プロ野球はシーズン前半を終え、オールスターが終わればいよいよ後半戦へと突入する。前半戦を振り返ると、セ・リーグでは阪神の強さがひと際目立つ展開となった。

2位のDeNAに9.5ゲーム差をつけ、チーム打率、得点、本塁打、盗塁、防御率とリーグトップ。攻守において圧倒的な数字を残しており、独走態勢に入っているのも頷ける。

 しかし、解説者の伊勢孝夫氏は「阪神は決して強いチームではない」と指摘する。なかでも打線については「相手に脅威を与えていない」と言い切る。その根拠とは何か。後半戦、阪神に不安要素があるとすればどこにあるのか。伊勢氏に、特に打線に焦点を当てて解説してもらった。

セ・リーグ独走の阪神に死角あり 伊勢孝夫が指摘する「タイガー...の画像はこちら >>

【6番以降の得点力の低さ】

 関西でプロ野球関係者と話していると、誰もが口を揃えて「今季の阪神は強い」と言う。独走状態にあるのだから、そう言われるのも無理はない。だが、少々へそ曲がりな自分としては、「そうやね」とうなずきながらも、心のなかでは「ほんまかいな」と思ってしまう。これだけ独走していても、今季の阪神がそれほど強いとは思えないのだ。

 成績だけを見れば、たしかに投打とも立派な数字が並んでいる。だが試合内容を見ていくと、投手陣の踏ん張りで勝っているものの、打線は「怖さ」を感じさせるものではない。

 もちろん、1番・近本光司、2番・中野拓夢、3番・森下翔太、4番・佐藤輝明の上位は、それぞれの役割を果たしている。だが、そのあとがなかなか続かない。5番の大山悠輔はここに来て勝負強さは戻ってきたものの、打球は三遊間へのゴロが多く、持ち味である右方向への鋭い打球はあまり見られない。まだ本来の調子にはないように映る。

 そして問題は、その大山のあとだ。6番以降がなかなか機能していないのだ。

 優勝した一昨年は、8番に木浪聖也が座り、攻撃面でポイントになっていた。チャンスで回ってくれば勝負強さを発揮し、イニングの先頭で打席に立てば出塁して上位へとつないでいく。このパターンが得点の原動力になり、阪神の勝ちパターンになっていた。8番が上位にも勝るとも劣らないしぶとさがあったからこそ、一昨年の阪神打線は"強力"と言えたのだ。

 では、今年はどうかというと、その"つなぎ役"は2番の中野が担っている。2番がしっかりつないでいるのだから、一見すると問題ないようにも見えるのだが、前述のとおり、6番以降の打線が弱いため、得点パターンは3番・森下、4番・佐藤輝までで止まってしまうことが多い。

 事実、チームの306得点のうちこのふたりで124打点を叩き出している。言い換えれば、このふたりが打てないと得点力は一気に落ちる。

【気になる逆転勝ちの多さ】

 そしてもうひとつ気になるのは、逆転勝ちが目立っていることだ。序盤にリードを許しながら、中盤以降は投手陣が踏ん張って、終盤に逆転する。自力がある証拠ではあるのだが、一方で中盤まで主導権を握れない"もどかしさ"を感じてしまうのだ。

 優勝を狙うチームとしての「強さ」を感じにくいのは、絶対的な勝ちパターンがまだ確立されていないからだろう。たとえ勝っていても、2、3点といった少ない得点をなんとか守り切っているという試合が多い。

 少し厳しい見方かもしれないが、打線に限って言えば、岡田彰布監督がかつてチームを優勝に導いた時のような爆発力は、今の阪神からは感じられない。

 それでも、このまま5割ペースを維持していけば、余裕を持って優勝を決めるだろう。その理由は簡単で、阪神を追いかけるチームに力がないからだ。巨人、DeNA、中日、広島......いずれも打線はさっぱりだ。昨年優勝の巨人は、岡本和真の故障離脱が大きく、ここまでが精一杯という印象を受ける。

 昨シーズンのいま頃、広島が首位を快走していたが、私は「いずれ勢いを失い、巨人、阪神と団子になる」と見ていたが、そのとおりの展開になった。自慢話ではなく、それだけ広島の戦いがいっぱいいっぱいだったのだ。

 その点、今の阪神には昨年の広島のような切羽詰まった感じがない。強いて挙げるなら、投手陣の疲労度だ。7月11日のヤクルト戦で村上頌樹が2回6失点したように、投手一人ひとりを見ると、本来のボールではない選手が目立ってきた。

 これは阪神投手陣に限らずかもしれないが、酷暑の8月は選手の体力を蝕む。その時、打線がどれだけ援護できるかが重要になる。優勝を目指して走っているチームでも、必ず"エアポケット"に入ったように、パタっと打てなくなる時期が来る。追いかけるチームからすると、その時に手の届くゲーム差まで縮めておかなければいけない。
 
 それにしても、今シーズンの本塁打の少なさは、いったいどうしたことだろう。セ・リーグでは90試合ほどを消化した時点で、阪神と巨人以外の4チームが50本に満たないというのは異常な状況だ。もしかして、また"飛ばないボール"を使い始めたのではないか......そんな疑念を、半ば本気で抱いている。

 いずれにせよ、昨年DeNAが3位からクライマックス・シリーズを勝ち抜き、日本シリーズも制したように、シーズン終盤からポストシーズンの戦いはまた別物だ。はたして、シーズン終盤にかけて勢いをつけるのはどのチームなのか。そういう視点も含め、後半戦の戦いを見守っていきたい。


伊勢孝夫(いせ・たかお)/1944年12月18日、兵庫県出身。63年に近鉄に投手として入団し、66年に野手に転向した。現役時代は勝負強い打撃で「伊勢大明神」と呼ばれ、近鉄、ヤクルトで活躍。現役引退後はヤクルトで野村克也監督の下、打撃コーチを務め、92、93、95年と3度の優勝に貢献。その後、近鉄や巨人でもリーグを制覇し優勝請負人の異名をとるなど、半世紀にわたりプロ野球に人生を捧げた伝説の名コーチ。現在はプロ野球解説者として活躍する傍ら、大阪観光大学の特別アドバイザーを務めるなど、指導者としても活躍している

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