この記事をまとめると
■Sクラスに相当する最上級の電気自動車「EQS」がメルセデス・ベンツより登場した■EQS 450+とAMG EQS 53 4MATIC+をラインアップ
■「AMG EQS 53 4MATIC+」はAMG初の電気自動車
Sクラス相当のBEVはフラッグシップに相応しい1台だ
昨年12月に開票された“2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー”では、日産サクラ/三菱ekクロスEVがイヤーカーに輝いた。軽自動車としては初となるイヤーカーの受賞であり、電気自動車としては2011年の日産リーフに次ぐ2回目の受賞。軽自動車としての強みに電気自動車の強みを掛け合わせ、そのメリットを何倍にも膨らませた両車が段トツともいえる得点で1位となったことには、僕も素直に納得できる。
思えば2022年は、EVが存在感を大きく膨らませた1年だったといえるだろう。EV専用モデルだけでも日本勢ではトヨタbZ4X/スバル・ソルテラと日産アリアがデビューしているし、輸入車勢ではインポート・カー・オブ・ザ・イヤーに輝いたヒョンデ・アイオニック5、アウディeトロンS、BMW iX、フィアット500e、テスラ・モデルY、ボルボC40リチャージ、メルセデス・ベンツEQBなどが上陸を果たしている。
そしてこのメルセデス・ベンツのEQSも、同じく2022年にわが国へ導入されたモデルだ。これまでEQA、EQB、EQCと電気自動車のラインアップを拡大してきたが、EQSはそれらのトップエンドに位置していて、内燃機関のモデルでいうならSクラスにあたるフラッグシップである。さすがに最高峰だけあって、既存のEQシリーズが内燃機関のモデルをベースとするのに対し、ゼロから設計した専用の車体が与えられている。電気自動車専用の車体は、メルセデスとして初めてのこと。力の入れようが察せられるというものだ。

これまでのメルセデスとはちょっと違う、というのは何も知らずにこのクルマを見た人であってもそこはかとなく感じられるかもしれない。スタイリングから受けるイメージがまったく異なってるからだ。5225mmという全長はSクラスのスタンダードボディとロングボディのちょうど中間ぐらい、1925mmという横幅はほぼ同じだが、EQSのデザインはSクラスと較べてグッと未来的というか空力的というか、初めて見る新鮮さ。
驚いたことにハッチゲートまで備えていた。低く短いノーズ、なだらかで長いルーフ、短いデッキが、なだらかなラインで繋がっている。

クルマを真横から見ると、やたらとホイールベースが長い。3210mmという数値はSクラスのロングボディ=ロングホイールベース版とほぼ同じなのだ。だからいうまでもなく室内は広々としている。
ドライバーズシートに座ってみると、リヤシートがずいぶん後ろにある。目の前のダッシュボードには、ああ、これが時代の変化なんだな、と思わされる。モデルによっては助手席側はオプションだが、運転席から助手席まで3つの液晶パネルが並んでるのだ。助手席に座って移動しながら動画を楽しむことだってできる。ダッシュパネルには物理的なスイッチはほぼ皆無。

走り出す前からいろいろ目を惹くところの多い電気自動車版Sクラスだが、このEQS、日本では“メルセデス・ベンツEQS 450+”と“メルセデスAMG EQS 53 4MATIC+”の2本立てでのスタートとなった。
どちらもエネルギー容量107.8kWの大きなバッテリーを搭載してることは共通しているが、EQS 450+は“eATS”と呼ばれるモーターを含んだパワートレインをリヤアクスル上に配置する後輪駆動。最高出力は333馬力、最大トルクは568Nmだ。WLTCモードでの航続距離は、なんとは700km!
もう一方のAMG EQS 53 4MATIC+は、前後にひとつずつのeATSを搭載するAWDモデルで、658馬力と950Nm。これがレーススタート使用時には761馬力と1020Nmに引き上げられるのは、さすがAMGといったところか。それでも航続距離は601kmである。

もっとも、それだけ容量の大きなリチウムイオン電池のメリットをしっかり活かそうとするならば、充電に時間を要することを覚悟する必要もある。CHAdeMOを使った急速充電で電池残量10%から80%までにかかる充電時間は、50kWタイプで約110分、90kWタイプで約55分、150kWタイプで約48分、電池残量10%から30分充電を行うと、それぞれ充電量が29%、47%、59%だったという検証結果が公表されている。
重さを感じさせない異次元の走りはやっぱりSクラス!
ともあれ、まずはEQS 450+で走り出してみることにした。2.5トンを越える車重に333馬力だからあまり期待してはいなかったのだが、いや、さすがはモーター駆動。

が、なにより秀逸に感じられたのは、その滑らかさ、静かさ、そして乗り心地のよさだ。とくに路面の凹凸をしっかり吸収して柔らかく受けとめつつ車体の動きをちゃんと収めていくときの心地よさが永遠に続いていく乗り味が素晴らしい。もちろんそれはエアサスペンションと可変ダンパーが見事な連携を見せて絶妙なバランスに保ち続けてくれるからにほかならないのだけど、快適とはまさにこのこと、とすら感じられたほどだった。

その足腰の動きのよさは、ワインディングロードでもきっちり実力を示してくれた。そういうクルマじゃないということは重々承知してるけど、重心の低さを武器にして、適切なロール感と粘り強さを感じさせながら、自然に、そして気持ちよく素早く曲がってくれる。まるで小型車のように軽やかに、だ。
それには最大で4.5度、オプションのソフトウェアをインストールすれば10度まで逆相に切れるリヤアクスルステアが大きく貢献してるのも確かだろう。並みとはいえない車体の大きさと長いホイールベースを持つというのに、こうした道でも持て余すことなく気持ちよく走れ、それどころかちょっとした路側帯でもあれば切り返しをすることなくUターンできてしまう小まわりのよさは感動的とすらいえる。
外から見てると不自然なくらいに後輪がステアするのだけど、ドライブしてるときには不自然さを感じることがない。チューニングの妙、というヤツだろう。ちなみにこの機構は当然ながらAMG EQS 53 4MATIC+にも備わっていて、そちらは最初から9度に設定されている。

次にはそのAMG EQS 53 4MATIC+を走らせたのだけど、AMGブランドが初めて世に送り出した電気自動車は、それに恥じない強烈なパフォーマンスを見せつけてくれた。スタートしようとボタンを押して、これまでのAMGに特有だった野太いサウンドが聞こえてこないことに軽く不思議な感じを覚えたが、それも束の間。走り出してみれば、紛うことなきAMGのクルマであることを実感させられる。

なにせ658馬力に950Nm、だ。アクセルペダルをさほど強く踏み込まないうちから、その底力をたっぷり感じさせてくれるような厚みを感じさせてくれる。アクセル操作に対する反応はEQS 450+よりも明らかに素早く、力強の盛り上がりも段違いだ。グッと踏み込んでみると、加速感は圧倒的。一気に空気の壁を突き破って前へ前へと突き進もうとする。
モードを“レーススタート”にしてみると、さまざまなスーパーカーをも体験させてもらってきた身であるというのに、1020Nmのトルクが瞬間的に爆発した(!)かのような怒濤の加速に身震いさせられちゃう始末。

曲がりっぷりも、やっぱり見事だった。クルマの性質上、サスペンションはEQS 450+よりも硬めの味つけで、コンフォートモードで走っていても低中速域では路面の表情を少しばかりゴツゴツした感じで伝えてくるものの、その分だけロール感は少なくコーナリングスピードも速く、AMGというブランドのイメージに相応しい走りを堪能させてくれる。リヤアクスルステアのおかげでときとして機敏にすら感じられる反面しっかりと腰が据わったフィールも享受できるのは、4MATIC+のAWDシステムが巧みにバランス取りを担ってくれてるからに違いない。
AMG EQS 53は馬鹿っ速ではあるけれど危険な香りはどこにも漂っておらず、その気になれば乗り心地こそちょっと硬めながらそれなりに快適といえる穏やかなショファードリブンカーとしても充分に機能してくれる。そのあたり、じつによく練り込まれてるように思えるのだ。

個人的にはゆったりまったり至極快適なEQS 450+のほうにより強い魅力を感じてたりはするのだけれど、この両車がそれぞれメルセデス・ベンツとメルセデスAMGの電動部門のフラッグシップであることに、不満も疑問もない。ただただ“お見事!”と思わされるばかりだ。
メルセデスって本当に恐ろしい、と思う。いや、もちろんいい意味で、だけど。
