◆心の揺れを正確に表現
詩人とは、言葉を摑(つか)まえる人のことである。中原中也賞を若くして受賞した詩人・最果タヒの初の小説集を読んで、その思いを強くした。
表題作は書簡の形式。地方都市で冴(さ)えない学生生活を送る「ぼく」こと山城翔太が、地下アイドル「ラブきみミキサー」のメンバー、愛野真実に送った、長い長い手紙である。
ぼくは真実ちゃんを応援することを生きがいにしていたが、ある日、彼女が殺人を犯したというニュースがネット上を駆け巡る。ぼくは、クラスメートの森下とともに、真相を探り出そうとするのだが……。
冒頭。「きみはかわいいだけだ。凡庸で貧弱な精神、友達だけが社会で、ぼくらのことを光のかたまりぐらいにしか見ていない。だからぼくは軽蔑が出来(でき)た。遠くにいたって踊っていたって、きみのことを好きだと思えたんです。どうして、人を殺したんですか」。
小説の構成要素は限定されている。人物たちの心中と会話に小説のかなりの部分が割かれている。
だが、彼らの、絶え間なく動く心の揺れを、最果タヒは、言葉として正確に表現し得ている。
【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。
【初出メディア】
日本経済新聞 2015年3月25日
【書誌情報】
星か獣になる季節著者:最果 タヒ
出版社:筑摩書房
装丁:文庫(192ページ)
発売日:2018-02-07
ISBN-10:4480435018
ISBN-13:978-4480435019