先日、山口県周南市での「SHUNAN萌えサミット2011」の様子がレポートされていました。
貞本義行(新世紀エヴァンゲリオン)でうちの故郷が萌えはじめてた(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース
いやー、全国各地、なんでもオタク産業とつながる予感がしてきました。

ほんと不景気とかふっ飛ばすくらい元気いいですね! イエス!

それにしても「聖地巡礼」って言葉ずいぶん浸透しました。
オタク用語の基礎知識の域を超えて知られるようになって、ぼくはびっくりですよ。有名なのは「らき☆すた」の鷲宮、「けいおん!」の豊郷小学校旧校舎群など。
ぼくも巡礼したことあるんですが、これが面白いんですよ。ほんとアニメの背景そのままの場所が現実にあるんですもの。映画のロケ地ならまだしも、アニメなんて二次元の世界、別の世界のはず。
ところがそこに入れるなんて。笑えてきますよ、楽しすぎて。
ポイントごとに旅ノートのようなものが置かれているのですが、来る人みんなファンが書きこむから愛情みっちり。
オタクもアウトドアな時代ですねえ。

では受け入れる側の町としてはどうなんだろうか? ちょっと興味ありませんか、自分の町がアニメの舞台になって、急に人が集まったらびびるんじゃないかしら、なんて思うのですがどうなんでしょう。
この疑問を、「東京国際アニメ祭2011秋」の中で、意欲的に取り組んでいる3つの町、「サマーウォーズ」上田市、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。
」秩父市、「耳をすませば」多摩市が具体的に答えてくれました。

■2009年公開「サマーウォーズ」 長野県上田市
映画で実名を明言している「サマーウォーズ」。
普段観ている実際の風景が出ている。となるとやはり嬉しいもので、上田市の映画館は地域の人達で大いに盛り上がったそうです。
同時に、今までは歴史的観光資源を見に来る観光客しかいなかった町が、一気に若い人が集まり盛り返しちゃったのです。
上田市サマーウォーズ実行委員会の方は、「細田監督が『この自然の景色が一つの観光資源だ』とおっしゃったんです。
地元の人にとってはいつもの風景なんだけれどもそこを初めて訪れる方にとっては自然が観光資源になるというのを外部の方から教えられました」と言っていました。
「サマーウォーズ」は、真っ青な空の中、山の上にもりもり登る積乱雲の構図がとても魅力的なんです。実際にその土地に行って、積乱雲見たら映画思い出しちゃいますよ。
見たいのはアニメの中の風景と空気。その場所にいるという喜び。つまり「改めて何かを作る必要はない」ということに気づいたそうです。

必要なのは、初めて来る人のための案内です。

聖地巡礼は自体は一人でやろうとするととてもハードルが高い遊び。初めてだとどこに何があるのかわからず、事前に自力でチェックしなければいけない。教えてくれる人がいないと大変です。
そこで作られたのが「こいこいマップ」。どこが何の舞台になっているのかを詳細に記した観光マップが制作されました。
アニメ会社の協力もあり、作品中の絵もふんだんに盛り込まれています。
逆に、映画にあって現実にない看板は観光のために立てる、という凝りよう。もちろん作ったのは地元の有志。市民の人たちが「サマーウォーズ」の季節にあわせて朝顔を植える、という取り組みも行ったそうです。
宿帳も置いてあるのですが、表紙の絵はなんと細田守監督直筆! 宿帳がいっぱいになるとまた新しく細田守監督が一冊送ってくれるそうで。見たい!
アニメ制作会社側がタイアップしてくれている稀有な例です。


あとはファンのパワーがどんどん突き動かすわけですよ。町のお祭りもファンが参加したいと大盛り上がり。地元の高校生もキングカズマなどアバターキャラの着ぐるみを作るなどどんどん膨らみ上がります。
製作委員会とのやりとりを積み重ねる中で、私鉄の発着音が「サマーウォーズ」の山下達郎のエンディングソングが使われるようにもなります。
ファンの熱意に動かされ、地元の人のテンションが盛り上がり、実行委員会がこつこつと動き、製作委員会とうまく連携がとれている、みんな幸せなベストな状態です。

■2011年放送「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(以下「あの花」) 秩父市
実はこの作品、秩父が舞台、というわけではありません。
まあどこからどう見ても秩父なんですが、あくまでも「モデル」。モチーフとして使っているだけなので地名は具体的にあまり出て来ません。舞台だと明言していた「サマーウォーズ」とはスタートラインが異なります。
なので「秩父は『あの花』の舞台です」というPRが出来ない、終わるまで動けない状態だったそうです。
とはいえ、ファンは放送中からもう秩父だとわかっていて、聖地巡礼しはじめるわけです。
西武鉄道や地元の商工会議所もPRはまだできなくても、すぐに受け入れ態勢を整えはじめました。
あの花4話を見た勢いで舞台探訪してきた DAIさん帝国
これはまだ放映時、つまり秩父側としてもPR活動を起こせなかった時期に聖地巡礼したファンの人の写真。
「あの花」の作中ではめんまというキャラクターが欄干の上に立つシーンが何回かあります。これは当然危ないので、注意書きの張り紙がされます。
最初見た時大笑いしたんですが、これ警察の協力があるからできたのです。
それってすごいんじゃない?

放送終了後からは一気に盛り上がります。
まず作ったのが舞台探訪マップ。「サマーウォーズ」と同じですね、何か新しいイベントをやるというのではなく、あくまでも聖地巡礼に来ている人は「アニメと同じ世界に入り込みたい」という思いで来ている。その背景になっているのはどこかをポイントで示す地図を頒布しました。。
作品の内容にちなんで、タイトルは「めんまのおねがいさがし」。イイネ
このパンフレットかなり力が注がれており、各声優さんからのコメントも載っています。制作会社と地元ファンの協力により、版権イラストも山ほど載っている逸品です。

もう一つ「あの花」絡みの逸品地域密着誌があります。それが「アニッコ」という、西武鉄道制作の子供向け無料誌です。
今まではアニメ+エコということで、コナンやケロロ軍曹など子供向け中心の冊子として西武鉄道各駅、沿線自治体施設等でのみ配布されていましたが、11号が「あの花」特集になっており、版権絵もどっさり。一気に話題になりあっという間に無くなりました。

秩父はイベントも行なっており、西武鉄道と制作会社の連携で、今非常に活性化している町です。移動手段大事ですね。
若い人達が一気に押し寄せ活気づき、いい具合にファンと地元と鉄道が密着しはじめた今年。町としてはウェルカムな様子です。
課題はこのチャンスをいかに継続させていくか。これからもファンは来続けると思いますが、いかに楽しんでもらう態勢を整え続けるか色々考えているようです。

■1995年放送「耳をすませば」 多摩市聖蹟桜ヶ丘
もう15年も前の作品ですね、スタジオジブリの「耳をすませば」。
こちらも舞台そのものではなく、モデルです。とはいえ明らかに見た目同じなので、多くのファンが集う場所になっています。
1995年当時は特に何もなされていませんでしたが、2005年にせっかく「10周年なので舞台のモデルの町で何かやりたい!」という大学生有志の活動がきっかけでした。
そこで企画されたのが、地域での上映会。
えっ、大学生にフィルムなんて貸してくれるの?!と思ったのですが、全くもってそのとおりで簡単にはいきませんでした。なんせ2005年には多摩には観光課自体がない状態でしたので、苦労と努力の末の活動です。

上映会がうまくいってからは、訪れてくる多くの「耳をすませば」ファンの方のため、定期的にロケ地ツアーが行われるようになります。
また、ロケ地がどこかを表した看板も作られます。複製背景画展なども開催され、地道に規模は拡大。
なんと現在では、地元で開かれる「ハートフルコンサート」に、声優の本名陽子(「耳をすませば」月島雫、「ふたりはプリキュア」美墨なぎさ役)さんが毎回来て、生の「カントリーロード」を歌ってくれるという面白い事態になっています。
観光に来た人が「この場所どこですか?」と尋ねるため、案内のレクチャー会なども開かれているそうです。集まっているのは地元の主婦などほんと地域の方ですよ。

多摩の抱えている大きな問題が二点あります。
一点は、あくまでも普通の住宅地だ、ということ。
アニメファン的にはそれこそが観光スポットですが、だからといってワイワイ騒いではいけません。バシャバシャ人の家を撮るわけにゃいきません。せっかく地域で盛り上がっているので、このへんのマナーの徹底は細心の注意を払わなければいけません。
もう一つはスタジオジブリのキャラクター版権は使えないこと。
これはジブリの一貫したルールなので、特別扱いできません。なので上田や秩父のようなキャラクター入りの観光マップが作れないのです。
ただしそれ以外であればOK、という中で生まれたのがロケ地ツアーやコンサートだ、というわけです。
現在多くの日本中のファンの署名によって、モニュメントが作られようとしています。けれどもバロンなどのキャラは入れられない。
なので、スタジオと地域とファンの妥協点として「オマージュであればOK」というところまでこぎつけたそうです。

ほぼ毎年放映しているような作品ですから、ずっと盛り上がり続けるという活気はあります。だからといって地域で活性化させるのは簡単なことではないのを痛感させられます。安易にはいかない。
けれどもファンと町の強い思いと、地道に地道に活動し続けることで、不可能じゃないかと思っていても開かれるものは確実にあるんですねえ。

ご当地アニメによる町おこしは各地で行われていますが、やはりそう簡単なものではないなあとしみじみ感じました。
わざわざ来てくれるファンの熱意に答えよう、という受け入れ側の責任を感じている、と語っている方もいました。
そもそもアニメファンが盛り上がっていても地元の住民が受け入れるかどうかは別問題です。
まずは焦らない、とにかく地道に「急がば回れ」の精神で、町にとってどう効果的なのかを常にプレゼンし続け、アピールを積み重ねることで成功への道が開かれていくようです。

北海道でも洞爺湖で「銀魂」が盛り上がっています。
とにかく人がその地域を知ってその場所に足を運ぶのが一番最初の大きなきっかけなので、どんどん頑張って欲しいなあ。
日本全国でやってくださいよー! そしたらアニメ行脚しますよ!
(たまごまご)