大谷翔平から三振を奪った男~チェコ代表 オンドジェイ・サトリアの今(後編)
WBC出場が決まった当初、チェコ代表の投手、オンドジェイ・サトリアに与えられたのはリリーフとしての役割だった。しかし大会開幕後、チームの方針は初戦の中国戦を最重要ゲームとする方向に変わっていった。
【直前に決まった日本戦の先発】
WBCでも、次回大会の本戦出場を確保するには、どこかで勝ち星を挙げることが不可欠だった。グループ最下位に終わり再び予選に回るようなことになれば、WBC本戦は再び遠い夢に戻ってしまう。首脳陣は熟考の末、中国戦に全力を注ぐ決断を下した。
その結果、サトリアにグループ最強の日本戦の先発が任されることになった。正直、勝利を期待できる相手ではなかった。しかし、サトリアはこの先発指名を受け、大喜びで飛び上がった。
「オフの間にハジム監督から『日本戦はリリーフだ』と言われていたんだ。先発を告げられたのは、試合直前だったね。日本戦に予定していた先発投手を中国戦に回すことになったんだよ。もう、ラッキーとしか言いようがないよ。だって侍ジャパン相手に投げられるんだもの。
試合が始まると、サトリアはとにかく視野を狭めた。場所は東京ドーム。これまで経験してきたのは、500人も入れば満員といった、小さなスタジアム、いやボールパークと呼ぶべき場所ばかりだ。4万人もの大観衆を視界に入れないほうがよいと判断したのだ。
格上どころか、雲の上の存在と言っても過言ではない侍ジャパンにも目を向けず、サトリアはただキャッチャーのミットめがけて丁寧に投げることだけを心がけた。
「NPBの試合はチェックしていたから、何人かの選手のことは知っていたよ。でも試合では、とにかくミットだけを見ることに集中したんだ」
【侍ジャパン相手に奮闘】
初回、サトリアはラーズ・ヌートバー(カージナルス)、近藤健介(ソフトバンク)を三振に打ちとり、好スタートを切った。そして大谷との初対戦は、ファーストゴロで切り抜けた。
迎えた3回、一死二塁の場面で、大谷との2度目の対戦が訪れる。ここでサトリアは一世一代の大仕事を成し遂げる。2ストライクから投じたチェンジアップに、大谷のバットが空を切ったのだ。
だがこの後、侍ジャパンの打線が火を吹き、3点を奪われてしまう。
試合後、日本の報道では、彼は大谷と面会し、用意したユニフォームなどにサインをしてもらったという。それらの記念品は家に飾られているのだろうか聞いてみた。
「いやいや、サインもらったのはチームメイトだよ。チームメイトとドームの周りを歩いていて、グッズショップを見つけたんだ。そこで彼らはいろいろ買ったんだけど、僕は買わなかったんだ。その後、大谷選手と会うことができたんだけど、彼らはサインをもらって大喜びさ。僕は何も持っていなかったから、写真を一緒に撮って、握手をしてもらったんだ」
大会後、チェコ戦で先発マウンドに立ったオリックスの宮城大弥からサイン入りユニフォームがサトリアの元に届き、彼自身のユニフォームにサインをして返した。それは今も宝物として自宅に大切に保管してある。以来、サトリアはオリックスのファンだという。
【大谷翔平と再戦したら...】
あれから2年。
「でも、こればかりは監督が代表選手に選んでくれないとどうしようもないからね」
今シーズンのサトリアは、51試合あるレギュラーシーズンのうち、じつに14回先発マウンドに立ち、6勝4敗、防御率2.82という成績を残した。代表候補のひとりであることは間違いない。
最後に聞いてみた。もう一度、大谷と対戦したら三振を奪うことはできるか? すると、サトリアは即答した。
「そんなわけないよ(笑)。もう僕のチェンジアップを彼は見たからね。次はホームランを打たれるかもね」
長いシーズンを終え、エクストラ・リガの選手たちは少し遅めのバカンスに入る。サトリアには、日本からのビッグプレゼントとして、ZOZOマリンスタジアムでの始球式が待っている。