舞台が、その選手を引き寄せるのか。その選手が、舞台を仕立てるのか。

やはり、ここで回ってくるか──と、思わずにはいられなかった。

 7月15日に開幕した「ACNバレーボールネーションズリーグ2026男子大阪大会」。大会初日、日本は昨年の世界選手権王者イタリアとフルセットの激闘を演じた。

 その最終第5セット、日本が14-11とマッチポイントに到達した時点で、サーブ順はキャプテンの石川祐希(ジラート・バンク・アンカラ/トルコ)に回ってきた。

【男子バレー】石川祐希がイタリア戦で見せたトッププレーヤーの...の画像はこちら >>
 勝利まであと1点──。これまでも勝負どころでは得点を決めてきた石川である。サービスエースで締めくくる......そんな期待を寄せたファンも少なからずいただろう。

 だが、コート上の「空気」は異なった。ミドルブロッカーのエバデダン ラリーはこの場面の胸中を明かす。

「いや、決めそうだとは思っていませんでした。祐希さんだけれども。その感覚はなかったですね」

 おそらくは選手だけが持つ嗅覚があるのだろう。

「決めそうな予感がした」とは往々にして聞かれる言葉だが、その逆だってあるわけだ。

 かといって、信頼していないわけではない。「でも、相手のレシーブは絶対に崩れるだろうなと思っていたので。クイックには張らないでおこうと、割りきったブロックのフォーメーションを組もうと考えていました」とラリーは言う。

 そうして石川が放ったサーブはネットを越えたが、サイドラインの外へ着弾した。サーブミスに終わったこの場面で、石川自身はどんな狙いを持っていたのか。

 試合後に聞いてみる。すると「いや、決めにいってないです」と開口一番。その理由は──?

「(サーブのトスを上げてから)相手のリベロとアウトサイドヒッターの選手がスイッチしていたので。そのことについてのベンチからの声も聞こえていましたし、与えてくれる情報をもとにサーブを選択しました。スイッチしてきた場合はゾーン1(後衛ライト)、ゾーン6(後衛センター)を狙うことになります。

 あの場面は、決めにいった、というよりも、いいサーブを打ちにいきました。

おそらく強く狙っていれば、もう少しボールはオーバーしていたでしょう。ですが、横に逸れてしまったので、そこに関しては自分のテクニックの問題なのではないかと捉えています」

【背水の陣で石川が選んだサーブ】

 石川は狙ったゾーンに向かって、横回転をかけるようにサーブを打った。だが、「テクニック上の問題」でミスになったという。その場面を振り返る石川は、少しばかり苦笑いを浮かべたように見えた。

 とはいえ、その言葉にあるとおり、得点を奪いにいくにせよ、戦術的な狙いを持つにせよ、石川は常にその状況に応じて「いいサーブ」を打つ。

 たとえば、このイタリア戦の第4セット。ここでは21-24と相手にセットポイントを握られた場面で、石川にサーブ順が回ってきた。

 サーブで得点できれば、一気に反撃ムードも高まる。そこでも石川は「サービスエースを狙う、という気持ちはなくて、ただベストサーブを打っていこう、という考えでいました」と語った。

 この場面、サーブがネットにかかることも、相手コートから外れることも許されない。かといって、相手が簡単に攻撃を展開できるような「入れていく」サーブであれば、たちまち得点を許す可能性が高くなる。

 では、その状況下で最適なサーブとは──。

「サーブを『入れていく』選択肢もあるけれど、ぎりぎりミスをしない範囲で強いボールを打つ、そこのバランスですよね。

21-24のように点数がまだ開いていれば、ミスができないなかでも、いいサーブを打たなければなりませんので、それほどリスクは取らないように。ですが、点数が近ければ近いほど、その時はリスクを取って強いサーブを打ちます。

 ただ、どんな状況でもいいサーブを打つ練習は、昨シーズンや2年前から取り組んでいました。そこは割とコントロールできるようになってきました」

 果たして21-24から、石川は1本目のサーブで相手のサーブレシーブを崩し、セッターのシモーネ・ジャネッリをアタックラインよりも後方へ動かした。そこからトランジションアタックを髙橋藍(ボグダンカ・LUK・ルブリン/ポーランド)が決めきって、ブレイクに成功する。

【僕はサーブを打つのが得意】

 イタリアのタイムアウトが明けた22-24。今度は相手リベロのサーブレシーブがネット近くに寄り、ジャネッリがワンハンドで処理せざるを得ない状況を作り出す。その流れから髙橋がまたも得点を挙げ、ついに1点差となった。

 一気に追撃ムードが高まった23-24。石川が放ったサーブは再び相手リベロを強襲し、二段トスのシチュエーションを演出した。最後は相手に決められて同点にはできなかったが、それでも絶対にミスが許されない状況下で、石川は3本続けて、ベストサーブを打ったのである。

「ああいう場面で、僕はサーブを打つのが得意だと思っているので。

変わらず、いいサーブを打つことができています」

 それはまさに、石川祐希というトッププレーヤーの真骨頂だった。

 思えば2024年のパリオリンピック、イタリアとの準々決勝。日本は2セットを先取し、第3セットでマッチポイントに到達した。

 だが、その場面でサーブ順が回ってきたイタリアのジャネッリは、2本のサービスエースを含むサーブで流れを引き寄せ、最終的に逆転してセットを奪い返している。そこに、ジャネッリが「世界ナンバーワン」と称される所以(ゆえん)を見た。

 まだまだネーションズリーグは続く。イタリアに勝利したことで、日本はファイナルラウンドの進出が決定した。この先の試合でも、石川は戦況を見極めながら最適解を選び、エンドラインに立つ。そして、ベストサーブを放つのだ。

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