この記事をまとめると
■日産が2030年までに15車種のEVを導入するとした「日産アンビション2030」を発表



■EVを生産するだけでなくサービスと組み合わせたエコシステムを推進することを提示



■日産は総合的な視点で脱二酸化炭素事業へ打って出ることを宣言している



日産が2030年までに取り組む内容を発表

昨年12月にトヨタが開いた、バッテリーEV戦略に関する説明会は、新聞やテレビなど大手媒体で大々的に報じられた。バッテリーへの投資額を従来の1.5兆円から2兆円へ増額したり、2030年までに30車種のEVを投入することによりバッテリーEVをフルラインアップで揃え、2035年にはグローバルでEV100%を目指すとした。また、将来的にレクサスをEV中心のブランドとしていくことも表明した。



その前の11月に、日産自動車は、長期ビジョンとして「日産アンビション2030」を発表している。2030年までに15車種のEVを導入するとした。トヨタの30台投入に比べ半分の計画だが、世界の年間新車販売台数がコロナ禍の影響を受けた2020年集計で、トヨタが900万台近いのに対し日産は400万台強なので、約半分にとどまる。互いにフルラインアップメーカーではあるが、販売規模が違う。そのなかでのEV計画として、日産に遜色があるとはいえないだろう。



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EVへの投資額で、日産は電動化に2兆円を充てるとした。

電動化とバッテリー投資という言い方を同列に比べることはできないが、バッテリー確保がEV導入や電動化の中心であり、トヨタの2兆円とそれほど大きな差があるとは思えない。逆にトヨタは、12月の発表まで投資額を含めたEVへの積極性に不足があったとみるのが正しいだろう。



そのうえで、日産の「アンビション2030」で注目すべきは、単にEVの販売計画を述べるだけでなく、英国で発表したEV生産ハブの考えを日・米・中国の主要市場へ展開し、生産とサービスを組み合わせたエコシステムを推進するとしていること。



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EVで他社に先行する日産はEV普及後の社会を考えている

また、すでに初代リーフ発売前に設立したバッテリー再利用などを行う事業を、欧米に展開すること、さらに、2020年代の半ばにはV to X(EVからの電力供給)と、家庭用バッテリーシステムの商用化により、EVで使い終えたリチウムイオンバッテリーの二次利用を促進する計画を述べている。



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それら実現ため、研究開発部門の先進技術領域に3000人規模の新規採用を行うとしている。つまり、単にEVへの転換だけでなく、総合的な事業視点と、新たな雇用創出も併せて進行させているのである。

急速なEV化が雇用を危うくするとの短絡的な着想とは大違いだ。



トヨタを含め欧米の自動車メーカーは、EVを作り販売することにまだ精一杯だが、12年前にEVを市販した日産は、総合的な視点で脱二酸化炭素事業へ打って出ることを「アンビション2030」で宣言したのだ。EVを導入する意義を含めた未来に対する明確な目標を提示できているのは、現時点で日産だけだろう。



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単に全車をEVにすれば問題が解決し、未来が拓けるのではない。社会全体の仕組みとしての移動やサービス、そして暮らしのなかのエネルギー活用や管理といった視点まで含めて初めて、EVへ転換する意義が明確になるのである。福島県浪江町で日産がはじめた、EVの充放電システムを活用したエネルギーマネージメントシステム実用化の検証はその象徴ともいえ、EVを販売していなければできない事業だ。



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日産は、いまさら全車をEVにするなど声高にいわなくても、日産にとってそれは当然の行く末であり、時間とともに解決されていく姿なのだと私は思う。そこをきちんと報道するのが、ジャーナリズムのなすべきことである。