4月7日、中国政府は「産業チェーン・サプライチェーンの安全に関する規定」を発表し、即日施行しました。これは、日本の経済、産業、企業にとっても無視できない動きです。

この新規定の意味合いや日本への影響を検証します。


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中国が「産業チェーン・サプライチェーンの安全に関する規定」を発表

 中国国務院(内閣)が2026年4月7日、李強(リー・チャン)首相の名義で「産業チェーン・サプライチェーンの安全に関する規定」を発表し、即日施行しました。文書は3月31日付で、全18条から成っています。


 その名の通り、産業チェーンとサプライチェーンの安全をどう確保するかに焦点を当てた新たな規定です。私は、今回の発表について三つの意味で重要だと理解しています。


 一つ目は、国務院の首長である李強首相の名義で「国務院令」という形で出したこと。外交部や商務部といった特定の分野を統括する政府機関ではなく、政府全体として発令した事実は、この規定が大きなインパクトを与える性質のものであることを物語っています。


 二つ目は、外交部、発展改革委員会、工業情報化部、公安部、国家安全部、司法部、財政部、商務部、税関、市場監督管理総局など国務院傘下にあるあらゆる分野の部署が連携して取り組む態勢を前面に打ち出していることです。


 裏を返せば、中国政府として、産業チェーン・サプライチェーンの安全という分野は、異なる政府機関が束になって取り組まないと守れないと認識しているということです。


 三つ目は、今回の規定が「国家安全法」「対外関係法」「反外国制裁法」「対外貿易法」など、習近平政権が発足してから制定、あるいは改定されてきた法律を根拠にしていることです。


 現政権の経済・産業政策の特徴は、「国家安全」と「経済発展」の統合を堅持するという点にあり、より踏み込んで解読すれば、経済活動や市場行為が、「国家の安全」に損害を与えるものであってはならないという立場です。今回の規定は、習近平政権の特徴と傾向を象徴するものであると解釈できます。


気になる中身は?

 ここから具体的な中身を見ていきたいと思います。私から見て、「気になる項目」を取り上げた上で、示唆を書き加えていきます。


第七条 国務院の関係部門は重点分野リストを策定し、かつ動的調整を行い、重点分野における原材料・技術・設備・製品等の生産と流通の安定した、持続的な運営を確保する。


【示唆】「重点分野リスト」を策定するとうたっているが、現時点では、「重点分野」が何を指すのか、および「リスト」は何なのかという点が不明瞭。ただ、それらが、生産から流通までを網羅する全方位的な内容になる可能性が高いと思われます。


第八条 国務院の関係部門は重点分野の産業・サプライチェーンの情報共有を推進し、情報プラットフォームによる支援を強化し、業界・企業間の重点分野における産業・サプライチェーン情報の相互接続を強化し、効果的な措置を講じてデータの安全を保障するよう指導する。


【示唆】「情報」が一つのキーワードになるという点は非常に重要。「データ安全」に話が及んでいることから、内資、外資にかかわらず、中国政府が安全保障の観点からデータの扱いを見ているという点は認識すべきでしょう。例えば、サプライチェーンに関するデータの海外への持ち出しなどは一つの論点になると思います。


第九条 国家は重点分野における産業・サプライチェーンの安全上のリスクの監視・早期警戒制度を構築・整備する。関係部門は重点分野の原材料・技術・設備・製品等の供給ルートの安定情況とそれが経済社会の安定と国家の安全に及ぼす影響等について、評価・監視を計画・実施し、産業・サプライチェーンの安全上のリスクを識別し、適時に早期警戒情報を公表する。


【示唆】サプライチェーンの安全に関わるリスクを監視・予防し、早期警戒制度を構築するという危機管理の観点が盛り込まれている点は重要。サプライチェーンを「国家安全保障」の高みにまで昇華させて管理しようという政権指導部の意思が反映されています。


第十条 国務院の関係部門は重点分野における物理的備蓄および能力の備蓄を計画・実施し、技術・設備・製品の研究開発を強化し、重点分野における産業・サプライチェーンのリスク耐性を向上させる。


【示唆】「備蓄」という用語が出てきているのは重要。研究開発を通じて、リスク耐性の向上をもくろむという明確なスタンスが出されています。


第十一条 国家は重点分野における産業・サプライチェーンの安全に関する緊急管理制度を構築・整備し、国務院の関係部門が緊急対応計画を策定する。重点分野の産業・サプライチェーンの安全に影響を及ぼす情況が生じ、経済社会の安定および国の安全を脅かした場合、緊急調整、備蓄の使用および生産・輸送・供給等の緊急処理・措置を講じることができる。(中略)関係する組織・個人は緊急処理・措置の実施に協力しなければならない。


【示唆】中国共産党指導部として、産業・サプライチェーン周りの安全が、経済社会、ひいては国家の安全を脅かすリスクを伴っているという認識を有しているという点で重要です。また、緊急事態において、関連する組織や個人は国の要請に協力する義務があるとうたっていますが、中国で事業を展開する外国企業も例外扱いはされないと認識すべきでしょう。


日本企業にとっての示唆

 上記で取り上げた点も、日本経済、日本企業にさまざまな形で影響してくる項目とみていますが、とりわけ以下の項目は注意が必要です。


第十三条 いかなる組織・個人も、中国の法律・行政法規・部門規章および国の関連規定に違反し、中国国内で産業・サプライチェーンに関わる調査等の情報収集活動を実施した場合、関係部門は法に従って相応の処理・措置を講じる。


【示唆】中国国内で産業・サプライチェーンに関わる調査を含めた「情報収集活動」が違反行為と見なされるリスクを指摘すべきでしょう。しかも、どの分野、地域におけるどんな調査が「違法」と見なされるかに関しては、不透明性が高く、そもそも法律の解釈権は中国側にあるわけなので、調査する側としても対応に苦戦するのは必至といえます。


第十四条 外国の国家・地域および国際機関が国際法および国際関係の基本準則に違反し、産業・サプライチェーン方面で中国に対して差別的禁止・制限またはこれに類似する措置を講じ、中国の産業・サプライチェーンの安全を損なう行為を実施または実施に協力した場合、国務院の関係部門は産業・サプライチェーンの安全調査を実施する権限を持ち、相応の措置を講じることができる。

これには関連貨物・技術の輸出入、国際サービス貿易の禁止又は制限、特別費用の徴収等を含むがこれに限定されるものではない。(中略)また、関与した組織・個人を報復リストに掲載し、報復措置を講じることができる。


【示唆】日本政府による対中国の政策が中国政府から「差別的」と見なされた場合、中国政府が日本企業に対し「安全調査」を行い、場合によっては、制裁、報復措置を取るとしている点はクリティカルです。語弊を恐れずに言えば、中国政府は日本企業を「人質」に取ることで、自国の産業・サプライチェーンの安全を守るべく、日本政府に圧力をかける態勢を整えてきているということです。


第十五条 外国の組織・個人が正常な市場取引の原則に違反し、中国の公民・組織との正常な取引を中断し、中国の公民・組織に対して差別的な措置またはその他の行為を実施し、中国の産業・サプライチェーンの安全に実質的な損害をもたらす、または実質的な損害の脅威を生じさせた場合、国務院の関係部門は産業・サプライチェーンの安全調査を実施する権限を持つ。調査は関係当事者への質問、関連文書・資料の閲覧または複製、およびその他の必要な手段を講じることができ、関係当事者は調査に協力しなければならない(中略)調査結果に基づき、国務院の関係部門は外国の組織・個人に対して、中国と関連する輸出入活動に従事するのを禁止又は制限、中国国内での投資を禁止又は制限、中国国内の組織・個人がこれらと関連取引、協力等の活動を実施するのを禁止又は制限、関係する人員・交通輸送手段が入国するのを禁止又は制限、関係者の中国国内における就業、滞在、在留資格を取り消す又は制限する等の措置を講じることができる。


【示唆】外国の企業が中国の産業・サプライチェーンの安全に危害を与えたと中国当局が解釈・判断した場合、当該企業は「安全調査」に協力する義務があり、かつ調査の結果次第では、中国における輸出入や投資、取引、出入国、在留資格などが禁止、制限されることもあるという非常に強い文言が書かれています。中国側も本気ということでしょう。


 最後に、中国政府は今年に入って以来、軍民両用品目(デュアルユース)の対日輸出規制、関連してデュアルユース品の対日輸出を禁止、あるいは制限する対象企業のリスト発表など、経済安全保障の分野で日本に対して強硬的な措置を取ってきています。


 今回の産業・サプライチェーンの安全に関する規定は、上記二つとは異なり、日本だけを標的とするわけではないものの、日本経済、産業、企業への影響は不可避だと思われます。中国との向き合い方、付き合い方が問われる局面がしばらく続くのではないでしょうか。


(加藤 嘉一)

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