SUVのサードシートにはそもそも構造的に不利な面が多い
2020年の上半期、もっとも売れた乗用車はトヨタ・ライズ。SUVがトップを飾るのも珍しいが、そのOEM車であるダイハツ・ロッキーや、トヨタRAV4、トヨタC-HR、ホンダ・ヴェゼル、マツダCX-30といった車種たちもコロナ禍の中で堅調。コンパクトカーやミニバンといったメインどころに食いついて健闘している。
そんなSUVのなかには、ミニバンのような3列シート車もあるのをご存じだろうか。マツダCX-8やトヨタ・ランドクルーザー&ランドクルーザープラド、レクサスRX、ホンダCR-V、日産エクストレイルなど各メーカーがラインアップしている。コンパクト系のSUVに比べると販売台数は落ちるが、一定のニーズはあるとみていいだろう。
だがその一方、実際にSUVのサードシートを見てみると正直窮屈そうなのだ。そもそもSUVは車高が高いからフロア位置も高く、それでいてルーフは低めゆえ室内高にあまりゆとりがない。とくに3列目はフロアが高くなるので、足を自然な角度まで下ろせず、着座姿勢も苦しくなる。ボディはワゴン形状だが、ボンネットが長めな分、室内長もミニバンほど広くできない。おまけにドアはヒンジ式で3列目へのアクセスも良いとはいえない。

なかには「子供じゃないと乗れなくない!?」という車種もある。なぜそうまでしてメーカーは3列シート仕様を作っているのか。簡単にいうなら「ニーズがあるから」のひとことで終わってしまうが、もう少し突っ込んで考察してみたい。
まずは3列目シートを搭載する現行のSUV(国産)を挙げてみよう。
レクサス…レクサスLX570(2760ミリ)、レクサスRX450hL(2630ミリ)
トヨタ…ランドクルーザー(2520ミリ)、ランドクルーザープラド(2520ミリ)
マツダ…CX-8(2690ミリ)
日産…エクストレイル(2555ミリ)
ホンダ…CR-V(2520ミリ)
三菱…アウトランダー(2580ミリ)
※三菱・デリカD:5は基本ボディ形状がミニバンなので今回は省いた
これらのなかでも3列目にもっともゆとりがあるのはCX-8。たいていの車種は2列目に大人が普通に座った場合、3列目の人は膝が前席にくっついてしまうレベルなのだが、CX-8は若干の余裕あり。大人のフル乗車でもなんとかなりそうな雰囲気である。
だがそのCX-8にしても、一般的なミニバンの3列目とは比較にならない。それ以外の車種ならなおさらだ。座席の形状や質感、アームレストやエアコンなどの装備、頭上のクリアランスといったポイントに多少の差はあれども、劇的な違いはなく、総じて広いとはいえない。
昔から3列シートを採用していたのはランクル&プラドだが、今主流のクロスオーバーSUVのなかで早かった車種といえば三菱アウトランダー。2005年の発売当時から2列シートの5人乗りに加えて3列シートの7人乗りも用意しており、このジャンルの草分けのようなイメージもある。残念ながらその3列シートを備えたガソリン車は生産終了となり、今後は2列シートのPHEVのみになってしまうのだが……。それはさておき、参考までにアウトランダーのサードシートについて三菱の広報部にいくつか質問してみた。

Q.3列シートを採用した理由は?
A.発売当時、このクラスで3列シートを搭載しているSUVが珍しかったこと。
Q.3列目シートの強みは?
A.SUVでありながらミニバンのように大勢の乗車が可能であることです。また優れた走行性能を有しているのもメリット。4WDモデルでは三菱独自の四輪制御技術「S-AWC」を搭載し、意のままの操縦性と卓越した走破性を両立しています。
Q.どんなユーザーに支持されている?
A.キャンプや釣り、マリン&ウインタースポーツといったアウトドアレジャーを趣味に持つ、比較的若い4人~5人家族の方が多いですね。室内の広さや多人数乗車時のゆとり、シートアレンジや使い勝手などを重視されているようです。なお5人乗りのPHEVモデルの方は2人世帯のお客様に選ばれることが多く、モーターならではの加速や運転の楽しさといった走行性能に加え、静粛性や環境性能、日々のランニングコスト、補助金といった経済性も重視されているようです。
Q.3列目が狭いといった声もあるが、それに対する率直な意見は?
A.アウトランダーの3列目は、たとえば実家に帰省した際に祖父母や親戚の方を乗せるような場合。あるいはお子様の部活や習い事などの送迎時など、おもに短い時間の乗車を想定しています。つねに3列目もお使いいただくことを想定されているお客様にはデリカD:5をおすすめしております。
Q.3列目の快適性や居住性を確保するために努力した点は?
A.現行モデルでは3列目シートの格納構造を見直し、荷室空間を侵すことなくスペースを確保しました。同時にシートの厚みを増して乗り心地も向上。また静粛性を強化し、収納スペースなども充実させることで、3列目の快適性をアップさせています。

ということで、やはり狙いは「SUVなのに7人乗れる」。ただミニバンと違うのは、日常的に3列目を使うというよりは、「たまに乗せることもある」「イザという時に乗せられる」といった補助的・エマージェンシー的なニュアンスである点。コンパクトミニバンで3列シート仕様をラインアップするトヨタ・シエンタやホンダ・フリードに近い感覚かもしれない。
確実に売れ行きが伸びているのはコンパクト&ミドルサイズだ
ミニバンと作りが違うとはいえ、SUVだってボディサイズを拡大すれば3列目も広くできるのではないか。たとえば全長5635ミリ、ホイールベースは3345ミリを誇るリンカーン・ナビゲーター(ロングボディ)の3列目はミニバンに遜色ない広さを誇る。
まあそれは極端な例としても、ほかにも輸入車ではメルセデス・ベンツGLS、BMW X7、アウディQ7、ボルボXC90といった車種が3列シートを採用。これらは全長が5メートル前後のフルサイズSUVということで、3列目も比較的広い。ミニバン並みとはいえないまでも、標準的な体型の大人なら乗れるレベルだ。どれも価格は高いが……。

国産SUVでそのあたりとサイズ的に張り合えるのは全長4900ミリのCX-8だけ。エクストレイル・CR-V・アウトランダーは全長4700ミリ以下のミドルサイズなので、シートを3列並べるとどうしても余裕はない。逆にいえばボディをひと回り大きくすれば余裕ができそうだが、冒頭にもお伝えした通り、今売れているSUVはロッキーやRAV4といったコンパクト&ミドルサイズ。わざわざフルサイズを用意するメリットはあるだろうか。

確かにCX-8は2018年に約3万台、2019年は約2万3000台と売れた。今年も「2020年上半期、3列シートSUV販売台数No.1」をうたっているが、そもそもライバルが多くはない。販売台数で見ると2020年10月までの合計は約1万2000台に留まっている。コロナ禍の今、自動車メーカーとしてはリスクを冒してフルサイズSUVに挑んでいくよりも、確実性の高いコンパクト&ミドルSUVに力を注ぐのが自然だ。
ちなみにランクルやプラド、レクサスLXなどはボディサイズは大きいのだが、基本設計がラダーフレームのクロカン四駆ということもあって、見た目の割に室内は広くはない。またレクサスRX450hLは全長5000ミリあり、室内長も2列シートの標準ボディと比べて545ミリ伸びているが、RXはもともと室内がコンパクト(室内長2095ミリ)。約55センチ伸ばしたところでサードシートは窮屈だ。かといってこれ以上ボディを拡大すると使い勝手が落ちる。

今どきのSUVはお洒落でスタイリッシュで、街でもアウトドアでも映える。地上高が高いから悪路にも強く、万が一の災害時にも頼りになりそうだ。室内はそこそこ広く、荷物もたくさん積める。確かにミニバンの方が広いけど、カッコいいし走りやすいし、普段使いならコレ1台で十分でしょ、ということでSUVは売れている。
購入するユーザーにしてみれば、3列目シートはそのオプションのようなモノ。あったら嬉しいけどマストではない。マストな人はスライドドアのミニバンを選ぶだろう。
メーカーはそうしたニーズに応えて3列目を用意している。ゆうゆうと7人乗れるSUVも作れなくもないだろうが、ボディサイズが大きくなりすぎて日本の道路環境には合わないだろうし、コストも跳ね上がる。スペースの問題でHVやPHEVも作りにくい。現に国産SUVで3列シートを搭載しているHVモデルはレクサスRX450hLしかない。

おそらく今後も、広いサードシートを搭載したフルサイズSUVがガンガン出てくることはない気がする。ただ先日、公式発表ではないものの、クラウンが現行限りで生産終了となり、代わりに新型のSUVが登場するという報道があった。憶測だがその新型車のベースになるのが、トヨタの海外向けSUV・ハイランダー(7/8人乗り)では? という話もある。またそれとは別に、純粋にハイランダーが日本に導入される可能性もゼロではない。
そうなった場合、3列シートSUVの勢力図も変わり、フルサイズが増える可能性もある。またミドルサイズSUVの3列目も、もっと快適性&居住性の改善が進むに違いない。