したなんて、先ほどのメールにもあった通りで。そんなこともありました。じゃあ、どこがそんなに優れたシリーズなのか? もちろん、すごいところはいろいろあるんですね。

■映像表現の素晴らしさ、モンスター映画としての楽しさ、テーマに対する誠実なアプローチが1作目の良さ
たとえば、映像のすごさと言うかね、実写映画の名撮影監督ロジャー・ディーキンスを、ビジュアルコンサルタントとして迎えて。これ、要するに当時、2010年の時に、僕は「ロジャー・ディーキンスがコンサルタントに入ってるって、面白いことをするな」って……当時は珍しかったんですね。実写監督をコンサルタントに入れるって。それで(ロジャー・ディーキンスを)迎えての、本当に見事というほかない、美しくリアルな映像表現。特に、光と影の際立たせ方とかですね、日に日にその精緻さを増す3DCG作品の中でも群を抜いた素晴らしさですね。光と影の使い方。あと、物体の質感表現の細やかさとか、自然描写の丁寧さ。本当にうっとりするレベルで素晴らしい、というね。まず『ヒックとドラゴン』、映像表現の素晴らしさがある。

あるいはですね、そういうリアルさの一方で、多種多様なドラゴンたちが、時にスペクタクルに、時にコミカルに跋扈する、というですね、一種のこの怪獣映画、モンスター映画としての楽しさにも、満ちていたりもするし。いろいろあるんですよ、いいところはね。すごいところがあるんですけど。

一番肝心なのは、やはりですね、ともすれば害をなしあったり、敵対しあったりしかねない、「他者」同士ですね。他者同士が、いかに互いを尊重して、共存し得るのか、というストーリー。その普遍的かつ、非常に今日的でもある切実さ。非常に重大なテーマ、いまだに解決を見ているわけではない、「他者とどう共存するか?」というテーマに対する、誠実なアプローチ。ここがやっぱり、『ヒックとドラゴン』のすごくいいところですよね。という風に思います。

で、ここから先は、どうしても『1』『2』のおさらいが多めになりますので。そのストーリーのネタバレを含む、という点もご容赦くださいませ。もう10年間経っているストーリーなので。一作目はですね、ドラゴンたち、最初は、害獣として狩られるのが当然、という伝統があるというこのバーク島という島の中で、でも、その伝統の中にいまいちハマりきれないというか、そのドラゴンを殺しまくるという文化の中では、役立たずとされていた主人公ヒックがですね、その「Toothless」っていう……日本名では「トゥース」という風に訳されていますけども。

これ、一作目の公開時に、オードリー春日さんを宣伝に使った名残り、という風に言ってもいいかと思いますが。まあ元は「Toothless」ですので、今日は「トゥースレス」で統一しますけども。トゥースレスというドラゴンと直接交流していく中で、実は彼ら、ドラゴンというのは、コミュニケート可能な、愛すべき存在なんだ、ってことに気づいて。自分が所属するコミュニティのその攻撃的な伝統を、根本から改革していく、という……非常に困難な、しかし絶対に立ち向かわなければならない試練に立ち向かっていく、という話ですね。

で、要は、最初は弱虫の役立たずだと思われていた彼のその資質こそが、より良い世界を切り開くための「ライトスタッフ」、正しい資質だったということが分かる、というお話でしたよね。まあ非常にだから、身につまされる話でもありますよね。その自分の所属しているコミュニティが「あいつら、全員ぶっ殺しちまえ!」って言ってる中で、「いや、ダメだ。仲良くしなきゃダメなんだ!」って1人で言うってこれ、なかなか大変なことですけど、それを成し遂げる、という非常に切実な話。

で、この段階だとね、でも人間とドラゴンの関係っていうのは、まあほぼペット的なそれみたいな感じですよね。実際そのセリフでもですね、冒頭で「この島のペスト(害獣)はドラゴンなんだ」っていうのと対をなす感じで、「この島のペットはドラゴンなんだ」というセリフで(両者の関係性が)示されます。一作目では、人間とドラゴンの関係はペット的なそれだったんですけど。

■このシリーズの「ドラゴン」は人間という存在の映し鏡
『2』では、主人公ヒックの能力と対をなす、いわば「悪いドラゴン使い」というのが登場して、ドラゴンたちのその動物的習性を悪用しだすという、そういう話なんですね。で、それに対して、そのドラゴンであるトゥースレスはですね、ここは本当にその『2』の感動的なポイントですけど、自らの意志で……ヒックとの友情というのを糧に、自らの意志で、動物的本能、動物的習性を乗り越えてみせる。

で、まさにシン・ライオンキングならぬシン・ドラゴンキングとなる、という話。つまり、ここではっきり人間とドラゴン……ドラゴン側も明確な意思を持って人間と連携している、ということで、ここで「対等なパートナー」という風に、次のフェーズに行く、という話なんですね。パートナーになった、という風に考えざるを得ないというフェーズに入っていく。

で、要はですね、この本シリーズにおけるドラゴンというのは、人間というものの、映し鏡なんですね。人間側の意識、人間側の他者というものに対する意識の進歩、もしくは後退っていうのが、如実に反映される存在であると言えるわけです、今作におけるドラゴンというのは。そういう象徴だと言えるわけです。ということで、今回の『聖地への冒険』、三部作のこの完結編はですね、主人公ヒックが押し進めてきたドラゴンとの共存社会というのがですね、その理想とは裏腹に、明らかな現実的限界を迎えつつある、という状況から始まるというね、こういう三部作なんですね。

■3作目で行き着いたのは、「人間はドラゴンと共存するまで至っていないのでは?」という問いかけ
もちろんたとえばね、冒頭、ドラゴン解放ミッションをするというシークエンス。ヒックたちのまとう、あの耐火スーツ。恐らくは前作のね、あのドラゴという敵役の持っていたテクノロジーを利用してる感じですけどね。その耐火スーツなどの、ヒーローものっぽいガジェットのかっこよさ。こういうところで、物の質感というのを表すこの技術が、すごく生きる。そんなガジェットのかっこよさ、面白さもありますし。

あとはやはり、実は非常に人手が必要だったという、非常に長めの、3DCGアニメとしてはかなり長めのワンショットの中で、おなじみのキャラクターたちが、次々に、連鎖的にアクションを繋いでいく。それによって端的にキャラクターの描き分けをしていく、というあのくだりとか。それの技術的なすごさであるとか。

あるいは技術的なことで言うと、暗闇、なおかつ霧が立ち込める中、火が灯っていて、それが煙にも映っていて……という、いかにも難易度が高そうなその自然表現、シチュエーション表現を含めですね、やはり圧巻の……もうオープニングからしてやっぱり『ヒックとドラゴン』、格が違う。さらに技術が上がっていてすごいことになっているな、っていう。もう圧巻の面白さですし。

そこからドラゴンたちを連れ帰った、バーク島の現状。明らかに過密状態なわけですね。その過密状態っていうのを見せる意味で、無数の人間やドラゴンたちが、もう画面いっぱいに、もうあちこちで動き回っているという……今回、新たに開発されたというレンダラー、「ムーンレイ」という 3DCG描画ソフトですね、ムーンレイというその新たな技術の開発をして、それがあってこそ描けたすさまじい画、というね。ちなみに一作目だと、ドラゴンは同時に8匹描くのが限界だった、ということなんですから。いかにムーンレイがすさまじいか?ってことですよね。

で、とにかくその10年前の一作目からすると、技術力、スタッフワークも、主人公たちと同様、飛躍的に成長している、というのが今回の三作目、これも感動的なあたりだと思います。「ここまで技術が来たか!」というのが感動でもある。で、とにかく人間とドラゴンの共存社会ね、物理的にも限界だし、ドラゴンハンターたち、要はドラゴンを兵器として利用する人間たちっていうのもいまだに後を絶たない、ということで、ドラゴンを集めておくということは、むしろ彼らとの争いを余計に招くことにもなっている、ということですけどね。はい。

で、ここで現れてくるのが、その前作のドラゴ以上に、非常に怖い手段でドラゴンを支配している今回のヴィラン、グリメルというね。非常に徹底してクールな搾取ぶり、なかなか格好いいんですけど。ということになります。つまり、さっき言ったように、ドラゴンとの関係が人間の意識の反映とするならば、ドラゴンという他者との共存を完全に達成するところまで、まだ人間側、人間社会側が至っていない、ということではないか? 「共存」というのも所詮、人間側のエゴなんじゃないか?

というところで、そのドラゴンという他者への理解と尊重が、ついにこういう考えに至るところまで来ている、というのが、この『3』の話なんですよね。つまり、相手を大事に思うからこそ、道を分かつことを選ぶ。先ほどのメールにあった通りですね。そういうレベルにまで到達していると。

■新ドラゴン「ライトフューリー」やドラゴンの聖地の登場で、ヒックと観客たちは親心を刺激される
で、これ実は、さっき言ったようにですね、作品そのもののトーンとかお話としての展開は全然違うんだけど、そのクレシッダ・コーウェルさんの原作の、上下巻になっている最終巻、『最後の決闘』というこれ、2015年に出ているんですけども。これの着地と実は、非常にシンクロしてる展開なんです。この『3』の、特に着地は。

監督のディーン・デュボアさん自身ですね、一作目の製作をしてる最中にクレシッダ・コーウェルさんと話した時に、クレシッダ・コーウェルさんが語っていたラストの構想……要するに、「なぜドラゴンが今のこの我々の世界にはいないのか? その理由を描こうと思う」っていう。この言葉からこの三部作のアイデアを思いついた、という風にディーン・デュボアさんは仰ってるぐらいなので。ということです。

ともあれ、その『1』『2』を通じてですね、そのヒックとまさに一心同体の相棒となったトゥースレスがですね、彼が本来いるべき場所、ドラゴンの世界に回帰していく、という。その大きなきっかけとして、今回の三作目では、同族との出会いっていうのが描かれる。人間側にはその「ライトフューリー」と名付けられたね、見た目はちょっとミュウツー風と言いましょうか、白いドラゴンが出てくるわけです。初めて同類と出会って、今まで感じたことのないような興奮と親しみを覚える、という。トゥースレスは。

自分の影にキスしたりして、完全に発情している!っていうあたりとか、ちょっと何か「えっ?」ていう感じの描写もありましたけど(笑)。で、このプロセス。先週の『ボーダー 二つ世界』と、完全に重なるものですよね。どちらも北欧、伝説の存在ものでもある、ということでね。同族に惹かれてしまう、というこのくだり。で、このトゥースレスとライトフューリーが、距離を縮めていく、というこの過程。

ここは特に、セリフなし、動きや表情だけで細やかに描き出されていくんですけど、このくだり、明らかに一作目の『ヒックとドラゴン』、そのヒックとナイトフューリーことトゥースレスが、不器用にその距離を縮めていく、あの一連のシークエンスと、対をなすように構成されている、というのがわかる。これがまた涙腺を刺激するわけですね。

過去作を踏まえた描写といえば、ヒックがトゥースレスにあつらえてあげる、あの単独飛行できる尾翼の補助装置。これはですね、テレビシリーズの、『ドラゴンの贈り物』という2011年のホリデースペシャルエピソードと呼応するものだったりもする、という。要はその時は、ヒックから独り立ちするのを、トゥースレスが拒んだんですね。なんだけど、今回は嬉々としてそれを身につけて、飛んでいっちゃうわけじゃないですか。

なので、そうやってね、トゥースレスが入っていったドラゴンたちの聖地に侵入した、そのヒックとアスティ……ここ、ドラゴンたちの聖地の、本当にサイケデリックですらある色彩と動きの、まさに前述したムーンレイ、新技術あってこその、圧倒的な豊かさ、鮮やかさ。本当にクラクラするほどすごい。あとなんか、ちょっとあのね、(人間社会から隔絶した)ドラゴンたちの世界があって、というあたりはちょっと、『ナウシカ』を連想するようなところもありますけども。

とにかく、ドラゴンたちだけのそのサンクチュアリ、聖域の中でですね、まさに『ライオンキング』的に、ついに本当に自分の居場所を見つけた!という感じで生き生きとしているトゥースレスの姿を、物陰から目撃するあの切なさ。しかもそこからね、そのヒックたちを救出して、人間界に一旦戻ってきたトゥースレスの、明らかなしょんぼり感を含めですね、要は子離れしなきゃいけない、子供を旅立たせなきゃいけない、送り出さなきゃいけない親心、っていうところに、ヒックと、そして観客の心情が行くわけですね。

■テーマ的な着地も含め、しっかり完結した幸福な三部作
ということで、まあ『ヒックとドラゴン』シリーズ、生き物との交流物、という側面も強いシリーズなわけですけど、その意味で今回の完結編は、『野生のエルザ』……これは監督もね、『野生のエルザ』的であるってことをインタビューでも言ってますし。あるいは、『ドラえもん のび太の恐竜』的、といったところですかね。はい。といったあたり。「元いたところにお帰り……(泣)」という話ですね。思えば、一作目、二作目と、何かしら重大な、大事なものを失うことと引き換えに、その都度大きく成長するキャラクターだった主人公ヒック。

そう考えると、彼にとって今回のその最大の喪失というのはですね、メールにもあった通りだと思います、本当の意味で独り立ちする、大人になるという、完結編にふさわしい成長をもたらした、という風に僕は思いますね。要するに別々の道に……僕はこれはもう、必然的なラストだという風に思います。『ドラえもん』の(真の意味での)ラストが、『さようなら、ドラえもん』であるように。

ラストはですね、原作のその歳を取ったヒックの述懐とも重ねて、ドラゴンがいなくなった世界……まあ人間がまだそのレベルに、要するに他者との完全に平和な共存にはまだ至ってない、という非常に苦い結論なんだけど。ただ、次世代につなぐ、かすかな希望も残して、ということですから。僕はこれ非常に、家族で見る映画としてもですね、エンターテイメント映画の着地としても、甘すぎない、ちょっとビターなんだけどもちゃんと希望も残す、という、僕は完璧な着地バランスだなと思います。

エンドロール、ヒックとトゥースレスのこれまでを振り返る、名場面ダイジェスト。思えば遠くへ来たもんだ感ね。これはもう、ヨンシーさんのあの曲と合わせて、本当にまたさらに涙腺を刺激しますし。さらに見逃さないでほしいのは、スタッフクレジット、延々と続くところ。すごく楽しいおまけアニメが各仕事の様子を説明してくれる、というおまけもついていて、これもめちゃめちゃ楽しいんで、見逃さないようにしてください。

あえて言えばね、あの住み慣れた土地を出て、まさに「出エジプト」よろしくですね、民族大移動する、というところ。ちょっと論理的な飛躍がありすぎな気もします。僕、今『アンセスターズ 人類の旅』をプレイしてるんで、元から住んでるところを出るのはマジで危ねえ!っていう気持ちが特に強いのもありますし(笑)。あと、クライマックス。たしかにアクションとしては、若干ですね、何て言うかな、ちょっとアクションの見せ場としては小ぶりになっているとか、たしかにある気もしますけどね。

とはいえ、まあそのテーマ的な着地も含め、三部作がしっかり終わった、幸福なケースと言えるんじゃないでしょうか。この三部作、三作ができたこと、ちゃんとした三作目になったことをもって、名作として残るものになったんじゃないでしょうか。キャラクターたちが、顔つき、体格、あるいは服装などとともに、しっかり大人になっていく……アニメでありながら、ちゃんと人間として、体格とかも含めて変化していくシリーズでもあるので、ぜひ三作を通して味わっていただきたい、ということで。三部作揃って文句なし、私は万人におすすめの一作となったと思います。ぜひぜひいろんな形で、ウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』です)

宇多丸、『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』を語る!【映画評書き起こし】

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

◆6月12日放送分より 番組名:「アフター6ジャンクション」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20200612180000

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