後編:「休ませながら勝つ」大谷翔平の二刀流管理最前線
2度目のトミー・ジョン手術から復活し、ドジャースでは初のフルシーズン二刀流に臨んでいる大谷翔平。ここまでの防御率0.73と驚異的な成績を残しているが、その復活を支えたのが、ブレンダン・マクダニエルコーチだ。
前編〉〉〉大谷翔平とドジャースが対話を重ねながら「休養」を組み込む思想とは
【マクダニエルコーチが語るリハビリと復活の過程】
ドジャース移籍後の大谷翔平を近くで見てきたのが、ブレンダン・マクダニエルコーチだ。負荷管理の専門家であり、移籍初年度の2024年は、投球リハビリに寄り添ってきた。大谷はその年、打者に専念してワールドシリーズ制覇に貢献したが、一方で、2度目の肘の手術からの復帰へ向けた、投球プログラムも続けていた。
「翔平は、自分のやることすべてにおいて、非常に計画的です。リハビリは長いプロセスですから、途中で集中力を失ってしまう選手もいます。特に2024年、彼がリハビリをしていた時期はチームがプレーオフを戦っている最中でした。普通なら、打つことだけに意識を向けてもおかしくない。それでも彼は、投げるためのプロセスを続けました」
さらにその年のプレーオフでは、投げる側ではない左肩を痛めた。それでも、大谷は2025年シーズンへ向けてリハビリを継続した。
「ほとんど時間を失うことなく、投球プログラムを続けました。もしその過程をうまくこなせていなければ、状況はかなり悪い方向に進んでいた可能性もありました。
かつては、2度目のトミー・ジョン手術は投手生命の終わりを意味するとも言われた。だが大谷は、淡々と、几帳面に、投げるための準備を積み重ねた。その一貫性が、現在の圧倒的な投球につながっている。
マクダニエルコーチは、プロとしての大谷の姿勢を高く評価している。
「翔平がここまで投げられているのは、やはり"翔平だからこそ"という要素があります。彼は非常に才能があり、仕事への姿勢もすばらしく、すべてにおいて計画的です。もし2度目の手術から戻ってこられる選手がいるとすれば、私なら翔平に大きく賭けることになるでしょう」
ただし、復活したからといって、負荷を無制限にかけられるわけではない。ドジャースのブランドン・ゴームズGMが語ったように(前編参照)、ドジャースには決まったゲームプランがあるわけではない。前例がないからこそ、大谷本人と対話を続けながら、日々の状態を見極めている。マクダニエルコーチも、専門家の立場からこう話す。
「そもそも、翔平が投打の両方をこなせるという時点で特別です。実際に、同じ日に投げて打つことを何度もやってきました。
大谷は両方できる。本人もできると思っている。だからこそ、周囲の判断が重要になる。
「シーズンのより長い期間にわたって、最高の状態の彼をグラウンドに送り出すために、ロバーツ監督と本人が会話を続け、協力していることはよいことだと思います」
【レブロン、ブレイディに学ぶ最高級で居続ける思想】
プロ野球選手のピークは一般的に27歳から29歳と言われる。大谷はすでに31歳。契約は今季を含めまだ8年残っている。ドジャースが追い求めるのは、今季だけではなく、30代の大谷をいかに高いレベルで走らせ続けるかである。その点について、マクダニエルコーチは、こう説明する。
「調整や負荷管理は、当然関わってくると思います。どうトレーニングするか、何を食べるか、どう眠るか、ストレスが体にどう影響するか、移動やその距離も含め、すべてが大きな要素になります。状況は常に変わります。
NBAやNFLで30代後半までプレーを続けている選手たちを見ても、必ずしも試合数を減らしているわけではありません。
彼がイメージするのは、NBAならレブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)だろう。睡眠、栄養、回復への投資を続けながら、年齢とともにプレースタイルを変化させ、40代に入ってもリーグ最高峰のレベルでプレーしている。NFLならトム・ブレイディ(元ニューイングランド・ペイトリオッツQB)だ。炎症を抑える食事、水分補給、柔軟性の維持、睡眠管理を徹底し、45歳まで第一線を維持した。
マクダニエルコーチが強調するのは、単に「休ませること」ではない。大谷を使わないための管理ではなく、大谷を長く最高レベルで使うための管理である。自身にかかる負担をどう処理し、負荷をどう配分するか。そこまで含めて、二刀流は初めて持続可能になる。
そのマクダニエルコーチに、筆者がこの1カ月の取材で感じていた疑問をぶつけてみた。今季は投手としての体づくりが非常にうまくいっている。
彼は否定しなかった。「トレーニングの観点では、何をするにも必ず何らかの代償がある」。二刀流が完全に無傷で両立するものではないことを認めたうえで、それでも「ああいう大きな本塁打が出るのは時間の問題だ」と言った。
二刀流は、才能だけでは続かない。休養、睡眠、栄養、移動、負荷管理。ドジャースは今、大谷翔平という前例のない才能を、「どう使うか」ではなく、「どう長く持続させるか」という段階で見つめている。「史上最強」から、「史上最も長く続く二刀流」へ――。その設計図が、いま少しずつ描かれている。










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