◇<1>村田沙耶香『世界99』上・下(集英社)
◇<2>シーグリッド・ヌーネス、桑原 洋子訳『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』(早川書房)
◇<3>鈴木結生『ゲーテはすべてを言った』(朝日新聞出版)
<1>村田沙耶香の主題の表現手段が更新された一つのターニングポイントは「殺人出産」「余命」「清潔な結婚」という中短篇3作が発表された年だ。いずれも人間の生(性)老病死のタブー、いわゆるパンドラの箱にあまりにストレートに切り込むもので、それが最新の大作『世界99』にもつながっている。
<2>作者がシモーヌ・ヴェイユの言葉を借りて提示した「あなたの苦しみは何ですか?」は個人でありながら連帯することについてずばり問いかけた。
<3>作者がゲーテの格言を借りて提示した「ジャムか、サラダか」は近代以降の個人主義と包摂性の矛盾と、これからのヴィジョンをひと言で表現していてみごとだった。日本にあまりないアカデミックノベルとしても秀逸。
『世界99 上』(集英社)著者:村田 沙耶香Amazon |honto |その他の書店
【書き手】
鴻巣 友季子
翻訳家。訳書にエミリー・ブロンテ『嵐が丘』、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ1-5巻』(以上新潮文庫)、ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』(河出書房新社 世界文学全集2-1)、J.M.クッツェー『恥辱』(ハヤカワepi文庫)、『イエスの幼子時代』『遅い男』、マーガレット・アトウッド『昏き目の暗殺者』『誓願』(以上早川書房)『獄中シェイクスピア劇団』(集英社)、T.H.クック『緋色の記憶』(文春文庫)、ほか多数。文芸評論家、エッセイストとしても活躍し、『カーヴの隅の本棚』(文藝春秋)『熟成する物語たち』(新潮社)『明治大正 翻訳ワンダーランド』(新潮新書)『本の森 翻訳の泉』(作品社)『本の寄り道』(河出書房新社)『全身翻訳家』(ちくま文庫)『翻訳教室 はじめの一歩』(ちくまプリマー新書)『孕むことば』(中公文庫)『翻訳問答』シリーズ(左右社)、『謎とき『風と共に去りぬ』: 矛盾と葛藤にみちた世界文学』(新潮社)など、多数の著書がある。
【初出メディア】
毎日新聞 2025年12月13日