米沢徹インタビュー:世界一を見据えた独自の強化哲学
テニス界で独自の育成理論を展開するTEAM YONEZAWAの米沢徹コーチ。近年、同チームが主戦場として選んでいるのは、過酷な環境とも目されるアフリカ大陸だ。
【画像】TEAM YONEZAWAのアフリカ遠征の様子
本インタビューでは、最新のアフリカ遠征の実態から、14歳の中島一輝選手をはじめとする次世代スター候補の育成状況、さらには現代ジュニアが直面する「身体の成長」という壁をいかに乗り越えるかまで、米沢氏の情熱あふれる指導論を余すことなく紐解く。
――まず昨年の米沢コーチの活動をお伺い致します。
「遠征によって帯同選手は異なりますが、私個人としてはまずヨーロッパで14歳以下の一番大きな大会『プチザス』に帯同しました。その後、フランスで開催されるITF大会を回り帰国。スリランカ遠征、日本での県ジュニア大会や全国選抜・全日本ジュニアの予選を経て、再びスリランカへ。帰国後に関東選抜、さらにスリランカへ3週間の遠征。帰国後にウガンダへ2週間、テニスヨーロッパの14歳以下・16歳以下の試合に5週間。帰国後に関東ジュニアを経て、8月はルワンダとブルンジの計4大会、アフリカに1か月滞在しました。帰国後は日本で『中牟田杯』や『RSK全国選抜』を回り、10月後半にケニアへ3週間。そのままアメリカ・フロリダに入り、IMGインターナショナルとオレンジボウル遠征という動きでした」
――興味深いのが、遠征先にアフリカを選ばれているところです。
「一番の理由は『よく練習ができる環境があった』ことです。13歳以下の若い選手は海外での試合数が足りずポイントが取れていませんが、アフリカなら予選を勝ち抜き、本戦でポイントを取れるのではないかと考え参加しました。実際に行ってみると、自分たちで練習するだけでなく、現地在住のトッププロを雇ってヒッティングをお願いすることができました。物価的に料金が安いため毎日ヒッティングが可能で、プロが普段行うような環境を作り、選手に必要な練習相手を確保できたことも大きな理由です。結果として優勝などの好スタートが切れ、練習・試合数・ポイント獲得のすべてが可能であるため、遠征先として選ぶようになりました。」
――アフリカ遠征は治安や練習の環境面も含め選手にとって総合的に良いと判断されたということですね。
「治安面は日本と雰囲気が異なり、一概に良いとは言えません。良くないからこそ、ゲートには必ずライフルを持った人がいます。我々外国人が滞在する家の敷地前にもライフル保持者がいるのが普通の暮らしです。ただ、試合会場やスーパーへは安全を考慮してタクシーで移動するため、特に治安が悪いという印象はありませんでした」
――食事に選手が順応できるかも気になるところです。
「食事に関してはアパートを借り、スーパーで食料を調達して自炊しています。ヨーロッパ、アメリカ、アフリカのどこにいても外食はほとんどせず、身体のために必要なものを食べる生活パターンを徹底しています」
――アフリカ遠征で現地の人々や場所から得られるものはありましたか。
「私個人は選手時代に経験があるので驚きはありませんが、選手たちにとっては、異なる人種の生活や自分たちとは違う豊かさを知ることで、普段の生活への感謝や、何かを大切にする気持ちが芽生えたのではないかと感じます」
「アフリカに行くもう一つの要因は、現地の人々が非常に親日家であることです。どこの国のクラブでもヘッドコーチが温かく歓迎してくれ、練習コートや相手の調整を上手く行ってくれます。現地の方々の力を借りながら活動できることは、私たちにとって非常に大きなメリットです」
――今後もアフリカ遠征は選択肢になりますか。
「まだポイントや実力がない13、14歳の選手にとって、強化の意味ですごく良い場所だと思います。私が元気な間は行く予定です。昨年5大会で優勝したような選手は上のステージへ進みますが、次の世代の選手を連れて行く場所になるでしょう」
――最近のジュニアの傾向について、世界と日本の違いをどう感じますか。
「日本のレベルの高さと層の厚さは世界でも類を見ません。県大会レベルでも質が高く、12~16歳なら国際大会並みのレベルです。ただ、グランドスラムに出場できるほど上に残れるのは、各国同様に数名のみです。日本人は勤勉で練習量も多いため早めに強くなりますが、その後、欧米の選手が身体を大きくしビッグサーバー、ビッグフォアへと成長してくると、完成度の高さだけでは抜かれてしまうのが現実です。少しでも身体を大きくするための努力が必要だと痛感しています」
――身体を大きくすることについてはトレーニングで補うのでしょうか。
「『身体を大きくする』のはトレーニングで強制的に作るのではなく、自然に成長させるものです。
――あえてトレーニングによる成果を求めすぎない時期もあるのでしょうか。
「トレーニングを積めば動きが良くなり早く勝てるようになりますが、今はそこをあえて目を瞑り、負けてもいいから身体を成長させるために『寝て、食べて、程々に練習する』ことを優先してこの1、2年は進めています」
――強い選手にパワーで押された場合、無理をして怪我をするケースはありますか。
「相手のスピードに押されて怪我をすることはあります。ただ、基本的なトレーニングをやっていれば軽症で済むことがほとんどです。大きな怪我につながるのは、100%ではなく150%のオーバーペースでプレーしている場合です。また『負けたくない』と張り切りすぎて無理なボールを追ったり、力んで打ったりする性格的な要因も怪我に関係します。
――練習スケジュールはどのようになっていますか。
「疲れたらやめよう、というスタンスです。日本で学校に通っていると、帰宅後に4~5時間詰め込むため睡眠が遅くなります。
一方、遠征中は睡眠時間を10~12時間確保し、食事も1日5~6回摂ります。大谷翔平選手のように1日中食べているイメージです。練習も午前・午後で計3時間、間にトレーニングを挟むなど分散して行います。この環境により、中島選手は怪我なく試合に出場できています。特異な例かもしれませんが、プロを目指すならこれくらいしないと大変な競技であるのは確かです」
――カルロス・アルカラス選手が昨年ナンバー1復帰を共に達成したコーチのファン・カルロス・フェレーロ氏との関係を解消したことは大きな話題となりました。コーチと選手の関係性について米沢コーチのご意見をお伺いします。
「フェレーロ氏がどんな方なのか分からないのですが、ジュニア時代から一緒にやってきていたので『もっと上を目指したい』というモチベーションはあったと思います。その関係性についてはいろいろな要因がありわからないところですね。
「選手の状況もそれぞれ違うので『こうすれば大丈夫』という絶対的なことはないので、その時々で選手にとってベストなことを提案し、できる限りそれに沿って進められるようにすることがコーチの仕事なのではないでしょうか。ただコートに行き、人並みに声をかけるだけでは信頼関係は生まれにくく、コーチが同じことを言っていても体の中に入っていかないことがあるというのがスポーツの面白いところですね。この人に言われたら上手くいったけど、この人に言われたらやり方がわからない、というのは往々にしてあります」
――「依存」というお話がありましたが、強くして欲しいという依存度が高い選手については自立していく方向に促していくのでしょうか。
「成長度合いは人それぞれです。結局は同じことを何万回も言い続けることになりますが、それがコーチの仕事です。時間が経てば心が熟成し、態度や打ち方も変わってきます。私を選んでくれた選手は非常に貴重で有り難い存在です。自分の信念を持って取り組みつつ、去る者も追わず、今一緒にやっている選手を常に大事にしています」
――遠征中の練習や移動、食事に関してもご苦労は多いと思いますが、少し詳しくお話をお聞かせください。
「フロリダ遠征などはスタッフがいますが、アフリカでは現地の選手にヒッティングをお願いしています。彼らは一生懸命一日中打ってくれるので、その分、私は選手の食事や他のサポートにエネルギーを回すことができます。
「トレーニングに関しては、体幹系を重視しています、例えば腕立て伏せをするならば5回×2セット、軽めに怪我をしないように心がけています。腹筋も50回から100回とか、ジョギングしたりダッシュもしたりしていますが、チューブを使ったものは痛みが出ないように練習前には必ずやっています。メディシンボールも投げさせたりする基本的なことをやっていると怪我をし難くなります。練習後のクールダウンは体幹、ジョギング、ストレッチをやっています。日本に居ると練習後にクールダウンをする時間を割けないというのが現実ですが、遠征中では1時間ぐらいは時間をかけることができます。股関節と肩の周りのストレッチというのは大事だと感じているので、ここは時間をかけさせます。ジュニアの頃にやっておいた方がプロになってからやるより柔らかく、トレーニングが習慣になっているといいと思い、量に関しては最小限はやっています」
――遠征中の睡眠時間に関してはいかがでしょうか。目標としている時間などありますか。
「夜7~8時には寝るよう、くつろぐ時間を与えずに睡眠に向かわせます。『寝ることも練習』と意識させ、携帯電話も私が預かっています。10~11時間の睡眠を確保し、昼寝もさせます。また、遠征中は基本的に親御さんとの連絡も一切させません。両親に感謝しつつも、選手をこちらで自立させるのが私の使命だと思っています」
――遠征中に親御さんと連絡を取る時間などはあるのでしょうか。
「それは一度もありません。選手もそういうものだと思って遠征に参加しています。両親に来てもらわなければならないような事態でもない限り、連絡を取ることは他の心配を増やすことにつながるため、こちらで何とかするのが私の使命だと思っています。ご両親には、選手を送り出していただけることに心から感謝しています」
――昔に比べ世界的なアカデミーでも練習量が減っている傾向にあるように思いますが、練習時間に関するお考えをお聞かせ下さい。
「例えば、3時間の中で密度の濃い練習ができれば良いのですが、人数が多く待ち時間が長くなってしまう環境では、必ずしもそうはいきません。私の場合は、練習メニューのやるべきことを終えたら終了とするスタンスです。ラリー、球出し、ポイント練習が終わったら、あとは自主練習にするか、先に上がるのであれば体幹トレーニングを各自で行わせます。大事なのは「時間」ではなく「内容」です。日本での練習の際は、学校の都合や居住地も異なるため、開始や終了の時間を全員一律にする必要はないと考えています。その代わり、私自身は常に6~7時間はコートにいるようにしています」
「通常のアカデミーのように採算を重視する形態ではなく、個々の選手を強化するという目的があるため、私のやり方は一般的ではないかもしれません。大変な部分もありますが、好きでやっているからこそ、このスケジュールで現在も続けられています」
――今年のTEAM YONEZAWAの活動予定についてお願いします。
「1月末からチュニジアの2万~3万ドル規模の大会に3週間、その後南アフリカのJ100に出場します。4月以降はルワンダやウガンダも予定していますが、今年はチュニジアが多くなるでしょう。理由はプロの大会に多く出場できるからです。14歳の中島一輝はすでに大人の大会でもやり合えるレベルにあります。14歳以下は年間14大会という出場制限ルールもありますが、偉大な選手たちはその年齢でプロの大会を主戦場にしてきました。まずはそこをトライします。若い世代の選手には、今まで通りアフリカ各地で経験を積ませたいと考えています」
中島一輝
――米沢さんのテニスへの情熱やエネルギーはどこから来るのでしょうか。
「(テニスが)好きだからやっている、これに尽きます(笑)。幸運なことに夢を持っている選手たちが来てくれるので、一緒に夢を見させてもらっている感じです。私は檜舞台よりも、そこへ向かう下積みのプロセスが好きなんだと思います」
――最後にメッセージをお願いします。
「全員がプロを目指すわけではないので、まずは楽しくテニスをするジュニアが増えてほしい。その子たちが将来、自分の子供にもテニスを好きになってもらえるような、そんな「テニスの楽しさ」を伝えていくことが我々の仕事だと思っています」
――米沢コーチの一番の「夢」や目標となるものがあれば教えてください。
「個人的な夢は、できるだけ長く元気でコートに立ち続けることです。“世界一の選手”を育てたいという思いがあり、それを目指す選手が今も私のドアを叩いてくれる。その期待に応え、一緒に挑戦し続けたい。周りの人たちがいてこそ自分も夢が見られるので、日々感謝しながら学んでいます」
「何回も言うようですが、夢を見れるのは周りにいる人たちのサポートがあってこそです。感謝の気持ちを持ち元気で1日でも長くコートに立っていたいです。もっと昔にそんな気持ちでプレーしていたら(現役時代に)もっと強くなっていただろうと思います。そう思いながら日々学んでいます」
――貴重なお話をありがとうございました。



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