『日本近代文学との戦い―後藤明生遺稿集』(柳原出版)著者:後藤 明生Amazon |honto |その他の書店

◆晩年の小説家切実さ胸打つ
後藤明生が亡くなってから五年。ゴーゴリなどのロシア文学に裏打ちされた確かな文学観と、独特のユーモアは多くのファンを持っていた。


私はあまりよい読者ではなかった。折に触れて読む程度だった。だが、この本に収められている最晩年の小説、とりわけタイトルにもなっている短編集には、完全に打ちのめされた。後藤は、二葉亭四迷が書かなくなったことの謎に迫ろうとして、二葉亭と戦う。大学の講義でも戦う。ペットボトルを口飲みし、後ろを向いて私語する学生と戦う。回想の中で蝉と戦い、病気と戦った。

後藤は自分の日常を生きながら、複数の戦いをずっと続けていた。幻想的な部分も、学問研究的な部分もある。だが、すべてが小説になっている。

一読、小説のように見えないかもしれない。エッセイではないか、研究ではないか、と訝(いぶか)しく思うかもしれない。
だが、後藤明生という作家にとって、小説はこの形でしかあり得なかった。その切実さが胸に響く。もう少し、できればあと数篇、後藤の短編を読みたかった。遅まきながら、彼の不在が現代文学に深刻な影響を与えていることに思い到った。

【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。

【初出メディア】
日本経済新聞 2004年6月10日

【書誌情報】
日本近代文学との戦い―後藤明生遺稿集著者:後藤 明生
編集:乾口 達司
出版社:柳原出版
装丁:単行本(316ページ)
発売日:2004-04-30
ISBN-10:4840946027
ISBN-13:978-4840946025
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