この記事をまとめると
■欧州メーカーはサプライチェーンの分断で生産調整を余儀なくされている



■ロシアの自動車産業は投資対象ではなくなり多くのメーカーが撤退を検討



■ロシア市場を失う大手メーカーはさらに生き残りが厳しい状況になっていく



ロシアの自動車工場はほとんどが操業停止している

2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻した。それから一カ月以上経っても紛争状態は続いている。グローバル社会において、これはロシアとウクライナという隣国同士の争いではなく、自動車産業も大いに影響を受けている。



メルセデス・ベンツフォルクスワーゲンといったドイツの自動車メーカーは、ウクライナで製造していたから、自動車部品(電気ハーネス類)の輸入が滞っていることで、生産調整を余儀なくされているという。グローバルにつながる自動車産業、そのサプライチェーンの根幹となる調達領域において問題が生じているのだ。



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なお、こうした問題については停戦交渉が進んでいくことで、順調に回復することが期待できる。



一方で問題となるのはロシア自動車産業の将来だ。



ロシアの経済規模とポテンシャルを期待してか、同国の伝統的なメーカーだけでなく、多くの自動車メーカーが完成車工場を置いている。しかし、そうした工場の多くは、西側諸国が実施する経済制裁に伴い、ほとんどが操業停止状態にある。



それでも撤退するしかない! ロシアの150万台規模の市場を失う自動車メーカーに訪れる危機



それはロシアで事業を続けることでブランドイメージを落としたり、社会的に批判を受けたりすることを避けるためという意味もあれば、輸出入の制限によるサプライチェーンの分断による面もある。決済リスク、為替リスクなどからビジネスを続けていくことの難しさから、一時的にビジネスを止めざるを得ないという部分もあるだろう。



いずれにしても、紛争が解決したとしてもロシアへの経済制裁が解除されない限りは、侵攻以前のような状態に戻ることはないだろう。そして、ロシアのカントリーリスクが明らかとなった今、ロシアの民族系メーカーに出資しているメーカーを除いて、多くは撤退の方向で考えていくことになるだろう。シンプルに言えば、ロシアの自動車産業は資本主義経済において旨味のある投資対象ではなくなっていくと考えられる。



日独米のメーカーがロシア市場に再参入することは考えづらい

日系メーカーでいえば、すでにホンダがロシア市場からの撤退をアナウンスしているほか、スバル三菱自動車はウクライナへの支援を発表するなど、ロシアと距離を置く経営判断をしていることは明らかだ。

さらに、トヨタもロシア市場からの撤退を示唆する情報を発信している。



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各社とも投資を回収できない可能性は高く、その意味では特別損失を計上する可能性も少なくないが、ロシアでのビジネスを続けるリスクのほうが大きいであろうことは明らかで、こうした判断は順当といえるだろう。



今後のロシア市場において、ブランドとして日独米の大手メーカーが参入することは考えづらい。その隙を突くように中国系のメーカーが市場シェアを拡大させる可能性もあるが、どうなるだろうか。



また、すでに日本経済に出ている影響でいえば中古車輸出がある。



日本(新潟や小樽など)からロシア(ウラジオストク)に船で中古車が運ばれていることはよく知られているが、今回のウクライナ侵攻による経済制裁を受けて、そうした中古車輸出は大減速している。



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そのため、中古車の取引価格が下がっているという報道も出てきている。中古車業界にはバッドニュースだが、中古車価格の上昇によって欲しいクルマの価格が上がっていると嘆いていた一部のユーザーにとってはグッドニュースといえるのかもしれない。



いずれにしても、日本の自動車産業においてロシアが経済的・外交的に孤立することは、良くも悪くも影響は大きい。それも一時的ではなく、恒常的に続くと予想するのが妥当だ。



全盛期の300万台近い規模感からは半減しているとはいえ、ロシアの自動車市場は150万台規模であり、その市場を抜きに未来を組み立てるというのは、全世界の自動車メーカーにとって台数的にはマイナスになることは確実だ。



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CASE革命など100年に一度の大変革期という非常に変化の激しい時期にある自動車業界にとって、ロシア市場を失うという予想外の展開は、さらに生き残りが厳しい状況になっていくだろう。

ただし、ロシア市場については電動化にさほど積極的ではなく、電動化シフトの目標を前倒しにしていたメーカーほど影響は少ないかもしれない。



とはいえ、ロシアのウクライナ侵攻による経済的影響で、資源相場が全体的に上がっていることで、リチウムイオン電池や駆動モーターなどのコストを押し上げている面があるのは否めない。しばらくの間、電動車の価格帯は上昇トレンドになるといえそうだ。

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