近年の"投高打低"による影響もあるのか、NPBの2025年シーズンはスタメンに外国人野手不在のチームが珍しくない。ヤクルトのドミンゴ・サンタナやホセ・オスナ、ロッテのネフタリ・ソトやグレゴリー・ポランコ、日本ハムのフランミル・レイエスなど日本で実績のある選手は主軸を担う一方、新外国人打者はなかなか活躍しにくいのが昨今の傾向だ。
【助っ人に立ちはだかるスプリット】
そんななか、最下位に沈んだ昨季から逆襲を期す西武で、キーマンに挙げられるのが新加入の右打者タイラー・ネビンだ。4月29日時点(以下同)で全24試合に先発出場し、打率.260、1本塁打、9打点、出塁率.311、OPS.676。
彼の言葉に耳を傾けると、日本で活躍するハードルの高さが伝わってくる。
「日本の野球を学びながら、すばらしい時間をすごしているよ。(アメリカと)違う部分もあるけれど、基本的には同じだ。アメリカのほうが速いボールを投げる投手が多くいるが、だからと言って、それだけで難しくなるわけではない。でも日本では、同じ投手が3通りの打ち取り方をしてくることもあるのが大変なところだ。日本のピッチャーはすごく工夫してくるから、それに対応していく必要がある」
日本人投手のレベルの高さは、国際大会でも証明済みだ。スピンの効いた速球と変化球を制球よく操り、ネビンの言うように多彩な打ち取り方をできることが強みと言える。
なかでも大きな特徴は、多くの投手がスプリット(フォーク)を武器としていることだ。今季のMLBでは無双状態の山本由伸(ドジャース)や、35歳のオールドルーキー・菅野智之(オリオールズ)、"ゴーストフォーク"の千賀滉大(メッツ)らが落ちるボールを見事に操っている。
裏を返せば、NPBにやって来る新外国人打者に立ちはだかるのが、日本人投手たちのスプリットだ。ネビンはここまでどう感じているのか。
「日本では明らかにより多く投げられている球種で、とてもいいボールだ。スプリットにうまく対処できる打者はあまりいないと思う。アメリカの投手たちはそのことに気づき始めているだろうね。その意味で、アメリカの投手たちは日本の投手から学んでいると思う」
実際、同じくMLBから西武にやって来たドミニカ共和国出身の右腕投手エマニュエル・ラミレスは「日本でスプリットを学びたい」と話している。日々、平良海馬や髙橋光成などから学んでいるという。
昨今、トラックマンやホークアイなどテクノロジーの導入&活用が進み、投手たちの進化を大きく後押ししている。
【期待されることは光栄】
一方、打者はなんとかその投手たちに対処しなければならないが、2024年は3割打者がセ・パで計3人というのが現実だ。特にパ・リーグは投手優位で、打率6~10位はいずれも同2割6分台だった。
2025年もパ・リーグの打率3割以上はすでに5人しかおらず、傾向は大きく変わっていない。
"投高打低"のNPBで即座に活躍するのは、いくら経験のある新外国人打者でも容易ではない。対戦する投手は初顔ばかりだ。15試合を終えた段階の4月18日のソフトバンク戦前、ネビンはこう話した。
「(初対戦の投手が続くのは)大変だよ。
2015年にドラフト1巡目戦力均衡ラウンドAでロッキーズに指名されたネビンは、移籍したオリオールズやタイガース、アスレティックスで計4シーズンのメジャー経験を誇る。メジャーでは通算打率.204(4年間で192試合、591打席)、マイナーリーグでは同.282(9年間で622試合、2638打席)。
28歳を迎える今季、推定年俸2億5000万円で西武と契約すると、父親に元エンゼルス監督のフィル・ネビンを持つことでも話題になった。
MLBの『ベースボール・サバント』で昨年のデータ(Hits Spray Chart)を見ると、全方向にヒットを打ち分けている。予備動作の少ない打撃フォームやコンパクトなスイングで広角に打てることから、「日本向き」と見る声も聞かれた。
だが、開幕直後はレフト方向への安打が多かった。その点を質問すると、「少ないサンプル数で判断するのは簡単だけど、シーズンが進むにつれ、もっとはっきり見えてくると思う」と返ってきた。
もっともな指摘だ。上記の質問をした18日のソフトバンク戦から4試合続けてセンター方向にヒットを放った。
ネビンと話して伝わってくるのは、頭の回転の鋭さだ。
たとえば、"助っ人"という立場についてだ。現在の西武は打撃に課題を抱え、外国人選手にかかる期待が大きい。おもにクリーンアップで起用されていることから、ネビンに託される役割が伝わってくる。
「打順が上になると、期待はかかるものだ。誰であれ、どのチームであれ、それは変わらない。だから、そうした期待を寄せられることを誇りに感じているよ。でも、毎日やるべきことをやるだけだ。たとえ7番打者でも、二塁に走者がいたら、ヒットで生還させることが求められる。とにかく試合に集中して、できる限りチームに貢献したい」
外国人枠のないMLBと異なり、NPBで同時出場できる外国人野手は3人に限られる。ネビンは打線に唯一の"助っ人"という日もあるが、プレッシャーは感じていないのか。
「正直、自分に最もプレッシャーをかけているのは自分自身だ。いつも自分に多くを期待している。それに、チームを助ける存在と見てもらえるのは光栄なことだ。でも自分にはすでに厳しくしているから、できるだけ外の声は気にしないようにしている。みんなが自分に多くの期待をしていることは、十分わかっているからね」
【日本に来て驚いたこと】
ネビンにとって、異国で暮らすのは人生二度目だ。最初は2022−23年シーズン、ドミニカのウインターリーグでプレーした。
「体調を崩してたった3週間で帰国することになった。それが外国人選手として初めての経験だ。日本でも(ドミニカと)似たような点はあるけど、違いのほうが大きい。ここでの時間を楽しんでいるよ」
ビジターゲームには妻も一緒に行き、大阪遠征の際には奈良公園を訪れて、お辞儀する鹿を見るなど私生活も満喫している。日常生活に潜む"違い"も、外国人ならではの興味深さだと語る。
「もちろん言葉の壁はあるけど、少しずつ覚えているよ。
日本で対戦して最もよかった投手を質問した際も、ネビンの観察眼が伝わってきた。
「今井(達也)かな。春季キャンプで対戦した時から、日本でこれまで見たなかでベストピッチャーだと思う。彼がチームメイトでよかったよ。速い球を投げるし、スライダーもフォークもいい。加えて、頭もいいよね。試合全体を踏まえたプランを持っている。登板する日は頭の中で『今日は90球投げる』と考えて、同じ打者に違う攻め方を何度もしていく。とても頭が良く、才能を備えている。ここまで活躍しているのもよくわかるよね」
将来、MLBで活躍できるだろうか。
「間違いない。
今季の西武は今井を筆頭に、隅田知一郎、若手左腕の菅井信也、勝ち星に恵まれないながらも好投を続ける髙橋光成など、先発投手の力が光っている。打線が効果的に得点できれば、勝てる試合は増えていくはずだ。
そこでキーマンになるひとりがネビンだ。
「(4月中旬の北海道や大阪では)いい感じの試合もあった。でも、シーズンはそういうものだ。それまでも調子がよくなかったわけではない。野球にはそういう流れがつきものだからね。いい球が来た時、打ち損じをしないようにする。この前はそれができた。甘い球を見逃さず、強く打ち返していくことが、いつも行なおうとしていることだ」
自分をうまくコントロールする術を知り、観察眼に優れるネビン。シーズンが進んで各投手との対戦が増えていった時、持てる力をどこまで発揮できるか。
今はまだ平凡な数字しか残っていないが、その真価が問われるのはこれからだ。