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なんにでも宮崎駿の影をみるもんじゃない、だが『堆塵館』

2016年9月30日 10時00分 ライター情報:杉江松恋
これは生まれたときから浴槽の栓を友にしてきた少年と、初めて奉公に出た屋敷でなぜか「あなたの便宜のために封印」と書かれた帯紙が糊付けされたマッチ箱を渡された少女の物語だ。
小説の魔術師エドワード・ケアリー待望の第3長篇『堆塵館』(古屋美登里訳)である。
浴槽の栓? 封印されたマッチ箱?
なにそれ?
そう思った方も、ちょっとだけお付き合いいただきたい。

アイアマンガーの中のアイアマンガー


『堆塵館』の舞台は19世紀後半のイギリスに設定されている。世界の都でもあるロンドン近郷に巨大なごみ山が築かれ、その向こう側にアイアマンガーたちの暮らす館がある。アイアマンガーはごみを我が物にすることで巨万の資産を蓄えた一族で、堆塵館と呼ばれる屋敷の中に閉じこもって暮らしている。
アイアマンガーのひとびとには奇妙な決まりがいくつもある。
アイアマンガーの男女は幼少期には別々に暮らし、あらかじめ定められた一族の者と結婚する。
アイアマンガーの男子は16歳になったらコーデュロイの半ズボンから灰のフランネルの長ズボンに穿き替えなければならない(逆に言えば、それまでは決して長ズボンを穿けない)。
アイアマンガーの子供たちがごみ山に入るときは、きちんと正装をしていく。彼らが山で見つけたものを大人たちが町で売って金に換える。いわばアイアマンガーの富の源泉だから、ごみ山に敬意を表して身なりを整えるのである。
そして最優先される決まりがこれだ。

──アイアマンガー一族に赤ん坊が生まれると、おばあさまが選んだ品物を与えられるのが慣わしだった。[……]ぼくたちアイアマンガー一族は、誕生の品をいつでも身に着けていなければならなかった。誕生の品は人によって違った。ぼくは生まれたときにジェームズ・ヘンリー・ヘイワードをもらった。それはぼくが初めて知った相手で、初めてのおもちゃで、初めての仲間だった。ジェームズ・ヘンリーには六十センチの長さの鎖がついていて、その鎖の先には小さなフックがあった。歩けるようになり、ひとりで着替えられるようになると、ぼくは鎖のついた浴槽の栓を、ほかの人たちが懐中時計を服に着けるような感じで身に着けた。

〈ぼく〉こと15歳のクロッド・アイアマンガーは、他のアイアマンガーとはちょっと違ったアイアマンガーだ。彼には物の声が聞こえるのである。だから彼の誕生の品、浴槽の栓が「ジェームズ・ヘンリー・ヘイワード」と名乗っているのも聞こえる。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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