◆書評委員が選んだ今年(1998年)の3点
◇(1)藤田 省三『戦後精神の経験 2』(みすず書房)
不況を嘆き景気対策をのみ求めるのは、その原因であるバブル経済――地上げ、住民追い出し、乱開発を忘れ免罪するものである。それを許す心性を育てた高度成長。
礼賛本多い中で「高度成長」を批判的に考え、自分の育った時代を検証するのに役立った。諧謔(かいぎゃく)、皮肉、精神の活気溢(あふ)れる書評やコラムも、たまに取り出してかじりたい。

藤田省三『戦後精神の経験 2』(みすず書房)、エドワード・フ...の画像はこちら >>
『戦後精神の経験 2 1976~1995』(影書房)著者:藤田 省三Amazon |honto |その他の書店
◇(2)エドワード・ファウラー著、川島 めぐみ訳『山谷ブルース』(洋泉社)
高度成長の土木工事を支えた日雇い労働者が生きる「山谷」。ドヤに住み一緒に働いたアメリカ人が、克明な描写と聞き取りで、多様性と「自由」がある町、職場としての山谷を浮かび上がらす。男社会山谷を評した訳者後書きもいい。

藤田省三『戦後精神の経験 2』(みすず書房)、エドワード・ファウラー著、川島 めぐみ訳『山谷ブルース』(洋泉社)、結城 登美雄『山に暮らす 海に生きる』(無明舎出版)
山谷ブルース: 寄せ場の文化人類学
『山谷ブルース: 寄せ場の文化人類学』(洋泉社)著者:エドワード・ファウラーAmazon |honto |その他の書店
◇(3)結城 登美雄『山に暮らす 海に生きる』(無明舎出版)
「あんちゃん、気楽でいいな」といわれながら五十すぎの男が東北をうろついた記録。昆布からコケムシを洗い、木に登り漆をかく。それでナンボになるか。労働の手続きと経済がきちんととらえられ出色。

藤田省三『戦後精神の経験 2』(みすず書房)、エドワード・ファウラー著、川島 めぐみ訳『山谷ブルース』(洋泉社)、結城 登美雄『山に暮らす 海に生きる』(無明舎出版)
山に暮らす海に生きる―東北むら紀行
『山に暮らす海に生きる―東北むら紀行』(無明舎出版)著者:結城 登美雄Amazon |honto |その他の書店

【書き手】
森 まゆみ
作家・編集者。1954年東京都文京区生まれ。早稲田大学政経学部卒業。
東京大学新聞研究所修了。1984年、地域雑誌『谷中・根津・千駄木』を創刊、2009年の終刊まで編集人を務める。専門は地域史、近代女性史、まちづくり、アーカイブ。98年に『鴎外の坂』で芸術選奨文部大臣新人賞、03年に『「即興詩人」のイタリア』でJTB紀行文学大賞、14年に「青鞜の冒険」で紫式部文学賞を受賞。そのほかサントリー地域文化賞、建築学会賞(文化賞)他。著書に『「谷根千」の冒険』『女三人のシベリア鉄道』『海に沿うて歩く』『おたがいさま』『暗い時代の人々』『子規の音』など多数。

【初出メディア】
朝日新聞 1998年12月20日
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