ピアノを弾けなくなった元天才少年ピアニストの有馬公生。型破りな美少女ヴァイオリニスト・宮園かをり。
二人の天才演奏家を中心とした、話題の青春ラブストーリー『四月は君の嘘』。著者・新川直司さんへのインタビュー後編は、『四月は君の嘘』誕生秘話の続きから始まります。
前編はこちら。

――元になったという投稿時代の作品と、『四月は君の嘘』では、設定などにかなり違いがあるのですか?
新川 初めの構想では、かをりだけでなく、公生もヴァイオリニストでした。ただ、それだと絵的にヴァイオリン演奏が続くので、読む方も描く方も飽きるだろうと思い、公生はピアニストにしたんです。でも、当時よりもクラシック音楽について勉強をしている今なら、そんな単純なものではないことが分かっているので、もうちょっと違う結果になっていたかもしれませんね。
あと、かをりと椿(公生の幼なじみでスポーツ少女)の立ち位置は真逆だったりしました。
――立ち位置が真逆というのは?
新川 ヴァイオリニストの男女が幼なじみ。その二人の出来上がっている世界に、スポーツ少女が入ってくることで、いろんな変化が起きるという構想でした。まあ、キャストが変わっただけ今とあまり変わりませんね(笑)。あとは、もっと恋愛に比重を置いていた気がします。
――公生やかをりたちには、誰かモデルがいたりするのでしょうか?
新川 誰かを意識して、キャラクターを作ったことはあまりないかもしれません。
どちらかと言えば、物語の中でキャラを固めていくタイプです。「こういう行動をするなら、彼はこんな性格なんだな」という感じで。なので、事前打ち合わせの際に「彼女はどういう性格なの?」などと担当さんに質問されると、いつもしどろもどろです。
――では、今作のキャラクター作りで苦労した点は?
新川 性格についてはあまり悩みませんでしたが、容姿には苦労しました。漫画家のくせに、描き分けが苦手なので(笑)。パッと見て区別ができるようにという点は意識しました。
あと、設定が中学生なので、あの年代ならではの、大人でもない子供でもない顔つきを描くのは難しいです。それが魅力でもあるんですけどね。
――クラシック音楽について勉強中とのことですが。取材では、ヴァイオリニストの池田梨枝子さんと、ピアニストの山崎香さんに実際にホールで演奏して頂き、その風景を撮影されたそうですね。
新川 はい。作曲家の大澤(徹訓)さんと、ピアニストの菅野(雅紀)さんにも取材させて頂きました。
みなさん勉強不足の自分に怒りもせず、優しくお話を聞かせていただいて。感謝しきりです。演奏会やコンクールにも行きました。皆さんにお話を聞かせていただいたり、本を読んだり。勉強すればするほど、クラシック音楽とはこうも奥深いものなのかと、驚きと発見の毎日です。迷宮に迷い込んでいくような気分になります。
クラシック音楽を聴きながら、クラシック音楽の本を読む……。「自分のガラじゃないなぁ」と自嘲してます(笑)。
――演奏シーンは今作の大きな見せ場ですよね。取材の成果も生かされていると思いますが、演奏シーンを描く時、特に意識されていることを教えてください。
新川  もちろん取材はものすごく参考になりました。うまく具体的な説明はできないのですが、作品に反映されているのは間違いありません。
漫画には音がないので、(演奏シーンでも)いい絵を描こうとだけ心がけています。それにつきますね。自分ではいいシーンが描けたと思っても、読む方はどう感じるのか、いつも心配です。伝わらなくては意味がないですから。
――演奏シーンは、大げさではなく、読んでいて音が聞こえてくるような感覚を味わいました。第2巻の帯では、『はじめの一歩』の森川ジョージさんも「漫画の最大の弱点の一つを完全に克服している。音が視える。」と絶賛しています。このコメントを読んでの感想を伺いたいのですが。
新川 感想なんて畏れ多いです。子供の頃から作品を拝読している尊敬する先生なので、コメントを頂けただけでありがたいですから。本屋さんで『はじめの一歩』の5巻を立ち読み中に、爆笑して崩れ落ちたのはいい思い出です。もちろん、買って帰りましたよ。
――今作に限らず、私は新川さんの描かれるキャラクターの目が、非常に魅力的だと思っています。強烈な目力を放っていて、目を強調するカットも多いですよね。ヴァイオリンを演奏している時のかをりの目の表現にも痺れました。目の描き方や、演奏中の目の表現について、特別なこだわりなどはあるのでしょうか?
新川 目を(強調して)描くのは確かに多いですね。目は表情ですから印象的に見せたいですし、目を覗き込むのは、その人を覗き込むことだと思っています。演奏中のアイコンタクトは、当然欠かせないので、そこも気を使いました。
――2巻では、ピアノを弾けなくなっていた公生が、かをりの伴奏者として再びステージへ上がります。この作品の最初の山場だと思うのですが、公生をどうやってステージに戻すのか。ストーリー展開には悩まれたのでは?
新川 悩みました(笑)。でも、最後はかをりが連れていってくれましたね。
――また、新キャラも登場し、「LOVE」方面でも動きが出て来ました。今後、中学生男女の思いがどのように揺れて、どのような行動をとっていくのか。今の段階で、新川先生には、彼らの未来もかなり先まで見えているのでしょうか?
新川 僕は、ある程度先まで決めないと描けないタイプみたいです。そうじゃないと、もう怖くって(笑)。終わりのシーンのイメージは漠然とあるので、それに向かってどんな道にするのか、どう歩くのかが最大の課題です。そこに辿り着いたとき、彼らが成長していてくれればいいなと思います。
――2巻では、あるキャラクターが一つ大きな嘘をつきますよね。『四月は君の嘘』というタイトルが持つ意味も、これから徐々に明らかになっていくのだろうと、予想しているのですが……。
新川 う~ん。もちろん、タイトルに意味がない訳ではないのですが、そんなに深い意味もありません。あまり気にせず、読んでいただければと思います(笑)。
――そうなんですか? ちょっと深読みし過ぎました(笑)。では、話は変わりますが。今作を描く中で、絶対にブレてはならない最も大切なことは、何だと考えられていますか?
新川 やはり、登場人物たちの成長です。特に(音楽家の)公生とかをりの場合、彼らの淡い心情や瑞々しい感情と音楽は、寄り添って大人にならなければならない。そして、彼らの成長を音楽で表現すること。人間性の成長は、音楽性の熟成だと思いますので。ただ、どうしても抽象的になりがちなので、地に足をつけて進めれば言うことなしですね。
――彼らの成長と物語の行く末を、楽しみに追いかけたいと思います。最後に「エキレビ!」読者へのメッセージを頂けますか?
新川 たくさんの方に支えられて出来た作品です。それに見合ったものかどうか分かりませんが、この作品を読んで楽しんで頂けたら嬉しいですね。未熟な作者と拙い彼らが一緒に成長していくのを、温かく見守っていただけたら幸いです。
(丸本大輔)