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丹下健三、丹下憲孝、岡本太郎、そして震災……解体間近、赤プリ物語

2011年3月31日 11時00分 ライター情報:近藤正高

丹下憲孝『七十二時間、集中しなさい』(講談社)。カバーの写真は、生前の丹下健三(右)とその息子である著者。憲孝氏は長身でガタイがよく、その眼鏡もあいまってどことなくクラーク・ケントを彷彿とさせる(たとえが古い!)。

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本日をもってグランドプリンスホテル赤坂(東京都千代田区)の新館が閉館する。しかし、去る24日には東京都が、閉館後の同ホテルを東日本大震災での被災者たちの一時避難施設として提供すると発表、“最後のご奉公”として注目が集まっている。プリンスホテルの公式サイトによれば、被災者の受け入れは来月から、解体工事が開始されるまでの3カ月間を予定しているという。

グランドプリンスホテル赤坂の新館は1982年に竣工、翌年3月に赤坂プリンスホテル新館としてオープンした(現在の名称になったのは2007年から)。“赤プリ”と通称される同ホテルは、西武グループの経営するプリンスホテルでは初の超高層であり、最先端・最高級のデートスポットとしてバブル期前後の若者たちの人気を集めた。ホテル敷地のすぐ近くにある弁慶濠(旧江戸城の外濠のひとつ)や脇を通る首都高速道路との組み合わせもあいまって、ランドマークとしても強い存在感を放っている。

そのデザインも独特で、ほかのオフィスビルから客室が見えないよう、部屋のユニットを一列ずつずらしてジグザグ形にするなど(このため、部屋に入るといきなり窓際に出るというユニークなものとなっている)の工夫がほどこされている。同ホテルの設計を手がけたのは、戦後日本を代表する建築家の丹下健三だ。健三の息子でやはり建築家の丹下憲孝が最近上梓した手記『七十二時間、集中しなさい。ーー父・丹下健三から教わったこと』によれば、赤プリの新館は、《デコラティブで、大広間の照明がシャンデリアが主流だったのを、白主調で、照明はフラットな光天井という機能的なものに変えた》点でも日本のホテルの歴史上、画期的であったという。

同書を読むと、丹下健三にとって赤プリが、単に設計したというだけでなく、家族との思い出が詰まった場所であったことがわかる。丹下家では、毎年正月には赤プリの新館に家族と泊まってすごすのが慣わしとなっていた。そうやってホテル暮らしをしてすごす正月にはよく映画を観に行ったそうなのだが、何を観るかは家長である健三がすべて決め、なかでもお気に入りはジャッキー・チェン主演の映画だったという(これは意外)。ちなみに正月を自宅ではなくホテルですごすのは、お手伝いさんが休みをとるから、というのがいかにもセレブらしい。

赤プリはまた、オープニング・パーティで健三により憲孝の婚約が発表され、のちに結婚式が挙げられた場所でもあった。

ライター情報

近藤正高

ライター。1976年生まれ。エキレビ!では歴史・科学からドラマ・アイドルまで手広く執筆。著書に『タモリと戦後ニッポン』(講談社現代新書)など。愛知県在住。

URL:Culture Vulture

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