中国で政府による「最低生活保障(生活保護)」を受けていた江西省の女性が香港にアーティストのライブ鑑賞に訪れたことで生活保障を取り消されたとされる情報をめぐり、同国で論争が巻き起こっている。シンガポール華字メディアの聯合早報が11日に報じた。
記事によると、「江西省贛州市の最低生活保障世帯の女子学生が香港にライブ鑑賞に行ったところ、家族全員の最低生活保障が取り消された」との情報がネット上で広まった。発端となったのはSNS・小紅書(RED)への投稿で、投稿者は女子学生のいとこを名乗る人物。女子学生は贛州市の中等専門学校に通っている。女子学生の家庭は困窮しているため毎月約2000元(約4万6000円)の生活保障金を受け取っているという。
いとこによると、女子学生は夏休みにアルバイトで貯めたお金と、節約した補助金の一部を使って香港へ好きなアイドルのライブを見に行こうとした。役所の担当者や家族から、最低生活保障の資格が見直されてしまう可能性があるとして思いとどまるよう説得されたが、女子学生は制止を振り切る形で香港へ向かった。帰宅後、民政当局がビッグデータの監視により、女子学生の(香港への)出境記録を発見。いとこは女子学生の資格が再審査され、「最低生活保障が取り消された」と主張している。
一方、江西省贛州経済技術開発区社会事務管理局は、女子学生の香港でのライブ鑑賞によって「最低生活保障の資格に関する動態監視システムで警告が発生した」としているが、「現在、家庭の状況を確認しており、結果に基づき処理する」としており、まだ取り消しの最終決定は下していないようだ。
本件をめぐっては世論が二分されており、取り消しを支持する人からは、最低生活保障制度は困窮者の最低限の生活を保障する「最後の防衛ライン」であり、限られた公共資源は本当に支援を必要とする人に充てるべきだとの主張が出ている。一方、反対派からは、貧困状態にあっても受給者には自らの労働で得た収入を使う権利があり、アルバイトや節約によって工面した一度の費用だけでは家庭の長期的な経済状況を判断できず、それを理由に家族全員の最低生活保障を取り消すべきではないとの声も上がっている。
記事によると、中国の現行規定では、資格は世帯全体の経済状況を基準に判断され、同居する家族の1人が収入を得たからといって、必ずしも世帯全体の資格を失うわけではない。
また、最低生活保障制度においては消費行動も審査基準となっており、江西省の規定では、自費による海外旅行や娯楽は高額消費による再審査の対象に該当し、正当な理由を説明できない場合は支援を停止するとしている。ただ、再審査の対象になったとしても、ただちに最低生活保障が停止されるわけではない上、停止に不服があればを申し立てることもできることになっている。
中国では過去にも同様の件が物議を醸しており、今年7月には、最高ランクの奨学金を受給している女子大学生が毎日9.9元(約230円)のコーヒーを購入していたとして通報されたとの情報が出たほか、貧困家庭の学生がタピオカミルクティーを飲んだり、アップル製品を使ったりしていいのか、最低生活保障世帯がエアコンを設置していいのかといった議論がネット上で頻繁に行われている。
記事は、他国の状況にも言及している。ドイツについては「低所得者に支給する標準生活費には、食費や衣服費、光熱費だけでなく、一定の社会・文化的な生活に必要な支出も含まれており、受給者は原則としてその使い道を自ら決めることができる。困窮者の基本的な生活には、一定程度の社会参加も含まれるとの考え方で、給付金の使い道を一つ一つ規定する仕組みではない」と紹介した。
また、日本について「生活保護の受給者の収入や資産を継続的に審査し、収入の申告やケースワーカーによる家庭訪問を求めている。短期間の出国だけを理由にただちに保護が停止・廃止されるわけではないが、旅行費用の出所や性質が保護の認定に影響する可能性はある。つまり、消費行動をきっかけに再審査が行われることはあるが、最終的には資金の出所や世帯全体の経済状況を確認することになる」と解説した。
その上で、「もし贛州市の女子学生のケースが日本で起きた場合、香港でライブを観覧したことで再審査の対象になる可能性はある。
記事は最後に、「高額消費を監視の対象にすることは、申告内容と実際の生活状況との間にある差を見つける上で有用だ。一方で、1回の消費をもって『貧困ではない』と証明されれば、資格審査が生活様式そのものを評価する方向へ傾きかねない。受給者の条件が『継続的に生活に困窮している』ことから、『これまで一度も楽しんだことがない』ことに変わってしまう可能性がある」と指摘した。(翻訳・編集/北田)











