◆自分の生活が安穏に感じる
笙野頼子さんの文章を読むと、自分の暮らしがいかに安穏としているかを思い知らされ、妙に尻が落ち着かない感じになる。笙野さんは戦っている。
あるいは猫を介して隣人と諍(いさか)いがある。編集者とのやりとりの中で行き違いもある。論争もあった。
そうしたすべてを避けがたく笙野さんは引き受ける。どうして逃げないのか。逃げようがないのだ。
では、身辺雑記風のエッセイなのかと言えば、まったくそうではない。この連作は立派な小説である。たとえば、「妻は時々男になってしまう。じっと床を見ていて三メートルぽんと飛ぶ。普通の妻よりも随分髭が濃い」。こんなラブリィな文章、やっぱり笙野さんでなくちゃ、書けないのである。
【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。
【初出メディア】
日本経済新聞 2004年7月22日
【書誌情報】
片付けない作家と西の天狗著者:笙野 頼子
出版社:河出書房新社
装丁:単行本(230ページ)
発売日:2004-06-18
ISBN-10:4309016405
ISBN-13:978-4309016405