いわゆる「秘境駅」が成立する理由はさまざま。かつては人が住んでいたのに過疎化で無人地帯になるなどして利用者もいなくなったというケースが多いようです。
熱中症になりそうな強い日差しに覆われた2018年8月21日(火)、天竜峡駅(長野県飯田市)を9時18分に発車する上り中部天竜行き普通列車に乗り込んだ。
「秘境駅」として知られる飯田線の為栗駅(2018年8月21日、蜂谷あす美撮影)。
この普通列車が走っているのは、JR東海の飯田線。愛知、静岡、長野3県にまたがる山岳地帯を貫くローカル線だ。とくに県境付近にある駅は人里から離れているか、あるいは周辺にあった集落が過疎化によって消滅したため、利用者は限りなくゼロに近い。
一部の鉄道ファンや旅行者は、人里から離れていて利用者がほとんどいない駅を「秘境駅」と呼んでいる。前日に静岡県から長野県にかけて点在する3駅を訪ねたが、この日も長野県内の秘境駅をふたつ、訪ねることにしていた。
列車は9時46分、為栗(してぐり)駅に到着。特急列車が停車する温田(ぬくた)駅と平岡駅に挟まれた秘境駅だ。ホームは天竜川寄りにあり、線路を挟んで向かいには民家がある。駅からどうやって行くのだろう。
そんな考えを先回りしてか、駅には「危険ですから通行しないでください」の注意書きが。この為栗、かつては川岸にも集落があったそうだが、1954(昭和29)年に建設された平岡ダムによって水没したそうだ。
駅の裏手に回り込むと、茂みに紛れて「和知野川周辺観光施設案内」の看板が立っていた。目の前にあるのは天竜川だが、和知野川とはいったい? 看板には「お食事処」が徒歩10分、そしてキャンプ場が徒歩15分との案内が添えられている。
そんなに新しい看板でもないし、どちらもすでに営業していない可能性もあるが、丁寧な案内を見てしまったら素通りはできない。期待せずに向かうこととした。
駅を出て、人しか通れないような簡易な構造のつり橋(天竜橋)で天竜川を渡る。対岸には車が1台止まっている。さらに砂利の集積場もあるようだ。なるほど、つり橋に阻まれるため、駅まで自動車で訪れることは困難なのだ。もしかして、このつり橋ゆえに秘境駅なのだろうか。
地図で確認したところ、現在地は県道430号。対面通行も可能な道路を天竜川に沿って歩いていくと、「名勝 信濃濃いし」の看板が見えてくる。ダムができる前は、急流と岸壁がぶつかることから、川はいったん上流に押し戻される流れをなしていた。そこに上流の諏訪湖から船が流れてくると、一度そこで船首が上流、つまり信濃の方を向いたらしく、それが「信濃恋し」の由来になったとする説もあるらしい。
為栗駅の近くには天竜川とつり橋がある(2018年8月21日、蜂谷あす美撮影)。
もっとも、伝承話としては、奉公先の愛知県へ向かうため、愛しい人と別れて川を小舟で下っていた娘が、お守り袋を水中に投げ入れたところ、小さな渦が起こり始め、船がもと来たほうを向き、里に戻ることができた、とういうことになっている。なんであれ、かつての地形を伝説として残している。ちなみにこの伝承が転じ、「小石を投げ込めば恋愛が成就する」ことになっているそうだ。
縁結びスポットから、さらに少し進むと県道1号に合流する。この交差点に先ほど看板で見た「お食事処」があったが、残念ながらこの日は「定休日」だった。さらに、向こう側にも川が見えた。
キャンプ場は健在で、川遊びに興じる親子がいた。私も靴を脱ぎ、ズボンをたくし上げ、じゃぶじゃぶと浸かる。冷たい、気持ちいい。過酷な秘境駅めぐりに来たはずなのに、めちゃくちゃに楽しい。当初の筋書きでは、人の気配だけが残された駅をめぐり、精神的にちょっと疲弊するはずだったのだが、全然予定通りには進んでいない。
膝下だけの川遊びを楽しんだら、再び駅に戻る。天竜橋まで戻ってきたところで、駅に人の姿が確認できた。この時間に列車はなかったはずだが……。さらに近づいてみると、それは登山の格好をした5人組のおばちゃんであると正体が判明した。とりあえず「こんにちは」と挨拶をし、どこから来たのか尋ねてみると、あっちといって、山のほうを差した。
聞けば、この為栗駅から山を1時間ほど登った先でおばあさんが一人、仙人のような生活をしているそうだ。宿泊もできるらしく、おばちゃんたちは、ひと晩そこに滞在してきた帰りとのこと。さらに会話を続ける。
キャンプ場のそばを流れる和知野川。親子連れが水遊びに興じていた(2018年8月21日、蜂谷あす美撮影)。
「あそこまで、車で来たの」
指の示す方向は、つり橋の対岸。先ほど見かけた車だった。おばちゃんたちは私が列車で来たことを知り、驚いていた。
11時40分、折り返すようにして天竜峡行きの下り普通列車に乗り込む。20分ほど揺られて12時2分、金野駅で下車した。
為栗駅には最寄りの観光名所を示す案内板があったが、この駅には、そういったものはいっさいない。過去に訪問した人たちのルポを見ていると、駅前に朽ち果てた駐輪場があると記述されていたが、それすらなかった。
何もない。しかしそれでも道はある。米川橋を越えると、どこに続くともわからない林道に突入した。キリのいいところで引き返そうと思いながら惰性で1kmちょっと進んでしまう。すると草むらの中に家屋が。ただし、廃屋だった。さらにそこで道なりに右折をしてみる。あ、畑。あと、歯磨きをするおじさん。「こんにちは」と、あいさつを交わす。
夫婦で宿泊施設を運営している方だった。
帰路、豊橋に向かう列車のなかで、緊張の糸が切れた私はよく寝た。「秘境」とはいうけれど、本当に人里から離れている駅は、それほど多くない。仮に離れていても、程度の差こそあれ「ちょっと歩けば」生きている人、生きている施設に出会うことができる。
いまは秋。今度は紅葉をめでながら「生きた秘境駅」を巡ってみたいと思う。
【写真】秘境駅を巡る飯田線の普通列車
飯田線の普通列車は213系電車や313系電車などで運転されている。写真は金野駅を発車した213系の普通列車(2018年8月21日、蜂谷あす美撮影)。

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
