部隊指揮官として動く幹部自衛官。一般的には防衛大学校や一般大学を卒業した後に幹部候補生学校で鍛え上げられたエリートと思われがちですが、けっしてそのような隊員ばかりではありません。
じつは、一番下っ端の2士からのたたき上げで、その後、自衛隊の下士官として長く勤め、中年にさしかかった頃に改めて学び直して幹部の道へ……。そんなルートをたどって幹部自衛官になった人も多いのです。それがいわゆる「C幹」と呼ばれる隊員です。
自衛隊にはA~Cまで複数、幹部になるルートがあります。「A幹」は防大卒や一般大学を出た後で幹部候補生を経てなるエリートコースです。一方、「B幹」は部内課程と呼ばれるもので、任期制隊員(いわゆる士)で入隊した後で、曹へと昇任、中堅の若手下士官として経験を積んだ後で試験に合格すればなるルートです。
そして、今回スポットを当てる「C幹」は、下士官としてさらに経験を積み、ベテランともいえる海曹長や准尉のポストにいる隊員の中から選出されるルートです。
ただ、このC幹、あまり人気はありません。理由は、現場で築いたポジションや安定を手放して、再び勉強と訓練漬けの日々に戻る必要があるからです。それでもこの道を「熱望」する人も少数ながらいます。そう、私の夫で海上自衛官のやこさんのように。
自衛官の進路希望には「熱望」「希望」「命(めい)のまま」「不希望」という4項目があり、なかでも「熱望」は最も強い意思表示です。
我が家は子供がお金のかかる時期にさしかかっており、できれば乗組員手当のつく艦艇に再び乗り込んで稼いでほしいと思っていました。しかし、職種の問題から艦艇配置がない状況が続いていたのです。とはいえ、幹部になれば艦艇への再配置が望めるようになります。
このような、極めて現実的な理由から、やこさんはこのC幹を「熱望」しました。
江田島での猛勉強は終わらない! 「C幹」の過酷さと魅力ところが、初年度はまさかの不合格。なり手が少ないはずなのに、そのルートで落ちることがあるなんて、ちょっと驚きでした。
しかし、やこさんはどこ吹く風。理由を聞いてみると、「熱望」している人は次回もまた「熱望」を出してくるだろうという前提で、まずは急遽充足させないといけない部署の幹部から埋めていくことがあるのだとか。つまり、「今のポジションから動きたくない!」と思っているベテラン隊員が、人員不足のために泣く泣く幹部コースへ“ドナドナ”されていくケースがあるんですね。希望とは裏腹に、なかなか容赦ない人事です。
そんな事情もあり、やこさんは2年目の「熱望」でようやく合格。ここからおよそ4か月、広島県江田島市の幹部候補生学校へ入校し、厳しい訓練を経たらいよいよ幹部への道が開けます。
余談ですが、ここで幹部になれても、階級が上がるにつれ1尉からは「海技士」の資格を持っていないと艦艇への配置が行われないため、艦艇に乗り続けたいなら海技試験は必須。C幹になれたからといってずっと艦艇に乗れるわけではなく、必要に応じて再び江田島でみっちり勉強して試験に臨むのです。幹部になると、次から次へとやるべきことに追われて忙しい印象です。
しかし順調にいけば、最終的に佐官クラスまで昇進する可能性も。叩き上げから佐官へ……これはなかなか夢のある話です。
C幹を選ぶ理由は人それぞれ。上からの打診でやむなく、というケースもあれば、純粋に収入アップを狙っていく人もいます。
大変なのは間違いありませんが、そのぶん得られるものも大きいC幹という道。人生の後半であえて舵を切るその決断を、家族としても全力で応援しています。

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