◆小さな記憶縫い合わせる
著者、久しぶりの短篇(ぺん)集。4篇を収める。
保坂和志さんの小説は、長篇『未明の闘争』以後、さらに先鋭化しているように感じてきた。唐突に(やや日本語の文法を逸脱して?)挟まれる「私は」の言葉、独特の句読点の打ち方。
たとえば冒頭に置かれた「夏、訃報、純愛」。いちばん短い小篇では、死んだ知り合い、猫、仕事で一度飲んだだけの「先生」の記憶のきれぎれが、縫い合わせるように語られる。
けっしてなめらかな文章ではない。だが、私たちの記憶は、少し違和感を醸すような、この文体みたいに繋(つな)がれているはず。読後、奇妙な感覚が残る。
保坂和志は、小説家が書いたことのない未踏の領域にいる。
【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。
【初出メディア】
日本経済新聞 2016年11月17日
【書誌情報】
地鳴き、小鳥みたいな著者:保坂 和志
出版社:講談社
装丁:単行本(226ページ)
発売日:2016-10-27
ISBN-10:4062202875
ISBN-13:978-4062202879