「採用は人事の仕事」という意識が根強い現場部門では、転職市場の実態を知らないケースも少なくありません。その結果として起きるのが、要件が限定的で応募が集まらない求人票、「もっといい人が来るかも」という期待から先延ばしにされる書類選考、そして「選ぶ側」という認識から生まれる選考での不用意な態度。

こうした採用停滞の要素には、現場の市況理解不足が影響しています。

この課題を解消するために有効なのが、転職市場を「数字」で現場にインプットするというアプローチです。パーソルキャリア株式会社が運営する転職サービス「doda(デューダ)」は、業種別・職種別の転職求人倍率を算出し、「doda転職求人倍率レポート」として発表しています。本記事では、2025年下半期の転職求人倍率と、採用を加速させるためにデータをどのように活用できるのか、解説します。記事内の2025年下半期の転職求人倍率はダウンロードできますので、ぜひ採用にご活用ください。

そもそも求人倍率とは

有効求人倍率(※)とは、厚生労働省が毎月発表している「求職者1人につき、何件の求人があるか」を表す数値のことです。ハローワークの「有効求人数」と「有効求職者数」を基に算出されます。

(※)有効とは「ハローワークでの求人数や求職者数が有効期間内にあること」を意味します。ハローワークでは、求人、求職のいずれも有効期間を「2カ月間(翌々月の末日まで)」と定めています。

有効求人倍率は、以下の式に当てはめて求めます。

有効求人倍率=有効求人数÷有効求職者数

100件の求人に対し100人の求職者がいるとすると、有効求人倍率は100÷100で「1倍」。求職者1人につき、1件の求人がある状態です。一方、求人50件に対し求職者数が100人になると、有効求人倍率は50÷100で「0.5倍」。

求人100件に対し求職者数が50人の場合、有効求人倍率は100÷50で「2倍」。

一般的に、有効求人倍率が1倍を上回り「求職者よりも求人数が多い」状況を「売り手市場」、1倍を下回り「求人数より求職者の方が多い」状況を「買い手市場」と呼びます。

詳しくは下記の記事も参考にしてみてください。

【最新版】有効求人倍率とは?推移グラフから何がわかる?計算方法や傾向を簡単解説

「今、どれくらい採用が難しいのか?」業種・職種・エリア別に解説

2025年下半期 求人倍率の推移|右肩上がりで、売り手市場は加速

「応募まだ?」と言わせない―現場を“採用の当事者”にする転職市況の伝え方(求人倍率データ付)

2025年下半期、全国・関西・中部のいずれのエリアにおいても、求人倍率は一貫して右肩上がりの上昇傾向を示しています。求人倍率が1を大きく上回って推移していることから、全体として「売り手市場」の状況が続いていることがわかります。

2025年12月時点では、いずれのエリアでも2.5倍以上を記録しており、特に全国(2.96倍)・中部(2.97倍)は3倍に迫る水準に達しました。これは、転職希望者1人に対して2.5件以上の求人が存在する状態を意味しており、採用市場における企業間の競争が一段と激化していることを示しています。企業は、求人を出して応募を待つだけの採用スタイルが通用しない局面に突入していると言えるでしょう。

特に注目すべきは、10月以降に明確な上昇トレンドが見られる点です。年末・年度末に向けて採用を再加速させる企業が増加することが、この時期の倍率上昇の主な要因と考えられます。

「doda」の解説によると、12月に求人倍率が上昇する背景には、年末に向けて転職希望者数が例年減少する傾向があり、今年も同様の動きが確認されています。求人数よりも転職希望者数の減少幅が上回ったことで、転職求人倍率が押し上げられる構造となっています。

エリア別に見ると、関西は他エリアと比較して倍率の水準こそ低いものの、伸び率は高く(7月:2.11倍→12月:2.56倍)、今後さらなる上昇が考えられるかもしれません。

業種別の転職市場動向|全国的に「人材サービス」「IT・通信」が高い傾向に

ここからは、IT・通信、メディア、金融、メディカル、メーカー、商社、小売・流通、レジャー・外食、エネルギー、建設・不動産、コンサルティング、人材サービスの、12業種の転職求人倍率を比較します。

■全国

2025年下半期における転職求人倍率が高い業種TOP3は「コンサルティング」、「人材サービス」、「IT・通信」でした。全体平均の求人倍率と比較すると、約2.5倍~3.5倍の倍率となっており、採用市場が厳しい業種であることがわかります。

2025年下半期において、最も求人倍率が伸長した業界は「小売・流通」です。半年間での伸長率は131%と、全国平均の122%を大きく上回りました。特に2025年10~12月にかけての伸長率が高くなっています。年末商戦に向けて「小売」では大型スーパーを中心とした採用強化、「流通」ではEC需要の拡大を背景にトラックドライバーや倉庫管理といった職種での採用強化が影響したと考えられます。

■関西エリア

2025年下半期における関西エリアの転職求人倍率が高い業種TOP3は「コンサルティング」、「人材サービス」、「IT・通信」で、全国の傾向と一致しています。関西エリアの全体平均と比較すると、求人倍率は約2.5~4倍以上となっており、関西エリアにおいても採用競争が激しい業種であることがわかります。

2025年下半期において、関西エリアで求人倍率の伸長率が最も高かった業界は、全国と同様に「小売・流通」でした。半年間での伸長率は134%と、関西エリア平均の121%を大きく上回っています。

■中部エリア

2025年下半期における中部エリアの転職求人倍率が高い業種TOP3は「人材サービス」、「IT・通信」、「建築・不動産」です。全国および関西と比較すると、「コンサルティング」の代わりに「建築・不動産」がランクインしている点が特徴的です。

中部エリアの全体平均と比較すると、求人倍率は約2~5倍となっており、中部エリアにおいて採用競争が激しい業種であることがわかります。

2025年下半期において、中部エリアで求人倍率の伸長率が最も高かった業界は、「人材サービス」でした。半年間での伸長率は136%と、中部エリア平均の123%を大きく上回っています。

「応募まだ?」と言わせない―現場を“採用の当事者”にする転職市況の伝え方(求人倍率データ付)
doda 転職求人倍率レポート(2026年1月号)
doda 転職求人倍率レポート(2026年1月号) 業種別トップ3までをご紹介しましたが、レポート内では全12業種の求人倍率をまとめています。自社業界やエリアの転職市場動向・需給トレンドを確認したい方は「doda転職求人倍率レポート」をご覧ください。⇒資料を無料ダウンロード

職種別の転職市場動向|エンジニア(IT・通信)の人材の需要が集まる

ここからは、営業、企画・管理、エンジニア(IT・通信)、エンジニア(機械・電気)、専門職(メディカル)、専門職(化学・食品)、専門職(建設・不動産)、専門職(コンサル・金融)、クリエイター、販売・サービス、事務・アシスタント、その他の12職種を比較します。

■全国

2025年下半期における転職求人倍率が高い職種TOP3は、「エンジニア(IT・通信)」、「専門職(コンサル・金融)」、「専門職(建設・不動産)」です。全体平均の求人倍率と比較すると、約2倍~4.5倍の倍率となっており、採用競争が激しい職種であることがわかります。

2025年下半期において、求人倍率の伸長率が最も高かった職種は「事務・アシスタント」でした。半年間での伸長率は143%と、全国平均の122%を大きく上回っています。

■関西エリア

2025年下半期における関西エリアの転職求人倍率が高い職種TOP3は「エンジニア(IT・通信)」、「専門職(建設・不動産)」、「エンジニア(機械・電気)」です。関西エリアの平均の求人倍率と比較すると、約2.5倍~5倍の倍率となっています。技術人材を巡る争奪戦が続いており、採用競争が激しい職種であることがわかります。

2025年下半期において、関西エリアで求人倍率の伸長率が最も高かった職種は「専門職(化学・食品)」でした。半年間での伸長率は148%と、関西のエリア平均の121%を大きく上回っています。

■中部エリア

2025年下半期における中部エリアの転職求人倍率が高い職種TOP3は、「エンジニア(IT・通信)」、「エンジニア(機械・電気)」、「専門職(建設・不動産)」で、関西と同様の結果になりました。中部エリアの平均の求人倍率と比較すると、約2倍~4.5倍の倍率に達しており、採用競争が激しい職種であることがわかります。

中部エリアは、製造業の需要が高い傾向にあります。特に自動車関連企業は、新技術の導入や生産ラインの拡充に伴い、専門職やエンジニアの採用を積極的に行っています。さらに、電動化や自動運転技術の進展により、これらの分野に精通した人材の採用が業界全体の課題となっています。

2025年下半期において、中部エリアで求人倍率の伸長率が最も高かった職種は「事務・アシスタント」でした。半年間での伸長率は154%と、中部エリアの平均の123%を大きく上回っています。

「応募まだ?」と言わせない―現場を“採用の当事者”にする転職市況の伝え方(求人倍率データ付)
doda 転職求人倍率レポート(2026年1月号)
doda 転職求人倍率レポート(2026年1月号) 職種別トップ3までをご紹介しましたが、レポート内では全12職種の求人倍率をまとめています。採用ポジションの転職市場動向・需給トレンドを確認したい方は「doda転職求人倍率レポート」をご覧ください。⇒資料を無料ダウンロード

現場に市況を理解してもらうための求人倍率データの使い方

現場に「応募まだ?」と言われた際のコミュニケーションのポイントは?

「募集をしているのに、なんでまだ応募が来ないの?」現場部門からこうした声を受けた経験のある人事・採用担当者も多いのではないでしょうか。現場の担当者が転職市況をよく知らないがゆえに求人要件の変更に応じてくれず、母集団形成がうまく進まないこともあるかと思います。

こうした膠着(こうちゃく)状態を打開するために有効なのが、転職市場を「数字」で見せるというアプローチです。

たとえば「IT業界出身のSEを採用したい」という現場の要望がある場合、2025年12月の転職求人倍率のデータを参照すると、エンジニア(IT・通信)は13.36倍という水準にあります。転職希望者1人に対し、競合となる求人がおよそ13件以上存在している状態です。そこへ「30歳以下」「大卒以上」「転職回数2回以内」「PL経験」といった条件が加わるとさらに採用が難しくなります。こうした市況データを提示することで、「この要件のままでは採用が難しい」という事実を、客観的な根拠をもって現場に伝えることが可能になります。

市場データで共通認識が生まれたら、次のステップとしておすすめしたいのが「Must / Should / Better」の3段階で採用要件を整理することです。人事・採用担当者は、現場の理想の転職希望者像と、現実の転職希望者のギャップを埋めるようなコミュニケーションを心がけてみてください。

現場がなかなか書類選考を進めてくれない際のコミュニケーションのポイントは?

「選考書類を確認してほしいのに、現場からなかなか返ってこない」という悩みも、人事・採用担当者からよく聞かれる声のひとつです。このような場合も、該当求人の職種市況を「数字」で説明することが有効に働きます。

たとえば専門職(建設・不動産)の転職求人倍率は6.76倍です(2025年12月時点)。転職希望者1人に対して、競合となる求人が6件以上ある状態。このような市場環境では、競合他社はすでに選考を進めている可能性が高く、自社だけが書類選考を止めてしまえば、その間に転職希望者が他社で意思決定をしてしまうリスクもあります。

「応募まだ?」と言わせない―現場を“採用の当事者”にする転職市況の伝え方(求人倍率データ付)

出典:パーソルキャリア株式会社 集計『書類選考日数と採用決定率の関係』

加えて、書類選考にかかる日数が長いほど、採用決定率が下がる傾向にあることも、データから明らかになっています

選考スピードを上げることで、競合他社よりも早く転職希望者と接点を持てるだけでなく、応募時の志望度を保ったまま選考を進められる点も大きなメリットです。

書類選考が長引くことによるリスクと、迅速に進めることのメリットを併せて伝えることで、現場の理解と協力を得やすくなるはずです。

“人事 vs 現場”ではなく“市場 vs 自社”の構図が「採用成功」のポイント

採用が思うように進まないとき、課題の原因を現場部門に求めてしまっても、状況が好転することは多くありません。現場が転職市場の実態や市況データを十分に把握していないのは、ある意味では自然なことです。その前提に立った上で、転職市場を客観的な「数字」や「データ」で示し、共通認識をつくることも、人事・採用担当者に求められる役割と言えるでしょう。

転職求人倍率などの市場データを通じて市況を正しく理解した現場は、「応募が来ない理由がわからず人事を急かす(せかす)存在」でも、「書類選考を後回しにしてしまう存在」でもなくなります。市場と向き合い、自社の立ち位置を理解した現場は、採用を共に推進する協力者へと変わっていくはずです

転職市場を客観的に捉えられる「数値」や「データ」を共有し、現場部門にも“採用の当事者”としての意識を持ってもらうこと。その積み重ねが、採用成功への確かな第一歩となるはずです。

「応募まだ?」と言わせない―現場を“採用の当事者”にする転職市況の伝え方(求人倍率データ付)
doda 転職求人倍率レポート(2026年1月号)
doda 転職求人倍率レポート(2026年1月号) 転職サービス「doda(デューダ)」が四半期に一度発行しているレポートです。業種別・職種別に、転職市場における需給トレンドをまとめています。「現場部門に採用難易度をデータで共有したい」「採用要件について現場部門と見直すきっかけをつくりたい」といった場面など、採用活動にぜひご活用ください。⇒資料を無料ダウンロード

企画・編集/酒井百世(doda人事ジャーナル編集部)、文・編集/岩田悠里(プレスラボ)

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