熱狂消えた高市政権を追い詰める“最大の関門”は「消費税ゼロ失速」でも「保守層の失望」でもなく…永田町では「ポスト高市」への動きも加速
熱狂消えた高市政権を追い詰める“最大の関門”は「消費税ゼロ失速」でも「保守層の失望」でもなく…永田町では「ポスト高市」への動きも加速

女性初の宰相誕生と衆院選圧勝で、日本政治に“旋風”を巻き起こした高市早苗首相。内閣支持率はいまなお7割前後という異例の高水準を維持している。

だが、その数字とは裏腹に、永田町や市場関係者の間では「空気が変わり始めた」との声も聞こえ始めた。看板政策だった“消費税ゼロ”はいつ実現するのか。円安、長期金利上昇、膨らみ続ける国家予算――。高支持率の裏で、高市政権を追い詰めかねない“最大の関門”が静かに迫っている。

かつての高揚感、熱狂とは今は違う

大型連休中に報じられた1つの世論調査が永田町の注目を集めた。JNNが5月2、3日に実施したもので、高市内閣の支持率は前月調査から2.7ポイント上昇し、74.2%になったという内容だ。

不支持率は24.3%に微増したものの、首相就任から6カ月が経過した政権が高支持率を維持している例は過去30年間で小泉純一郎内閣(2001年4月~2006年9月)、第2次安倍晋三内閣(2012年12月~2020年9月)、岸田文雄内閣(2021年10月~2024年10月)の3例しかない。

NHKが5月8~10日に実施した調査でも支持率は61%と横ばいで、不支持率は23%だった。

だが、昨年秋に女性初の宰相が誕生した際の高揚感や2月の総選挙で自民党が圧勝した時の熱狂と今は違うと感じる向きは少なくないはずだ。

首相は従来とは異なる「責任ある積極財政」に転じると豪語し、飲食料品の消費税ゼロ化などを矢継ぎ早に掲げたものの、その「実績」はなお乏しい。

物価上昇に苦しむ国民の生活が具体的に好転したり、日本が抱えてきた諸課題を劇的に解消したりということはないのだ。

たしかに日経平均株価は6万円台を突破し、史上最高値を更新してきたものの、その恩恵は株式投資や投資信託などに余裕資金を傾ける一部の国民に限られる。この点は、期待感が先行してきた高市政権にとって「急所」でもあると言える。

日が経つにつれて、好印象を与えるメディア露出も減っており、高市政権への「期待」が一転して「失望」に変わらないためには、目に見える形での「実績」が不可欠となるのは間違いない。

言行不一致にガッカリした保守層

高市政権の今後を占う上で「最初の関門」となるのは、公約の達成状況だろう。首相は自身の強固な支持層とされる保守派に向けて靖国神社参拝や「竹島の日」式典への閣僚出席などをめぐり、威勢の良い言動を繰り返してきた。

だが、首相に就任すると靖国参拝を断念し、式典への閣僚派遣も「堂々と大臣が出ていったらいいじゃないですか」と語っていたにもかかわらず見送っている。言行不一致は何も政治家の“専売特許”ではないが、保守層の中にはガッカリした人も少なくないはずだ。

この先に問題となり得るのは、飲食料品の「消費税ゼロ化」である。高市首相が率いる自民党は2月の衆院選で「飲食料品は、2年間に限り消費税の対象としないことについて、今後『国民会議』において、財源やスケジュールの在り方など、実現に向けた検討を加速します」と公約した。

選挙後、野党にも呼び掛ける形で「国民会議」はスタートしているが、最近は「ゼロ」という言葉が抜けているように映るのは気になるところだ。

いつ減税がスタートできるのかは不明のまま

首相は「時間を要する(レジの)システム変更をできるかぎり早期に実施できる方法も検討しつつ、その実現に向けて強い思いを持って取り組んでいく」と意気込むものの、消費税率をゼロにした場合のレジシステム改修については「必ずしも1年(税率変更に時間がかかるということ)ではないが、一定期間はかかる」との認識を示している。

レジシステム会社側は税率ゼロに変更するには1年程度、1%の場合には半年程度が改修に必要としており、政府・与党内では飲食料品の消費税率を公約通りの「ゼロ」ではなく、「1%」とする案が浮上している。

もちろん、税率が1%に下がれば生活が楽になる人は多い。だが、ゼロから1%も増えたと感じる人もいるはずだ。

そもそも、物価上昇局面において「給付付き税額控除を実施するまでの2年間」に限定した方策であると首相は言っていたが、いつ減税がスタートできるのかは不明のままである。消費税のゼロ化が「悲願」とまで言った首相の実行力が問われる。

総務省が4月24日に発表した3月の全国消費者物価指数(2020年=100)は、価格変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が112.1で、前年同月に比べて1.8%上昇した。プラスは55カ月連続で、上昇率は5カ月ぶりに拡大している。

経済対策を裏付ける補正予算の編成には慎重姿勢

帝国データバンクがまとめた5月以降の飲食料品の値上げ動向と展望・見通しによれば、5月の飲食料品値上げは計70品目にとどまる一方で、今夏以降はナフサ不足を要因とした値上げラッシュの可能性があるという。

だが、高市首相は国民の暮らしに支障が生じないよう必要な対応を臨機応変にするとは語るものの、経済対策を裏付ける補正予算の編成には慎重姿勢を崩していない。

5月11日の参院決算委員会でも「補正予算の編成が直ちに必要な状況とは考えていない」と表明した。中東情勢の悪化が長引く可能性が指摘される中、首相が補正予算編成に慎重なのは理由がある。

それは、首相の意向を強く反映した自民党の衆院選公約(2月)において「補正予算を前提とした予算編成と決別し、経済成長による税収増なども勘案しながら、必要な予算は当初予算で措置します」と掲げていたからだ。

過去の政権が経済対策などを理由に年度途中で追加してきた補正予算はチェック機能が十分とは言えず、杜撰な計上や効果が会計検査院に問題視されてきた。

首相は、必要となる予算は当初予算に計上し、特に注力すべきテーマは複数年度で手当てすべきとの立場で、予算編成のあり方そのものを変えようとしている。

高市政権を追い詰めかねない「最大の関門」

実は、この点こそが高市政権を追い詰めかねない「最大の関門」となり得る。補正予算の編成に慎重であるということは、当初予算案の規模が大きくなることを意味する。

4月7日に成立した2026年度当初予算は、一般会計の歳出総額が過去最大の122兆3092億円に上り、国債利払いや償還に充てる国債費は31兆2758億円と初めて30兆円を上回った。

政権が注力する人工知能(AI)や半導体など「17の戦略分野」への本格的な投資促進を見据えれば、来年度予算案がさらに膨張するのは必至だ。とりわけ、経済安全保障関連の議論においては財源論を後回しにしかねない「積極財政」ぶりが聞こえてくる。

自民党は先の衆院選公約で、財政運営に関し「成長率の範囲内に債務残高の伸び率を抑え、政府債務残高の対GDP比を引き下げていくことで、財政の持続可能性を実現し、マーケットからの信認を確保していきます」と説明。

その上で「“円”が引き続き相対的に信認を維持し続けられるよう、『強い経済』の構築と財政の持続可能性の実現を両立させ、マーケットからの信認を確保していきます」と掲げていた。

「とにかく金利がどう動くか、だ」(政府関係者)

だが、市場は首相が掲げる「責任ある積極財政」への警戒感をなお隠さない。4月30日に長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは、5月15日、一時、2.73%を記録した。約29年ぶりの高い水準となる。

長期金利上昇は、住宅ローン金利の上昇を招くだけではなく、企業の経営にも影響を与える。

日銀が保有している国債の含み損も巨大になるだろう。政府・日銀は円安是正のための為替介入に踏み切ったが、円安が進行すれば輸入物価が上昇し、国民生活を脅かす。

そもそも、高市首相が1月の通常国会冒頭で衆院解散を断行した理由の1つには、2026年下半期の景況が悪化するとの予測が周囲からもたらされていたことがある。改善が見えない日中関係に加え、中東情勢の悪化に伴う原油価格の高騰も気がかりだ。

それに加えて、飲食料品の消費税ゼロ化や来年度予算の膨張などがマーケットに与えるインパクトは決して小さくない。

政権内には「とにかく金利がどう動くか、だ」(政府関係者)と警戒する向きもあるが、ひとたびネガティブに市場が反応すれば軌道修正するのは容易ではなくなる。

もちろん、消費税は社会保障の安定財源であり、減税した分の財源をどのように確保するつもりなのかは厳しく問われるべきだ。

永田町では「空気が変わり始めた」の声

衆院解散前に予測されていた通り、今年下半期の景況が悪化し、さらなる金利上昇や物価高騰が続いていけば内閣支持率や株価がいくら高くとも、そっぽを向く人が続くことだろう。

自民党内では、麻生太郎副総裁や茂木敏充外相らが首相を支えるグループ「国力研究会」を発足することになった。政府・自民の円滑なコミュニケーションを確保しつつ、長期政権への道を支える形だ。

一方、参院自民党で影響力を持つ石井準一参院幹事長らが新グループ「自由民主党参議院クラブ」を結成したほか、武田良太元総務相らも政策グループを立ち上げている。

首相就任への意欲を保つ林芳正総務相は自らに近い議員と共に各グループとの連携も視野に入れる。現時点では「高市応援団」の勢いが強いものの、マーケットに突き放され、連敗が続く地方選で白星を積み重ねていけなければ、来年春の統一地方選前に風向きは一気に変わるはずだ。

高市首相の自民党総裁としての任期は2027年9月までで、来年には党総裁選がある。今後の経済状況や公約の達成次第では「ポスト高市」の動きが活発化し、首相は追い込まれる可能性がありそうだ。

文/竹橋大吉

 

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