◆骨太な正攻法の『忠臣蔵』が令和の世に誕生◆

2025年12月の東京公演を皮切りに、年をまたいで2026年1月いっぱいまで各地で上演される舞台『忠臣蔵』が、いま幅広い世代から評判を呼んでいる。
 
『忠臣蔵』といえば、元禄時代(1702年)実際に起こった「仇討ち」事件を題材に、300年もの長きにわたって浄瑠璃、歌舞伎、小説、映画、テレビドラマなどで語り継がれてきた普及の名作「時代劇」ジャンルである。
これまで作られてきた膨大な作品群の中には、パロディ、翻案、善悪を入れ替えた新解釈ストーリーなどの変化球も存在するが、今回は堤幸彦・演出によって豪華キャスト陣がぶつかりあう、重厚なドラマと凄絶なアクションの正攻法~直球の『忠臣蔵』を志向。年季の入った時代劇ファンはもちろんのこと、『忠臣蔵』の物語を詳しく知らない若者の心をもゆさぶる、エモーショナルな舞台が創造された。
 
物語の中核を担う大石内蔵助役に上川隆也、そして大石を筆頭とする四十七士が目指す怨敵・吉良上野介役に高橋克典、大石の妻りく役に藤原紀香、「語り」を務める松平健と、映像や舞台で活躍する主役級がそろったほか、若手からベテランまで多彩な俳優たちがそれぞれの個性を最大限に発揮し合い、豪華絢爛な「オールスター時代劇」を盛り上げている。
 
本コラムでは、主君・浅野内匠頭の無念を晴らすべく吉良邸へと「討ち入り」を果たした赤穂浪士四十七人のひとりであり、歴代『忠臣蔵』作品でも人気の高いキャラクターとして知られる「堀部安兵衛」を演じる俳優「藤岡真威人」に注目してみたい。

藤岡は、俳優・武道家として有名な藤岡弘、の長男で、現在活躍めざましい若手俳優の注目株。連続ドラマ初主演を果たした『ウイングマン』(テレ東 2024年)のほか、『テッパチ!』(フジ 2022年)『あおぞらビール』(NHK 2025年)、『君とゆきて咲く~新選組青春録~』(テレ朝 2024年)など数々のテレビドラマにレギュラー出演。さらにバラエティ、映画、舞台、CM、写真集など、多彩なジャンルで個性を発揮し、人々の心をつかんでいる。映画『仮面ライダー ビヨンド・ジェネレーションズ』(2021年)では父・藤岡弘、がかつて演じた「仮面ライダー1号/本郷猛」役を受け継ぎ、幅広い世代から大いに注目されたこともある。

映画やテレビドラマで数多くの「ヒーロー」を演じてきた父の遺伝子を受け継いだ息子らしく、まっすぐで曇りのない目の輝きと「熱い闘志」を備えながら、令和の世を生きる現代の若者としての「繊細さ、明るさ、さわやかさ」をも表現できる俳優として、藤岡はさらなる成長を続けている。
 
『忠臣蔵』の舞台となる元禄時代は、武士であっても実際に人を斬った者がいない、天下泰平の時代であった。このような時勢の中にあって「高田馬場の決闘」に駆けつけ、叔父の助太刀を行った堀部安兵衛は、「剣豪」として世間の大評判を呼び、後世まで語り継がれた。そんな武闘派の侍・安兵衛が先頭を切って、城代家老・大石内蔵助と共に吉良上野介を討ちに行く……これこそ『忠臣蔵』の醍醐味であるといえよう。


吉良邸討ち入りを決行した赤穂浪士もまた、それまで人を斬った経験のない者がほとんどだったと史実に残っている。それは彼らを迎えうつ吉良の配下たちも同じであり、やがて来たる「有事」に備えて、吉良方は剣豪・清水一学を対抗馬として投入していた。

堀部安兵衛の設定年齢は33~34歳だが、演じる藤岡はそれより10歳以上も若い22歳(本公演中、12月28日に誕生日を迎えた)。パンフレットでのインタビュー(取材・鈴木美潮)で、安兵衛について「今までで一番難しい役」と語っている藤岡は「この役を演じ切ることで自分との勝負に勝てると思う」と闘志を燃やし、稽古に臨んだのだという。

観劇後、藤岡の事務所関係者に取材したところ、彼が安兵衛を演じるにあたって、かなりの「覚悟」を持って臨んでいたことがはっきりうかがえた。

>>>舞台での藤岡真威人をチェック!(写真10点)

◆「剣豪」役にチャレンジする息子・藤岡真威人に父・藤岡弘、が伝えたもの◆

幼少時より父・藤岡弘、から武道の手習いを受け、刀の扱いや構えなどの素養を備えてはいたものの、史実に残る「剣豪」の存在感を表現するのは、並大抵のことではない。約1ヶ月という稽古期間内でそれを成しとげられるのか、藤岡にとってこれはまさに「真剣勝負」だったという。実年齢より上の人物であることを意識して、発声から変えていくなど、役を自分のものにするべくあらゆる方向から工夫を重ねていった。

今回、父から改めて「侍」としてのたたずまいについての教えを受けた藤岡は、威風堂々とした風格や刀の抜き方といった細かな部分までも入念に鍛錬した上で、稽古に臨んだという。藤岡が父から受け継いでいる「藤岡流」は「型」ではなく「実践」を重視する古武道である。藤岡は父から伝授された実践的な刀さばきを身体に叩き込んだ上で、それを「舞台での動き」に置き換えてコントロールし、剣豪・堀部安兵衛と身も心も一体化するよう、気合を入れて相当な鍛錬を続けた。また武道の動きもさることながら、日本の伝統文化というべき武士道における「義の精神の重要性」を伝えられたのも、藤岡にとって大切なことであった。
「侍を演じるのではなく、堀部安兵衛というひとりの人間になりきれ」といった父からの訓示が、藤岡の精神的な支えになっていたようだ。

今回の舞台『忠臣蔵』での安兵衛は、元赤穂藩士・不破数右衛門(演:崎山つばさ)の「奇襲」に戸惑いながらも応戦するくだりや、自身とほぼ互角の腕前だと認め合うライバル・清水一学(演:近藤頌利)との宿命の対決など、相手と剣を交える激しいアクションシーンでの見せ場が多い。公演中、関係者から「長丁場の場面をこなすため、シーンによって、時には少し力を抜いたりして体力の調整をしては?」と提案された藤岡だが「自分は不器用なので、毎回全力でしかできません」と断言し、全ての公演に全力で取り組む気概を示したそうだ。
 
しんしんと雪が降りしきる中、次々に襲い来る吉良の家臣たちを倒していく安兵衛。途中、脚に刀傷を負いながらもひるむことなく戦い続けるその姿は、まさに鬼神の如し。少しでも気を抜けば自分が命を取られると知る安兵衛は、剣をふるっている間は決して余裕を示したりはしない。ただ、己の辛さ、苦しさをはね返すかのようにときおり「ニヤリ」と不敵な笑みを浮かべ、観る者に強烈な印象を残している。ノンストップで立ち回る藤岡の凄絶な身のこなし、精悍な表情、腹の底から絞られる声の迫力に圧倒され、観客が息を止め、手に汗握る瞬間が幾度も見られた。
 
討ち入りを決行した赤穂浪士たちは、吉良を討って本懐を遂げたとしても、みな切腹して死ぬことがわかっていた。それでもなお彼らは亡き主君・浅野の無念を晴らすため集結し、一致団結して戦った。そんな壮絶なる「忠義」の思いや、己の技を磨いて戦いの世界に身を置く「剣豪」という人物像を芝居や殺陣で表現した藤岡は、舞台上で強烈な存在感と「輝き」を放つ好演を成しとげたと断言していいだろう。
 
12月の東京・明治座公演にて、数右衛門の襲撃を受けるシーンのとき、走っている藤岡が袴の裾を踏んで転倒するアクシデントが起きた。
しかし藤岡は瞬時に受け身を取って、刀を持ったままクルリと回転して立ち上がり、スムーズに元の殺陣の動きへつなげたという。熱心なファンの目にも、演出だったのかアドリブだったのかがわからないくらい素早い動きをこなすことができたのは、藤岡の天性の資質と共に、入念に稽古を重ねていたおかげだといえよう。父・藤岡弘、から息子・藤岡真威人へと、「サムライの魂」は見事に継承されている。
 
東京、名古屋、高知、富山での公演を終えた舞台『忠臣蔵』は、1月24日から27日まで大阪「梅田芸術劇場メインホール」、1月31日に新潟「長岡市立劇場」にて上演される。

(文・秋田英夫)
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