昨年9月、フィリピン・マニラで行なわれた世界バレーボール選手権で、日本はコテンパンにされている。ランキングでは下位のカナダ、トルコにストレートで敗れると、呆気なくグループリーグ敗退が決まった。

近年、躍進を見せてきた"優勝候補"の名折れだろう。

 大阪ブルテオンの西田有志(26歳)は昨年、代表活動を休養し、世界バレーにも出場していない。"西田がいたら勝ち上がっていた"という意見は、戦いに身を捧げた選手たちに礼を欠く。しかし、今年6月から新たな戦いに挑む代表に彼が必要なことは、疑いの余地がない。

「さらに進化するため」

 西田はそう言って、断腸の思いで代表活動を休んだが、その間、自分のバレーと誰よりも向き合った。その結果、2025-26シーズンには所属するブルテオンをチャンピオンシップ優勝に導き、自らはチャンピオンシップMVPに輝いている。まさに有言実行だった――。

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 西田は「24時間じゃ足りない」と言うほど、大げさではなくバレーに"没頭"している。それはバレー人生を通じての姿勢と言える。仮説を立て、実証する。その繰り返しがデータとなって、彼に個性を与えている。

「"これ、いいじゃん!"って思うとすぐ取り入れました。

猫やカエルの跳び方も研究しましたね。単純にバネがあるとかじゃなく、どうやって骨盤を使って後脚を伸ばしているのか。俺ら人間のうしろ足を当てはめて、"こうやって跳べば"って。猫は丸くなるイメージですが、跳ぶ前に背筋を真っ直ぐにしてから跳ぶんです。人間も真っ直ぐからケツを引いて、ももの裏を使って......」

 今年1月のインタビューで、西田は真剣な表情で語っていた。思い立つと、それを実行する意志の強固さがあった。その探究心こそ、西田を丸ごと覆う要素だ。 

 たとえば高校進学でも、県内随一の強豪校の一員になるのではなく、そこを倒す好奇心が勝った。

「勝つのが当たり前のチームって、つまんなかったんですよ。勝てないなら、どう工夫して勝つのか。そういう日々が僕は欲しかった。勝てば勝つほど、いろんな経験ができるのはわかっていますけど、勝つことを知らないチームを勝てるようにするのは面白いなって」

【チャンピオンシップファイナルで結実】

 なかなかのへそ曲がりだが、だからこそたどり着ける技の数々がある。

2025-26シーズンに西田が成功を収められたのは、その人生の結実のひとつだ。

「1年前からピーキングを持ってきて、結果として勝つことができました」

 西田はそう振り返っていたが、レギュラーシーズンはむしろ仮説・検証に使っていたようにも見えた。全力ではやっていたが、何か大きなものを得る壮大な実験のようでもあった。事実、総得点は昨シーズンよりも下がっているし、アタック成功率やサーブ効果率は横ばいだった。チャンピオンシップでも、セミファイナル、そしてファイナルも1日目が終わった時点では"鳴りを潜めていた"。

「思うように決まらず、考えるところも多く、その意味でタフな試合だったと思います」

 セットカウント1―3で敗れたファイナル1日目が終わったあと、西田は淡々と語っていた。

「入り方が堅かったですね。いつも通りできたらいいですが、こうした試合はいつもメンタルが難しい。もう少しリバウンド取りたかったし、"ファイナルを勝ちたい"という気持ちが先行するとズレが出る。今日はそういう状況でした。考えすぎて1セット目から後手に回り、悪い状況で無理に打ちにいって、そのたびに集中が切れていました。ただ、諦める理由はひとつもない。

立て直し、明日も明後日も難しい試合をどう戦うか」

 ファイナルの2日目に向け、彼はバレーと正面から対峙していた。何より3日目を意識していたのは印象的だった。実際、2日目はエース3本などサーブでチームをけん引し、3日目に持ち込んだ。

「(1日目を落として)吹っ切れたというより、やるべきことがシンプルになっただけ」

 西田は、歓喜の逆転勝利にも冷淡だった。とことん仮説・検証を重ねてきた彼にとって、それは驚喜するような結果ではなく、必然だったのだろう。そして、もっと質を上げられると信じていた。

 迎えた3日目は、まさに破竹の勢いだった。本人は「数字では解釈していない」と言うが、アタック成功率は70.6%を誇り、サーブはエースが3本で効果率は両チーム最多の33.3%。ブレイクに成功して圧倒的に勝利に貢献し、まるで目を覚ました竜が上空で火を吹いて地上を焼き尽くすような迫力だった。

【「試合で考えるなら練習からやれよ」】

 シーズン前、西田はサーブの極意について語っていた。

「自分の場合、(サーブは)ボールを芯で捉えるようにしていますね。芯を捉えるとボールは回転せず、無回転になって、狙ったコースに入ってから変化するんです。

回転、無回転、を考えた時、自分は回転がかかっていないほうが(球が)重いなって。サッカーも無回転シュートがキーパーの手も弾いて入っちゃうというシーンを見ますし、その理屈を考えたら......」

 それが、彼のサーブが立て続けに決まった理由か。無回転は半ば魔球である。本人にすら、どう変化するかわからない。空気との抵抗圧により生み出される変化で、いわば運に左右されるわけだが、そこに辿り着くのにも相当の修練が必要になる。

「自分のなかでバレーは楽しむのが第一ですが、この試合(チャンピオンシップファイナル)くらいは勝ちにこだわることをしたほうがいいかなと思って」

 西田は不敵に語っていたが、まさに勝利のためだけにギアを上げた時、独走する疾走感があった。

 6月からの代表シーズン、ネーションズリーグを戦ったあとにはロサンゼルス五輪アジア予選が待っている。はたして、新たな境地に達した西田がどんな暴れ方をするのか。彼自身が誰よりもその光景を楽しみにしているはずだ。

「試合では、思われているほど複雑に考えていない。練習の時にこそ、複雑に考える。"いろいろ考えるなら練習からやれよ"って」

 それが西田流だ。

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