高木豊の交流戦総括
パ・リーグ

セ・リーグ編:広島が「真っ先にやめたほうがいい」こと、ヤクルト追走の一番手は?>>)

 今年の交流戦、パ・リーグは9勝9敗で終えた3チームがあるなど、大きな貯金、借金をする球団がなかった。高木豊氏が指摘する、各球団の強みと課題とは。

リーグ再開後に浮上しそうな球団も併せて聞いた。

交流戦でパッとしなかったパ・リーグ。高木豊が指摘する各チーム...の画像はこちら >>

オリックスの宮城大弥(左)、T-岡田(右)、交流戦で首位打者になった杉本(中央)

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――まず楽天は、5月中旬頃からの失速を引きずりながらも、最後の巨人との3連戦では投打がかみ合って連勝でフィニッシュするなど、9勝9敗の5分で交流戦を終えました。

高木豊(以下:高木) 昨年と同じく、田中将大に勝ち運がないですね......ただ、火曜日は相手も好投手が出てきますから、打ち崩すのも簡単ではありません。連敗は則本昴大が止めたりしていますが、たまに炎上してしまうこともあり、なかなか安定しませんね。

 投手陣は全体的に疲れが見えます。春先は完璧だった宋家豪も最近は打たれるようになってきていますし、ここまで21試合(6月12日時点。
以下同)に登板している西口直人も疲労の色が濃いですね。

――シーズン開幕から好調だった時には、リリーフ陣が踏ん張っていましたね。

高木 そうですね。今後はリリーフ陣をうまく運用しながら、いかに最少失点に抑えていくかが重要です。ひとつ気になったのは、6月4日のDeNA戦です。6回裏の一死一塁の場面で、先発の早川隆久が大和を三塁ゴロに打ち取ったと思ったら、浅村栄斗の捕球ミスで一死一・二塁のピンチになりました。
スコアはまだ1-1だったのですが、石井一久監督は早川を西口に変えたんです。

 早川はミスをしたわけではなく、投球も尻上がりに調子を上げてよくなってきていました。西口が後続を抑えたので結果的にはよかったのですが、あのような代えられ方をされたら、投手の気持ちはどうなるんだろうと。下駄を預けなきゃいけない場面もあると僕は思ってるので、あの投手交代は解せませんでした。

ソフトバンクはレギュラーの固定を

――打線では、浅村選手が打率.300、4本塁打、15打点と好成績を残しました。

高木 ただ、楽天はほとんどが左打者なので、浅村の負担が大きいですよね。打てる右打者は彼ひとりと言っても過言ではない。

あとは西川遥輝。交流戦も打率.150と低調でしたし、彼が復調するかどうかがチームの浮沈に大きく関わってくると思います。

――ソフトバンクも9勝9敗と貯金ができませんでした。最後も本拠地のPayPayドームにヤクルトを迎えて3連敗と、後味の悪い終わり方でしたね。

高木 やはり柳田悠岐の状態が悪かったことが響きました。上向いていくかなと期待していましたが、今のままではホームラン、長打が出るような雰囲気もないですし心配です。
(ジュリスベル・)グラシアルも、ヒットはたまに出るものの長打があまり打てていません。それでは、4番で起用されていた(アルフレド・)デスパイネに負担がかかってしまいますよね。

 ソフトバンクの不運なところは、栗原陵矢、上林誠知が立て続けにケガで長期離脱してしまったこと。あと、今宮健太も出たり出なかったりですし、ずっと1番で頑張っていた三森大貴も不振で外されることもあった。一方で調子がいい牧原大成を内外野のいろいろなポジションで使っていますが、ちょっと起用法はどうなのかなと思います。

 強いチームは、不動のレギュラーが多い。
例えば交流戦1位のヤクルトは、センターが塩見泰隆、ファーストが(ホセ・)オスナ、セカンドが山田哲人、ショートが長岡秀樹、三塁が村上宗隆といったように、「このポジションにはこの選手」と決まっている。併用でいくならそれでもいいんですが、先発出場する選手や、選手のポジションがコロコロ変わるようだとチームが落ち着きません。それをどう固定していくかが今後の課題でしょうね。

オリックス・杉本とT-岡田の復活

――続けて、西武も同じく9勝9敗でしたが、山川穂高選手が6本塁打をマークするなど存在感を放ち、交流戦期間のチーム防御率が2.60と安定しました。

高木 僕は春先、「西武は投手王国になる」と言っていたんですが、本当に投手が頑張っている。ただ、守りのミスが失点につながるケースが多かったですね。もう少し守備の意識を高めないと、投手陣の足を引っ張ることになります。



 髙橋光成(4勝6敗)と隅田知一郎(1勝7敗)が勝てないですね。特に髙橋はエースなのでもう少し勝たないと。6月10日の広島戦で5失点したように、最近は炎上するシーンも見られます。例えばチームが5点を取った試合は、何としても4点までに抑えてチームを勝たせなければいけない。
 
 あと、野手も頑張ってルーキーの隅田に勝ちをつけてやらないと。隅田はせっかくいいものを持っていますが、今のままでは成長できません。

――野手では、若林楽人選手が5月31日の阪神戦で368日ぶりの復帰。さっそくヒットを打ち、盗塁を決めるなど元気な姿を見せていました。

高木 若林が1番に固定できて、2番に源田壮亮が入れば足を使えます。長打を打てる打者も多いですし、投手も安定しているので、今後はかなり期待できると思います。

 心配なのは、ケガ人が戻ってきた途端に、またケガ人が出ること。源田が戻ってきたら呉念庭が自打球で外れるとかね。だから、いかにケガ人を出さないかがポイントになると思います。

――次に交流戦は8勝10敗だったオリックス。交流戦は6連勝をした後に5連敗でフィニッシュ。浮き沈みが激しかった印象ですが、杉本裕太郎が打率.391のハイアベレージで交流戦の首位打者に。主砲の復調は明るい材料ですね。

高木 杉本にとっては、T-岡田が戻ってきたことも大きいでしょう。吉田正尚も離脱していた中で、ひとりで打線を背負ってしまっていた感がありましたが、T-岡田がいると負担が軽減されます。同じようなタイプの打者なので話も合うでしょうし、悩みも聞いてくれる"兄貴分"の存在は心強いはず。投手陣が安定しているだけに、リーグ再開後にもう少し打てるようになれば浮上していくと思います。

 投手は頑張っていますが、若い野手が多いゆえの経験不足もあってか、西武と同じようにミスで投手の足を引っ張るシーンが散見されます。昨年にゴールデングラブ賞を受賞した宗佑磨が暴投したり、捕手がセカンドに投げたらヘルメットに当てちゃったり......。とにかくミスが多いですよ。

ロッテは打線向上。佐々木に勝ちを

――セ・リーグの各球団に対する山本由伸投手の投球の印象はどうでしたか?

高木 山本は安定した力を見せていましたが、セ・リーグの打者もついていっていましたよね。ロッテの佐々木朗希にも勝ちをつけませんでしたし。

――確かに、佐々木投手は交流戦3試合に登板して未勝利。山本投手は3回登板して1勝、ソフトバンクの千賀滉大投手は2回登板して1勝、田中投手も3回登板して未勝利。パ・リーグのエースたちを相手に、セ・リーグの各打者が対応していた印象です。

高木 セ・リーグの打者たちは技術が高いですし、柔軟にバッティングを変えられます。情報がこれだけ出回っているので、球筋や球速に対して十分なインプットと準備ができたでしょうから、やりにくくはなかったはずです。

――投げるほうのオリックスのキーマンは、やはり山本投手ですか?

高木 そうですね。山本をはじめ、投手力のレベルは高いです。打つほうでは、なんといっても吉田正尚の復調が必須。あと、紅林弘太郎が打率.162と不振ですが、リーグ優勝を狙うためには必要な選手です。

――ロッテは10勝8敗で、パ・リーグの球団では唯一の勝ち越し。シーズン序盤から打撃が低調でしたが、ようやく打線がつながるようになりました。

高木 やっと打てるようになってきましたね。特に(ブランドン・)レアードが当たりだして、(レオネス・)マーティンも悪くない。ただ、チーム全体としてエラーが目立つということと、やはり佐々木に勝たせてやらないといけませんよね。佐々木が投げる時は相手投手も気合いが入るので簡単ではありませんが、野手が相手を上回る気合を見せて、打って勝たせてやらないと。

――佐々木投手が投げる試合で勝たないと上には行けない?

高木 それもありますが、6月10日のDeNA戦で小島和哉がやっと初勝利を手にできたことで流れが変わると、チームも楽になるかなと思います。日本ハムの上沢直之も開幕からずっと勝てずにいたのに、ひとつ勝てたことで5月の月間MVPに選出されるくらい流れが変わりましたからね。

日本ハムの新庄采配にワクワク

――シーズン序盤は危うかったリリーフ陣も、徐々に安定する試合が増えてきましたし、新外国人助っ人のロベルト・オスナ投手が加わりました。

高木 ただ、長くクローザーを務めてきた益田直也は心配です。勤続疲労の影響か、相当疲れていますね。DeNA戦では、(ネフタリ・)ソトに高めの直球を、簡単にフェンスぎりぎりまで運ばれていましたし。だからオスナを獲得したんでしょうけど、活躍できるかどうかは実際に試合で投げてみないとわかりませんからね。

 打つほうでは、荻野貴司が帰ってきたことが一番大きいです。やはりベテランの力は大きいし、髙部瑛斗との並びは足も警戒しなければならず、相手にとって嫌だと思いますよ。ただ、4番が佐藤都志也では怖さがありません。本人も「自分が4番を打っているようでは......」と話していました。捕手としては成長していますし、本当によくやっているとは思いますが、打順は考えたほうがいいと思います。

――日本ハムは8勝10敗。最後のカードの中日戦は3連勝で締めくくり、リーグ戦再開に向けて弾みをつけました。

高木 起用される選手がだいたい決まってきましたね。特に松本剛や野村佑希、清宮幸太郎あたりは、打順は変わるにしてもスタメンには名を連ねている。あとは下位打線も固定されてくると、よりよいチームになると思います。

――加藤貴之投手は交流戦期間の防御率が0.00。勝ちに恵まれませんでしたが、6月12日の中日戦でようやく勝ち投手になりました。

高木 加藤は"ザ・安定"。やっと勝ててよかったですね。加藤や上沢をはじめ、先発投手は揃ってきていますが、リリーフ陣は少し不安を残しています。打ち込まれるシーンがあった堀瑞輝は、厳しいところで使われるので心身の疲労が溜まっているような気がします。イニングの頭から使うとか、もう少し楽なポジションで投げさせてあげたほうが、彼のためでもあり、チームのためにもなるかなと思います。

――新庄剛志監督の考えが選手たちに浸透してきた印象があります。

高木 そうですね。走塁にしろ守備にしろ、新庄監督のイメージに近づいていて、手応えを感じる部分が当初よりも増えてきたのではないでしょうか。

――6月11日の中日戦では、ツーランスクイズも成功させました。

高木 あれは、やられるほうもダメだと思いますが、奇想天外なことをやっていくことも大切。ファンがワクワクするような野球をやってくれるのは、日本ハムが一番だなと思っていますから、続けてほしいですね。

 一番のファンサービスは贔屓のチームが勝つことでしょうが、みんなが「日本ハムは今日は何をやるのかな?」と気になりだしているように感じます。話題に事欠きませんし、それはプロ野球として大事なことだと思います。