「電話番号がないと電気もガスも契約できない」スマホなし生活4年、42歳男性が直面した深刻すぎる“現実”
「電話番号がないと電気もガスも契約できない」スマホなし生活4年、42歳男性が直面した深刻すぎる“現実”

「電話番号は、ありません」。日本国内のスマホの所有率が世帯で9割を超えるとされる現代において、収入減少や病気による料金滞納、刑務所からの出所など何らかの事情でスマホ・携帯電話(以下、スマホ)を持てなくなってしまった「通信困難者」の存在を知っているだろうか。

サブスクの申し込み、飲食店の予約といった日常生活のちょっとした手続きはもちろん、生活インフラの契約、就職といった、生きていくために必要な場面でも当たり前のように電話番号を求められる世の中で、スマホを持てない生活の実態とは。当事者たちに話を聞いた。

「電話番号がないと電気・ガスも契約できない」

総務省の令和6年通信利用動向調査によると、スマートフォンの世帯における保有割合が90.5%となり、いまやスマホを持つのが当たり前の時代となっている。

そんななかで、福島県在住の山本博史さん(42・仮名)は、2020~2024年の4年ほど、スマホなしの生活を余儀なくされた。

スマホはもちろん、固定電話やPHSなどの通信手段はなし。公衆電話など外部の手段を使わなければ電話もかけられず、インターネットも利用できない状態だった。

精神的な疾患を抱え、月10万円ほどの障害年金で生活していた山本さんがスマホの支払いを滞納し始めたのは、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大直後。

コロナ禍の影響があったのか、通っていた精神科クリニックの主治医が不在となってしまい、その影響で自身の体調に合う薬を出してもらうことが難しくなった。

しばらくすると精神状態が悪化し、それまではしていなかった散財を繰り返すように。

端末代と合わせ月1万円ほどのスマホ料金が引き落とされていた銀行口座の残高は底をつき、3~4か月ほど滞納が続くと、スマホの利用を止められてしまった。

その後、行政に支援を求めた山本さんは市営住宅に引っ越すことができたが、スマホを持っていないことで、生活インフラの壁にぶち当たることに。

「電話番号がなくても水道は契約できたのですが、電気・ガスは無理でした。業者からは『親族の電話番号でもいい』と言われたのですが、独身で身寄りもなかったので契約できなかったんです。

結局、冬でも夜はお風呂代わりに冷たいせっけん水でタオルをしぼり、体をふいて、100円ショップで買ったライトで過ごしていましたね。

スマホがないから友だちとも連絡がとれないので、孤独でした。そんな状況で生活していたので、メンタルも悪化する一方でした」(山本さん)

スマホを持てたことで、月給は20倍にアップ

滞納が続いて利用を止められた大手キャリアとは別のキャリア2社でも、「ブラックリスト」入りしていることが原因でスマホを契約できないままでいた山本さんだったが、2023年に通院先の病院を変更したことで、これまでとは異なる自治体の窓口に相談できるように。

そこで、過去の滞納歴があっても契約できるスマホ事業者の存在を知り、スマホを契約。

今は銀行口座を開設できていないが、コンビニ支払いで料金を支払えるため、自分のスマホを持ち続けられているという。

「それまでは電話番号がなくても働ける就労継続支援B型事業所で働き、20日間出勤しても月に5000円ほどしかもらえない生活をしていましたが、電話番号が手に入ったのでA型事業所で働けるようになって、月に10万円ほどにアップしたんです。

民間アパートにも引っ越せました。生活の余裕が出てきたし、友だちともつながれて、精神状態もよくなってきましたね」と喜ぶ。

最も多い通信困難者は、親族に頼れない、40~50代独身男性

山本さんのように、コロナ禍などをきっかけにスマホ料金を滞納し、社会とつながれなくなってしまった人々の存在は決して無視できない。

こうした人が増えたことをきっかけに政府は2020年度、過去の滞納歴によりスマホを持てなくなってしまった人も契約しやすいスマホ事業者のリストを作成。

定期的に最新の情報を各自治体に周知し、こうした事業者を通じてスマホを契約できる可能性があることを生活困窮者らに知らせるよう、促している。

山本さんもこの取り組みがきっかけで、自身もスマホを持てる可能性があると知った1人だ。

山本さんが頼ったのは、株式会社アーラリンクが展開する「誰でもスマホ」。

過去の滞納歴があっても、クレジットカードや銀行口座がなくても、現住所記載の本人確認書類(マイナンバーカードなど)1点さえあれば、誰でも(未成年者や反社会勢力は除く)契約できる。

同社の高橋翼代表取締役によると、現在の利用者約8万人のうち、男性が75%を占め、その中でも特に多いのが40代後半から50代の独身男性だという。

「家族や親戚を頼ることができず、社会的に孤立している方が、社会復帰のための『最初のインフラ』としてスマホを契約するケースが目立ちます。

電話番号がないとさまざまな場面で不審がられ、私たちの調査では、スマホを持てなかった期間に就職活動をした人の3分の2が『採用してくれた企業がなかった』と答えています」(髙橋氏)

何らかの事情で住居やスマホがない人が社会復帰していく順番は「住居、スマホ、口座開設」だという。

まさに山本さんは、市営住宅に入居した後、スマホを契約。今は口座を開設できていないが、徐々に社会復帰を進めている段階だ。

「住居がないと現住所記載の本人確認書類を出せないので、スマホが手に入らない。電話番号がないと口座を開設できない。

だからこそ、住居確保を支援している行政やNPO法人から、社会復帰に向けた次の段階としてスマホを持てるよう、私たちのような業者につないでもらいます」(髙橋氏)

山本さんは「自治体によっても、窓口の職員によっても対応は違った。私自身、それまでと違う自治体の職員と話して初めて、滞納歴があっても契約できるスマホの存在を知った。

こうしたサービスが広く認知され、困っている人がどの自治体、どの職員に相談しても教えてもらえるようになれば」と願っている。

スマホを持てないと社会との接点を保つことが難しくなっている今、民間事業者だけでなく国、自治体が一体となって通信困難者を支援し、孤立を防ぐことが求められている。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

編集部おすすめ