この記事をまとめると
■自動車メーカー5社で不正問題が発覚した■業界全体で見ると数百万台に上る大規模な問題となっている
■自動車業界全体の信頼回復へ向けての具体的な動きを期待したい
自動車メーカー各社で不正が相次いで発覚
日本においてクルマを量産、販売するために必須といえるのが「型式指定」を受けること。昨年来、ダイハツ工業や豊田自動織機などが「型式指定」の申請に不可欠な認証業務においてさまざまな不正(以下:認証不正と記す)を行っていた報道もあって、型式指定の重要性は多くの自動車ユーザーが知ることになっているだろう。
当然、これらは型式指定に関する監督官庁である国土交通省も問題視している。
結論からまとめれば、6月3日段階で認証不正があったことを確認したと発表したのはトヨタ、ホンダ、マツダ、スズキ、ヤマハ発動機の5社。スズキとヤマハ発動機はそれぞれ1車種のみで台数規模も小さめだったが、そのほかの自動車メーカーでいえば、認証不正対象が全325万台となっているホンダをはじめ大きな規模となっている。
●各社認証不正 車種数
ホンダ 22車種 (フィット、NSXなど)
トヨタ 7車種(ヤリスクロス、レクサスRXなど)
マツダ 5車種(アテンザ、アクセラなど)
スズキ 1車種(アルトバン)
ヤマハ発動機 1車種(YZF-R1)
ただし、認証不正が確認された車種はすべて現行モデルというわけではない。現行モデルは、トヨタの3車種(カローラフィールダー/カローラアクシオ/ヤリスクロス)、マツダの2車種(ロードスターRF/MAZDA2※)、ヤマハ発動機の1車種(YZF-R1)という3社6車種に限られる。
※1.5リッターガソリンエンジン2021年6月以降販売モデル

つまり認証不正により出荷停止となるのは、上記6車種になる。ヤマハ発動機のスポーツフラッグシップであるYZF-R1やマツダの2シーターモデルであるロードスターRFを除くと、いわゆる大衆車と呼ばれるモデルが並んでいる。生産再開までのスケジュールも読めず、非常に影響は大きいといえるだろう。とくにヤリスクロスは、「ヤリス」ファミリーの販売を支える人気モデルであり、国内での販売ランキングにおける影響も大きそうだ。

なお、ホンダとスズキについては認証不正が認められたモデルが、すべて販売終了となっているため生産・販売における問題はないといえる。
オーバースペックが正義とは限らない
各社の認証不正はけっして同じものではないが、多くに共通しているのは『オーバースペックで試験をしておけばいいだろう』としたもの。

不正のなかで残念に感じるのはマツダ・ロードスターRFが出力試験において、量産とは異なる制御プログラムで行ったという事例だ。その背景は、エンジンベンチ試験室の温度が上がってしまい走行中のエンジンルームとは異なる環境になってしまったためということだが、スポーツカーであればこそ、しっかりと対策をして正々堂々と試験をしてほしかった。同様に、レクサスRX(旧型)においてもエンジン出力試験での不正が認められたという。

ダイハツの認証不正では、衝突試験におけるエアバッグのタイマー着火(本来の仕組みではなくエアバッグを展開させること)が問題視されたが、同様の不正はトヨタ・クラウン、マツダ・アテンザといったフラッグシップモデルにて確認されたというのは闇深い。
マツダについてはマイナーチェンジ時にインパネ形状を変えた影響を精緻に確認したくてタイマー着火をしてしまったというが、それは実験段階までにとどめておくべきであって、その数値を型式指定の申請に使ってしまったのは、遵法精神に則る仕組みづくりができていなかったとのは残念といえる。

ちなみに、スズキ・アルトバンにおける不正内容はABSなしモデルにおけるフェード試験の結果をごまかしたというもので、停止距離を実際より短く記載して申請していたというもの。止まる性能をごまかすというのは悪質だが、同じ試験をやり直した結果は問題なかったというから、継続して使用しても大丈夫ということだ。
他メーカーにおいても記者会見を見る限り、世に出まわっているモデルについてリコールになるような問題は起きていないようだ。出荷停止となった6車種についても、ダイハツの各車種がそうだったように国土交通省などにより安全が確認されれば生産は再開することだろう。

しかしながら、根本的な問題は再び販売できるということではない。自動車メーカーへの信頼が失われたこと、そしてブランド価値が毀損されたことが問題だ。個社での対応にとどまらず、自動車業界として信頼回復へ向けての具体的な動きを期待したい。