健康寿命が年々伸びていくなかで、年齢を重ねても性的な行為をしたいという男女が増えつつある。性風俗の取材を長年続けるライターの中山美里さんの最新著『ルポ 高齢者のセックス』から一部抜粋・再構成し、高齢者のマッチングビジネス、出会い喫茶の実態を紹介する。
熟女が男性をナンパする「出会い喫茶」
出会い喫茶というと、若い女性と出会いたい男性向けのお店が大半だが、最近では、人妻や熟女と出会えることを掲げたお店も増えている。
東京・上野にある「個室型出会い喫茶東京ドア」に伺って話を聞いた。お店には個室が9室あり、そこで1対1で女性とじっくりと会話をして、フィーリングが合えば、連絡先を交換したり、お店から出て店外デートを楽しんだりすることができるようになっている。初回利用時に払う入会金は3000円、入場料は60分5000円と比較的リーズナブルだ。
「常時、女性は12~13名ほどお店に来ています。30~40代が中心で、50代の方もいます。男性は30~60代と幅広い年齢層の方がいらっしゃいます。
ちなみに、キャバクラではないので、接客してもらうという姿勢だと会話が弾みにくいとのことだ。
実際にこのお店を利用したタカコさん(仮名・40代)に話を聞いた。
「友人から、こんなお店があるよと教えてもらい、足を運ぶようになりました。40~50代の方が多いけれど、80代のおじいちゃんもいましたね。風俗には行かないけれど、熟女と知り合いたい。
私は、お互い気が合ったら体の関係もありって感じなのですが、あからさまにパパ活的な目的の人もいるみたいですね。このお店は熟女が男性をナンパするというコンセプトなので、女性からガンガンいくほうがいいみたいですね。私はそれがなかなかうまくできなくて、苦戦しています(笑)」
タカコさんは専業主婦で、夫は長く単身赴任で地方に住んでおり、会うのは月2度程度。子供が小さい頃はワンオペで育ててきたが、すでに成人してほぼ手が離れている。そのため、子育てが一段落した頃からバーに飲みに行ったり、既婚者合コンで遊んだりするようになったという。
「近所に友達がいないんです。あまり深く付き合ってトラブルになるのも嫌なので、日常でするのは挨拶や世間話程度。でも、こういうところで出会った人とは付き合い方が濃いから面白いんですよね。出会い喫茶ではまだ出会えていませんが、交流会のような飲み会で知り合って1年弱続いている年上の男性がいます。お泊まりをしたり、趣味の場へ一緒に足を運んだりしています。
子供のある女性が不倫をしたり、配偶者以外の男性と性行為を楽しむことに対しては、まだまだ風当たりが強い。そういった風潮の中で、それでも自分の人生だからと性の部分での幸せを求めようとする女性も、少数ではあるが存在する。
離婚が珍しいものではなくなっていったように、今は少数である存在の声が顕在化していくことで、「妻は貞淑でなければならない」などの規範も変わっていくのかもしれない。
70~80代の男性と交際する
「熟女交際クラブ」のシングルマザー
交際クラブでもシニアの利用が増えている。残念ながら女性が費用を支払って、好みの男性を選ぶことができる交際クラブというものはまだないようだが、熟女が登録できる交際クラブというものはある。
聞いたところ、上は70代くらいまで登録している熟女がいるようだ。
ある熟女系交際クラブのケースだと、スタンダードクラスで入会金が4万円、紹介料が2万円だ。2年目以降は年会費2万円がかかってくる。これに加え、デート代や女性に対するお手当がある。
ここでは一体どのような出会いが待ち受けているのだろうか。熟女専用の交際クラブに登録をしているユミさん(42歳)に話を聞いた。
「現在、定期的に会っているのは10人くらいでしょうか。1人は2年くらいの付き合いになります。最年長が84歳、若い方で65歳です。お金をいただく関係ですが、勉強になることが多いし、尊敬できるので一緒にいると楽しいですね。中には、食事をするだけの方もいます」
特に深く付き合っている相手は現在76歳。学生時代にやっていたスポーツが同じという縁で始まったものだった。
「私のプロフィールを見て、陸上部だったというところで会いたいとおっしゃってくれたんです。奥さんを急な病気で亡くされて、その喪失感で交際クラブに登録したと言っていました。寂しくて、人肌が恋しいので、風俗のようにお店の中だけで時間が区切られた上での関係ではなくて、お金は介しているけれど、ちょっとでも自分を好きと思ってくれる関係であったり、信頼関係があったりするほうがいいということで交際クラブを選んだそうです」(ユミさん)
裸で触れ合おうという意欲
デートは月1~2回。ご飯だけだったら1万円、ホテルに行く時は3万円となんとなく決まっているという。お金も直接手渡すのではなく、お風呂に入っている間に、バッグの近くに置いてあるというスマートさがある。ちなみに、行為は体位によっては膝が痛くなるなど、不具合もあるそうだが最後までできるとのこと。
「お酒を飲むと全くダメなので、ホテルに行く時は事前のデートでは食事のみ。お酒を飲みましょうという時は、1万円コースです。歳を重ねていくと、女性と関わる機会ってどんどん失われていくじゃないですか。
女性と定期的に会うことで性的に興奮する機会を持ちたいとお話ししてましたね。50~60歳の時に、弱くなってきたなと感じることがあったそうなんです。そこで『歳だし仕方ないな』と諦めちゃうと、そのまま勃たなくなってしまうのかもしれません。でも、それは嫌だなということで、いろんな機会を自らつくろうとしてきたみたいですね。
勃起させよう、裸で触れ合おうという意欲が大事で、そうじゃないとどんどん老いてしまうんじゃないかな?と思われている気がしています。お付き合いしているおじいちゃんたちは、生涯現役でいたい、男性として現役のまま死にたいという共通の願いを持っていますね」(同)
彼女は離婚した後、子供を一人で育てており仕事もしている。そのため、交際クラブは副業のような位置付けにある。
「ものすごくお金が必要かというと、そんなでもない。好奇心と収入と趣味……のような感じですね。もともと人の役に立ちたい気持ちが強いので、福祉的というか、社会的にも意義があって人助けになってるので続けている気持ちもあります。
ですから、相手の方が私と会うことで活力を得て日常を頑張れたりとか、すごく感謝してくれたりとか、そういうことが私にとっては大事なんです。だから、いろんな話をするし、お互いにどう思っているかを確認したりもします。『なんで私とずっと付き合ってくれるんですか?』と聞いたことがあるんですが、『あなたはいろんな仕事をしてきて、生活力もあるよね。
そういうところがすごいと思うし、その姿を見て、この歳になっても吸収するものがある。話も弾んで面白い。そんなあなたのことが好きです』と言っていました。
私も相手の方のことを信頼していて、人間的に好き。体を鍛えていて男性として魅力的なところや、これまでのお仕事のお話を聞くのも好き。だから『頑張っているところがとても素敵ですよね。大好きです』などと伝えています。
お互いに、男性として女性としてだけでなく、人としても好かれ合っているのが態度でもわかるので一緒にいて嬉しいなと感じます。お酒を飲みながら他愛もない話ができる、人間としてつながれているから、付き合いが続いているのでしょうね」
写真/shutterstock
ルポ 高齢者のセックス(扶桑社新書)
中山美里超高齢化社会に突入しつつある日本。さまざまなシニア向けサービスやコンテンツが盛り上がる中、性風俗や異性紹介など男女をめぐる業界も例外ではありません。
日本家族計画協会の調査(2020年)によると、「セックスしたいか」という質問に対する60代男性の答えは、「よく思う」「たまに思う」を合わせると70%を超えました。つまり、7割強が「セックスしたい」と答えているのです。健康寿命が年々、伸びていくなか、密かに性的な行為をしたいという男女が増えていることはたしかでしょう。
本書では、高齢者とセックスをテーマに当事者や関係者60人以上に取材し、そこに集う人々にスポットをあて、インタビューを交えたルポ形式で60-90代のシニアの性生活を描写していきます。
「60歳未満お断り」をキャッチコピーに掲げる風俗店、そこで働く60代の風俗嬢、また史上最高齢88歳のAV女優、シニアのチャットレディ、80代後半で全国のストリップ劇場を行脚する男性、高齢者同士のマッチングビジネスや出会い喫茶、70歳以上の男性との交際を謳う「ジジ活」、高齢者専用派遣型風俗などなど…盛りだくさん!
近年、高齢者の心身の健康やQOL向上には「セックス」が欠かせないということが徐々に世間でも認知されつつあります。本書に登場する高齢者も、異性と関わりを持つことで生活に張り合いができ、心身ともに若くいられると証言しています。老後の「性」が徐々にタブーではなくなりつつある今、急激に変化する高齢者とセックスの実情に鋭く迫ります。
第1章 長らくタブーだった高齢者の性生活
第2章 増える高齢者の「出会いの場」
第3章 社会との関わりの場としての高齢者向け風俗
第4章 QOL上昇のためのシニア向け性娯楽
第5章 高齢者の性欲と向き合う社会