二世帯住宅に住むということは、いずれ親の面倒を見る覚悟ができているからこそなのだろうか。少なくとも親側はそう思っているはず。
だが、子ども側は決してそういうつもりではないということもあり得る。

時は流れ、状況は変わる。二世帯住宅に住むときはそれを想定していなかったかもしれない。

■二世帯住宅に引っ越すことに
サオリさん(49歳)が結婚したのは35歳のときだ。現在は13歳と10歳の子がいて、夫とは共働きである。

「私は一人っ子なんですが、就職してからは一人暮らしをしていました。親は私の将来を心配して、私が30歳くらいのときに東京郊外の自宅を二世帯住宅にしたんです。こうしておけば、あなたが結婚しようと未婚で戻ってこようと、互いに自由に暮らせるでしょって」

親が自分の面倒を見てもらおうと思って二世帯住宅にしたわけではなく、サオリさんのことを心配して家を建て替えたのは本当だと彼女は思っている。だがその後、サオリさんが結婚して第一子が産まれたころ、夫の会社が吸収合併され、夫は子会社に転属を強いられた。

「夫は転職しようかどうしようか迷っていました。まだ30代だったし転職もありだと思いましたが、子どもが産まれたばかりだからためらっていたんです。そんなとき親が『こっちに住めば? そうすれば思い切って転職もできるし、あなたも早く仕事に復帰できるでしょ』と言ってくれた」

■円満に暮らしていたが
夫はそこまで甘えるのはどうかと言ったが、家賃がなくなるのは魅力というのが本音だった。
いずれ家賃も払うと親には言ったが、「むしろ孫育てを手伝わせてくれてうれしいのよ」と母はウキウキしていた。

「それからしばらくは互いに遠慮しながらだけど、なんとか円満に暮らしていました。階下は両親が、2階は私たちが使っていた。私は早めに職場復帰し、夫も転職先で自分を生かせる仕事につけて……」

玄関は一緒だが、キッチンもバスルームもそれぞれにあったから、互いのプライバシーは保たれていた。両親は仲がよく、二人で旅行することもあった。独立した2つの家庭が、「困ったときは助け合おう」という思いを抱きながら、それぞれ暮らしていたのだ。

■父の急逝で状況が変わって
ところが4年前、父が急逝した。70代半ばの母は急に老け込んだ。外に出掛けることも減り、笑顔も見せなくなった。

「それまでと同じように食事も別にしていたんですが、夫が『夕飯くらい一緒にした方がいいんじゃないか』と言いだして。母に言ったら、『どっちでもいいけど』と投げやりな態度でした。

父のいない寂しさを埋めることはできないけど、せめて私の子どもたちがにぎやかにしていれば母も少しは変わるだろうと思って、夕食は階下で作って一緒にとることにしました」

そこでサオリさんは、それまで抱いていた印象とはまったく違う母の生活を知った。
定年後、家事はほとんど父がしていたこと、母は料理に興味がないこと、さらに部屋が散らかっていても頓着しないことなどなど。

「私が子どものころの母がどうだったかあまり記憶がなくて。私、高校は都内の親戚の家から通っていたんですよ、近かったから。そのまま大学に進んで一人暮らしが始まったので、よく考えたら母と暮らしたのは15歳までだった。記憶を呼び起こしてみたら、そういえば母は家事が苦手だったかもと思いました」

■衛生観念のない母
彼女が特に気になっているのは、母の衛生観念のなさだ。ダイニングテーブルが汚れていると母はティッシュでごしごしこする。台ぶきんがあるのにどうして使わないのよとサオリさんは声を上げる。すると母は雑巾を手にとることもある。

「認知症が始まっているのかと思って医者に診せたこともあるんですが、どうやらそうではなく、衛生観念がおかしいのは昔からみたいです。母が食器を洗うと、だいたい汚れは落ちていない。お皿はしまわず水切りに入れたまま、洗濯も取り込むけど畳まずに部屋の隅に積んである。

ああ、そういえば子どものころそういう洗濯ものの山から服を選んで着て行ったことがあると思い出したくらいです」

たまには掃除機くらいかけたらと言うと、「お父さんの仕事だったからね」といなされた。
気づいたときにサオリさんが掃除機をかけている。ベッドのシーツ交換もめったにしないし、気になって洗面所をのぞいたらどうやら同じバスタオルを10日以上使っているようだった。

「ただ、最近、ようやく外に出る気になったようで、地域の趣味のサークルなどに出かけています。母は帰宅後、手洗いもうがいもしないと子どもたちから聞いたので、そこだけはしつこく注意していますが。そもそも衛生観念のない人と暮らすのはキツいですよね。今さらやはり食事は別にしようと言い出すこともできなくて……」

仕事に子育てに自分たちの居住部分の手入れなどサオリさんにはやることがいくらでもある。元気な母にもう少し頑張ってもらいたいと思うのは、過度な期待なのだろうかと彼女は深いため息をついた。
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