◆書評委員が選んだ今年(1997年)の3点
◇(1)ジョン・クラカワー著、海津 正彦訳『空へ』(文藝春秋)
紀行をせっせと読んだ一年、ことにおもしろかった一冊。著者は難波康子さんが遭難した一九九六年五月、エベレスト登頂のロブ・ホール隊に雑誌特派員として参加、生還した。
登山の営利化、イベント化、メディア化の実態がよくわかる息詰まるドキュメント。

ジョン・クラカワー『空へ』(文藝春秋)、萩原 延壽『陸奥宗光...の画像はこちら >>
『空へ: エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか』(文藝春秋)著者:ジョン・クラカワーAmazon |honto |その他の書店
◇(2)萩原 延壽『陸奥宗光 上・下』(朝日新聞社)
『馬場辰猪』以来待っていた本。紀州の上士に生まれ、坂本龍馬の海援隊に加わり、新政府に出仕するも、立志社系の政府転覆計画に加担して下獄、さらに外交官として生きた「近代屈指のレアリスト」陸奥の起伏ある人生、「権力と理念にひきさかれた魂」を時代の中に彫り込む。

ジョン・クラカワー『空へ』(文藝春秋)、萩原 延壽『陸奥宗光 上・下』(朝日新聞社)、水原 冬美『パリの墓地』(新潮社)
萩原延壽集2 陸奥宗光上巻
『萩原延壽集2 陸奥宗光上巻』(朝日新聞社)著者:萩原 延壽Amazon |honto |その他の書店
◇(3)水原 冬美『パリの墓地』(新潮社)
パリにも掃苔(そうたい)家健在、と楽しく読んだ。ペール・ラシェーズ、モンパルナスなどの墓地に眠るバルザック、フーコー、サルトル。中には女美容師カリタや占師ルノルマン嬢も。簡潔でエスプリの利いたスケッチとなっている。

ジョン・クラカワー『空へ』(文藝春秋)、萩原 延壽『陸奥宗光 上・下』(朝日新聞社)、水原 冬美『パリの墓地』(新潮社)
パリの墓地: フランス文化の散歩道
『パリの墓地: フランス文化の散歩道』(新潮社)著者:水原 冬美Amazon |honto |その他の書店

【書き手】
森 まゆみ
作家・編集者。1954年東京都文京区生まれ。早稲田大学政経学部卒業。東京大学新聞研究所修了。1984年、地域雑誌『谷中・根津・千駄木』を創刊、2009年の終刊まで編集人を務める。
専門は地域史、近代女性史、まちづくり、アーカイブ。98年に『鴎外の坂』で芸術選奨文部大臣新人賞、03年に『「即興詩人」のイタリア』でJTB紀行文学大賞、14年に「青鞜の冒険」で紫式部文学賞を受賞。そのほかサントリー地域文化賞、建築学会賞(文化賞)他。著書に『「谷根千」の冒険』『女三人のシベリア鉄道』『海に沿うて歩く』『おたがいさま』『暗い時代の人々』『子規の音』など多数。

【初出メディア】
朝日新聞 1997年12月21日
編集部おすすめ