正直、タイトルと設定を聞いた時は「色物っぽいな~!」と思っていた『ニンジャバットマン』。ところがどっこい、これが真摯に「バットマンとは? バットマンはなぜ強いのか?」という問いに向き合った作品だったのである。

「ニンジャバットマン」は全方位にオススメ バットマン、ひょんなことから戦国時代の日本へ

ゴリラ・グロッドの大暴れで、バットマンは戦国時代の日本へ!


『ニンジャバットマン』の物語は、現代のゴッサムシティから始まる。見た目はゴリラ、中身は天才科学者というヴィランのゴリラ・グロッドがタイムリープ装置を開発してしまう。バットマンと仲間たちはこの装置の悪用を防ぐためゴリラ・グロッドの研究室を急襲するが、装置が暴走。現場に居合わせた他のヴィランも含め、バットマンたちを時空の彼方に連れ去ってしまう。

バットマンが目覚めたところは、今までのゴッサムシティとはかけ離れた風景の場所。右も左も分からないバットマンに、ジョーカーの面をつけた鎧武者たちが襲いかかる。窮地を脱したものの、今まで使っていた電子機器は使えず、途方にくれるバットマン。
その前に現れたのは、着物に身を包んだキャットウーマンことセリーナ・カイルだった。

彼女はここが戦国時代の日本であること、バットマンはゴリラ・グロッドのタイムスリップによって事件に巻き込まれた他のヒーローやヴィランより2年遅れてこの場に現れたこと、そして一緒に転移してきたヴィランたちの現状を話す。なんとジョーカー、ハーレイ・クイン、トゥー・フェイス、ペンギン、ポイズン・アイビー、ゴリラ・グロッド、デスストロークといったヴィランたちは日本各地で「ヴィラン大名」として成り上がり、日本全国を支配しようとしていたのである。第六天魔王として権勢を誇るジョーカーを止めるべく、バットマンは戦国時代の日本で戦いを始める。

「バットマンが戦国時代にタイムスリップ」というような発想自体は、本家のDCコミックスにも存在する。例えば1989年に発表された『ゴッサム・バイ・ガスライト』という作品は「19世紀のゴッサムシティにバットマンが存在したら」という設定だし、2010年の『バットマン:ザ・リターン・オブ・ブルース・ウェイン』では原始時代から中世、大航海時代に西部開拓時代とバットマンが様々な時代を冒険している。
エルスワールド物(「もしも〇〇が〇〇だったら」みたいな、ドリフのコントのような内容のコミック)でも正史でも、バットマンはけっこういろんな時代に行っている。

とはいえ、日本人スタッフによるアニメとなると話は別だ。正直見る前は「安直なアニメ化だったらイヤだな~」と思っていた。しかし、一番最初に出てきたのが有名だけど特にバットマンのヴィランでもないゴリラ・グロッドだった時点で「あ、これマジのやつだ……」とクルリと手のひらを返した。邪悪な野心を持つ天才ゴリラで、しかもゴリラ光線まで発射するというDCきっての人気ヴィラン(アメリカ人はゴリラが好きなのである)がいきなり登場、しかも声が子安武人……。皆さんは子安武人の声で喋るゴリラを想像したことがありますか……?

『ニンジャバットマン』の面白みは、このゴリラ・グロッドのようにDCコミックスの原点にあたって、噛み砕いたことがしっかり伝わってくる翻案にある。
バットマンのサイドキックたちであるナイトウィングやレッドロビン、ロビンたちが『仮面の忍者 赤影』的なアレンジになっているのも納得感があるのだが、アレンジという点で言えばグッとくるのがレッドフードだ。

2代目ロビンであるジェイソン・トッドが赤い仮面を被って活動する際の名義であるレッドフードだが、『ニンジャバットマン』では赤い深編笠をかぶった虚無僧の姿で現れる。レッドフードという名前はジェイソン・トッド以前、後にジョーカーとなるヴィランが名乗っていたことがある(1951年の話。ジョーカーの出自の話はややこしいので割愛)のだが、その時にかぶっていた赤いドーム型のヘルメットが虚無僧の深編笠によく似ている。つまり、『ニンジャバットマン』に登場するレッドフードは、初代レッドフードと現レッドフードの合わせ技による翻案なのだ。仕事が丁寧すぎる……!

戦国時代だからこそ答えがわかる「なぜバットマンは強いのか」という問い


もうひとつ、『ニンジャバットマン』の真摯な点が、「バットマンはなぜ強いのか」という点に向き合ったところにある。
よく言われることだが、バットマンは肉体的には普通の人間である。ものすごい金持ちなので装備や武器には凝ることができるが、基本的にはタダの人間なのでスーパーマンのように銃弾をはじき返したり、フラッシュのように超高速で動いたりはできない。

そんな、ゴッサムシティですら武器や装備やビークルの力に助けられていたバットマンが、いきなり戦国時代の日本に飛ばされてしまう。GPSやネットを使った装備は当然使い物にならないし、ビークルだって燃料や電源がなければ話にならない。フックを撃ち出して空中に飛び上がるグラップリングガンだって、高層ビルがなければ使えない。バットマンは戦国時代の日本で、自分の強みを全て失ってしまう。


『ニンジャバットマン』が丁寧なのは、ここでバットマンがちゃんと焦るところである。バットマンは今までの自分の強さが何によって担保されていたものだったのかを痛感し、そしてゴッサムシティとは全く異なる戦い方を強いられる状況に必死で取り組む。この過程を通して、「バットマンとは何か、バットマンはなぜ強いのか」が浮き彫りにしていく流れが、『ニンジャバットマン』の大きな見所だ。しかも合間合間にジョーカーとハーレイのいつもの感じのやりとりや、バカバカしくもド派手なヴィラン大名たちの悪役っぷりを挟むので、ストーリーが重苦しくなっていない。見事なバランス感覚である。

昨今のアメコミ映画乱立を受けた色物でしょ……というふうに見えがちな題材ではあるが、『ニンジャバットマン』は「ヒーローの持つべき強さとは何か」というスーパーヒーロー映画の本質的な部分を突いた作品である。
バットマンならなんでも見るというバットマンオタクも、MCU作品の方が好きだという人にも、全方位にオススメしたい一本だ。
(しげる)

【作品データ】
「ニンジャバットマン」公式サイト
監督 水崎淳平
声の出演 山寺宏一 高木渉 加隅亜衣 釘宮理恵 子安武人 田中敦子 諏訪部順一 チョー ほか
6月15日より公開

STORY
ゴリラ・グロッドの作ったタイムリープ装置により、戦国時代の日本へとタイムスリップしてしまったバットマン。第六天魔王として日本征服を企むジョーカーを止めるため、単身戦いを挑むが……