マラリアを救った企業がなぜ…住友化学、過去最悪3118億円赤字に沈んだ“2つの失敗”
マラリアを救った企業がなぜ…住友化学、過去最悪3118億円赤字に沈んだ“2つの失敗”

住友財閥の実質的な創業事業ともいえる別子銅山の周辺事業から派生して、国際的企業に発展した2社がある。ひとつが住友林業、もうひとつがマラリアの流行を食い止める蚊帳から、スマートフォンのディスプレイ素材、さらにはサウジアラビアの巨大石油化学コンビナートまで手がけている住友化学だ。

公害を資源へと変えた創業の精神を受け継ぎ、社会課題を価値に変えてきた同社だが、近年は巨額赤字に沈むなど苦境にも直面している。その「光」と「影」を追った。『教養としての三菱・三井・住友』より一部を抜粋、編集してお届けする。

住友グループの原点・鉱山から始まる社会貢献

マラリアの流行を食い止める蚊帳、スマホの画面を支えるタッチパネル、そしてサウジアラビアの砂漠に広がる巨大石油化学コンビナート――。

一見すると全く別の世界の話のようですが、これらはすべて「住友化学」という一つの企業の事業です。100年以上にわたり、住友化学は社会が抱える課題に正面から向き合い、それらを価値に変えてきました。

創業の原点は、公害の原因だった亜硫酸ガスを肥料へと〝資源化〟した取り組みにあり、現在の同社を象徴する環境技術やグローバル事業にも、そのDNAが脈々と受け継がれています。

戦後、住友化学はポリエチレンなどの石油化学、アルミニウム製錬、塩化ビニルなど、多岐にわたる事業に進出しました。特に、1930年代にはメタノールや尿素といった化学工業用薬品の製造に進出し、肥料部門以外の分野を積極化させました。

しかし、アルミニウム事業は、電力コストの高さなどから国内で最もコストがかかると評されるなど競争力を失い、後に事業撤退という挫折も経験しました。

高収益部門はアフリカ社会にも貢献

住友化学は、三菱ケミカルに次ぐ総合化学大手として、石油化学、機能材料、農業関連、医薬品などの事業を多角的に展開する住友グループの代表格です。医薬品、電子材料、農薬といった高付加価値事業を「攻め」の柱としています。

電子材料ではディスプレイ用フィルム、タッチセンサーパネル、半導体材料などの分野で世界的にも高いシェアを誇り、特に韓国サムスングループ向けに強いのが特徴です。

また、農薬は国内勢として最大手です。

同社が開発した殺虫剤は、マラリア対策の防虫剤処理蚊帳の原料となり、製造技術をアフリカの現地企業に供与することで、現地の雇用創出とマラリア撲滅という社会貢献を両立するユニークなビジネスモデルとして評価されています。

一方で医薬品事業は、上場子会社の住友ファーマ(旧大日本住友製薬)が担っていますが、主力薬剤の特許切れによる巨額の赤字を計上し、住友化学本体の業績を大きく圧迫しました。

サウジアラビア投資の失敗が尾を引く

住友化学の伝統的な石油化学事業は、需要が低下する国内では生産規模を縮小し、サウジアラビアでの大型合弁事業「ペトロ・ラービグ」へ軸足を移してきました。

ラービグ計画は、原油高騰に対抗できる、安価なエタンガスを原料として確保し、世界最高水準のコスト競争力を得ようという戦略的な「賭け」でした。

しかし、プラント立ち上げの難航のほか、2000年代にシェール革命と呼ばれる新たな採掘方法が出現したことにより、コストの優位性も下がってしまったこと、さらに設備の高度化の遅れなどが重なり、事業は長期の苦境に陥っています。

2000年代初頭には、当時の三菱化学に対抗するため、三井化学との統合が模索されましたがこれも決まらず、結果的に、ラービグ事業と医薬品事業の損失が重なり、2024年3月期には過去最悪となる3118億円の最終赤字に沈んでいます。

現在、三井化学が2027年に石油化学事業の分社化と業界再編を目指す方針を示すなど、住友化学に限らず、石油化学業界全体が、新たな方向性を打ち出す必要に駆られています。

一方、広大な森林を所有する住友林業では…

「林業」と聞くと、第一次産業を手がける会社だと思ってしまいそうですが、住友林業は、森林経営から木材建材の製造・流通、戸建住宅・中大規模木造建築の請負や不動産開発、木質バイオマス発電まで、木を軸とした事業を一貫して展開する総合住生活関連企業です。

その森林経営の歴史は住友グループの中で最も長く、300年以上に及びます。最大の特色は、約37.9万ha(森林ファンド含む)に及ぶ広大な社有林を国内外で管理・保有し、植林から伐採、利用、再植林という持続可能なサイクルを回している点です。

この一貫したバリューチェーンを強みに、高品質な木造注文住宅「住友林業の家」を主力とし、環境に配慮した「木のスペシャリスト集団」としてグローバルに事業を展開しています。

国内きっての歴史をもつサステナブル企業

住友林業の起源は、1691年に住友家が別子銅山を開坑した際、銅の製錬に要な薪炭や坑道の坑木を確保するために始めた「銅山備林」経営にまでさかのぼります。
19世紀後半、長期間の過度な伐採と煙害により周辺の森林が荒廃したため、当時の別子支配人であった伊庭貞剛は「国土報恩」の考えのもと、1894年に「大造林計画」を樹立しました。この理念は、持続可能な経営である保続林業を確立させる原点となりました。

「木の家」への挑戦と「川上から川下」への統合

住友林業は、戦後の高度経済成長期に木材の輸入商社として成長を遂げた後、1975年に住宅事業へと進出しました。現在、住友林業の収益の柱は、国内住宅事業よりも海外住宅・不動産開発事業となっています。

2003年に米国シアトルで海外住宅事業を開始して以降、米国や豪州などで戸建住宅の建築・販売を展開。2018年以降は、戸建てのみならず、集合住宅事業・不動産開発事業、宅地開発事業にも進出するなど、海外事業が本格的な成長軌道に乗りました。

2017年には、ゼネコンの熊谷組と業務・資本提携し、中大規模木造建築事業といった非住宅分野への進出を強化しています。

2021年、コロナ禍の影響で起きた木材高騰現象、「ウッドショック」では、世界の木材希少性が浮き彫りとなりましたが、同社はこれに対し、海外からの調達で競争力を発揮しました。また同社では2022年に2030年に向けた長期ビジョン「Mission TREEING 2030」を発表し、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを推進しています。

日本の林業を守り続ける同社は、インドネシアでも持続可能な林業経営を実践しており、違法伐採や焼き畑で荒廃した森林で、科学的調査に基づいて保護エリアと施業エリアを適切に区分けし、温室効果ガスの排出や森林火災を抑制しつつ、植林から伐採に至るまでのサイクルを計画的に回しています。

取り組みの成果として、2019年にはオランウータンの親子が撮影されるなど、生物多様性が維持されていることがうかがえます。2022年からはマングローブ林保全によるブルーカーボン・クレジット創出に向けた取り組みも開始し、経済と環境保全を両立する事業モデルとして注目されています。

文/山川清弘 写真/shutterstock

教養としての 三菱・三井・住友

山川清弘
マラリアを救った企業がなぜ…住友化学、過去最悪3118億円赤字に沈んだ“2つの失敗”
教養としての 三菱・三井・住友
2026/3/241,900円(税込)344ページISBN: 978-4868011347

「たちまち3刷決定!
 東洋経済オンライン、集英社オンラインなどで
 話題沸騰!」

麻布競馬場さん推薦!!

就活中に読みたかった!
歴史学にして地政学…… 
日本経済の「空気」を言語化してみせた驚異の一冊。


「住友系の企業の接待で、うっかりキリンビールを注文してしまい、場の空気が一瞬で〝やらかした〟感じに変わった」

そんな失敗談を、みなさんは耳にしたことはあるでしょうか。もしかしたら、ご自身が冷や汗をかいた経験があるかもしれません。


たかがビール、されどビール。日本のビジネス界には、いまだにこうした「知らなかったでは済まされない不文律」が厳然として存在しています。
これらは決して、昭和の時代の笑い話や、都市伝説の類たぐいではありません。

令和の今でも脈々と受け継がれるグループの歴史、人格、関係性、ルール。日本社会に多大な影響を与え、〝裏で操る〟とも評されることのある旧3大財閥のそれらは「知っておいて損はない、大人のための教養」です。

本書は、単なる企業データ集や業界地図ではありません。
「三菱・三井・住友」という巨大なプリズムを通して、日本経済の構造と、そこに息づくビジネスの「作法」を読み解くための教養書です。

かつて、財閥は日本経済そのものでした。そして今、形を変えた「グループ」は、日本経済のインフラとして、空気のように私たちの生活を取り巻いています。 マンションを買えば、それは三菱地所や三井不動産、住友不動産が建てたものかもしれません。コンビニでおにぎりを買えば、その具材は三菱商事が輸入し、パッケージは三菱ケミカルの素材で作られているかもしれません。車に乗れば、住友ゴム工業のタイヤで走り、三菱電機の電装品が制御し、ENEOS(三菱系)でガソリンを入れているかもしれません。

私たちは知らず知らずのうちに、この3グループの手のひらの上で生活しています。
だからこそ、彼らの論理、彼らの歴史、彼らの不文律を知ることは、日本で働き、暮らし、投資をするうえで、最強の武器となるのです。
本書が、みなさんのビジネスという航海における、確かな「海図」となることを願っています。それでは、知られざる「三菱・三井・住友」の深層世界へ、ご案内しましょう。
(はじめに より)

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